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エピソード

自分の弱点の克服から学ぶ



 中学1年生の弘光君、小学校の算数から中学校の数学に変わり、
1年間数学を学習してきたものの、数学の成績がふるわず、自信を
失いかけています。


 お母さんがたまりかねて、私にアドバイスを求めてきました。
今度、学年末の統一テストがあります。その数学の範囲は一次方程式の
計算だけです。何とか子供に自信をつけさせたいのですが、どうすれば
よいのでしょうか。


 一次方程式はすでに学習済みの単元なので、私はまずその範囲内の
すべての計算の確認テストを行なうように言ったのです。そしてその
なかの間違った箇所をチェックし、その間違った計算のとき方を、
注意して見てほしいといいました。


 そしてそれが単なる計算ミスなのか、それとも一次方程式の解法の
手順がどこかおかしいのかを、お母さんに見てもらったのです。


 それが単なる計算ミスなら、その計算ミスは小学校算数の計算レベル
ができていないのか、中学校数学の正負の数の計算や文字式を簡単に
する計算が、できていないのかもしれません。一次方程式の解法の
手順がおかしいのなら、その手順を直さなければなりません。


 そして私はその間違った原因がわかれば、その計算の正しいやり方を
お母さんが子供に教え、その後、その類題問題で反復練習をさせるよう
言いました。



 今回の試験は範囲がせまく、一次方程式の計算だけだったので、
時間は十分あり、私は試験までにそれだけをやれば大丈夫だと判断
したのです。その結果はどうだったのでしょう。


 後日、お母さんからうれしい知らせが入りました。なんと弘光君は
その統一テストで満点を取ったということです。しかも満点を取った
のは、学年で3人しかいなかったといいます。


 一般に人は自分のレベルを、ある程度範囲を持って把握している
ものです。その水準のことを自我水準といいます。そしてこの自我
水準は上がったり下がったりし、上がるときは急上昇して、下がる
ときはなかなか下がらないものです。


 このときの弘光君がまさにそれです。今まで自分の弱点で、
ぜんぜん自信のなかった数学に関する自信が、急上昇したのだと
思います。彼はやればできるということが実感できたのでしょう。


 その後、中学2年生になって、彼は家の引越しで転校することに
なります。しかしそこでも、彼は大好きなクラブ活動を続けながら、
勉強にも力を入れるようになったのです。そして今度は中学3年生
になり、高校受験のときがやってきました。


 彼は数学の弱点を克服して以来、勉強もそこそこやるようになり、
高校進学は進学校をめざすようになっていきます。目指す高校は群制
の時に、県内トップであったこともある進学校です。


 しかし彼の目標は高いのですが、その学校の合格ラインには、
まだ彼の成績がついていっていません。転校した中学校の過去にも、
彼の成績ではまだその高校への進学実績がないということです。


 そして彼の志望校選択はその中学校の職員会議にもかけられ、
無理だという結論になりました。


 私は弘光くんのお母さんからそのとき、また相談を受けることに
なりました。学校や彼の家庭教師の先生が言うように、志望校を
1ランク落としたほうが、よいのかどうかということです。

 
 それで私は彼にまず入試直前の模試を受けさせることにしました。
そのとき私は本人の気持ちも同時に聞いています。そして模試の
結果はやはり彼の周りの人が言うように、志望校を1ランク落とした
ほうがよいような結果でした。


 私は模試が終わってから本人の気持ちを聞いた後、弘光くんに
自分が高校に入ったときに、後で自分が後悔しないほうを選ぶよう
アドバイスしています。


 それは自分がその学校の入試を受けたことを後悔するのか、
受けなかったことを後悔するのかを考えてみて、後悔しないほうを
選択してほしいということなのです。

 
 それを聞いた彼の選択は受けなかったことを後悔したくないと
いうことで、その進学校の入試に望むことになりました。そして
その結果は周りの大体の予想に反して見事合格です。


 このことがあって彼の自我水準はますます急上昇していきます。
高校3年間、中学と同じ水泳部で大好きなクラブを続けながら、
勉強も中学の時より、自分からやるようになったのです。


 そして3年後、今度は大学受験がやってきます。彼の志望大学は
意外にも、なんと国立大学教育学部の数学科なのです。私はそれを
聞いて一瞬、彼の中学一年生の時に、数学の一次方程式のつまずきを
克服したことを思い出しました。

 
 彼の将来の夢は小学校の先生になって、水泳を教えることだと
いいます。それで再び私は彼とかかわることになったのです。


 高3の3学期、大学入試センター試験が近づいてきて、彼は
数1・Aと数2・Bは何とかわかるが、数3・Cがわからないので、
どうしようと言ってきます。


 その大学の入試科目の数学は前期試験は数1・Aと数2・Bの
センター試験のみなのですが、後期試験には数3・Cの記述試験が
課せられることになっているのです。


 それで私は後期試験のことは考えずに、前期試験で合格が決まる
よう数1・A、数2・Bの基礎を徹底的に、固めることをアドバイス
しています。これは私の自らの大学入試の経験からのアドバイスです。

 
 そしてむかえた国公立大学前期試験の結果は、どうだったかというと
またもやうれしい知らせでした。 彼はこの大学だけでなく難関私立
大学にも合格をはたしています。


 ここでも彼の自我水準はあがっています。そして彼は4年間、
国公立大学教育学部数学科で子供の教育について学び、さらに
水泳部に所属して、水泳の指導者を目指すことになったのです。


 そして4年後、彼は教員免許を取得し、教員採用試験を受ける
事になります。しかし彼は大学在学中に採用試験に合格することが
できず、卒業して2年間高校の常勤講師を続けながら、再度採用試験に
チャレンジすることになったのです。


 それでも彼は3度目の採用試験にも合格できず、3年目にはいって、
今度は講師の職もなくなり、1年間、水泳のコーチの仕事につきながら、
教員採用試験に最後のチャレンジをすることになります。


 彼の気持ちの中では今年が最後の挑戦であったため、教員採用試験の
他にも警察官採用試験を受けています。そして先に試験のあった警察官の
採用試験には一発で合格です。


 それでも彼は教師への夢のほうが強く、今年最後と決めていた教員
採用試験は県内の採用試験だけでなく、県外の採用試験にもチャレンジ
しました。


 そしてその結果はうれしい知らせです。2つとも合格したという
知らせが入ってきました。これでやっとかれは彼の夢であった教員に
なることができるのです。


 そして今年3月、彼は今年4月から自らが志願した公立高校へ、
正規の教員として赴任することが決まりました。そして同時に、
彼はその学校の水泳部の顧問にも決まっています。




 

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