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学習効果をあげる記憶のメカニズム


 ここでは学習効果が上がり自分の立てた高い目標を達成
して、受験に合格していく人たちと、あともう一歩のところ
でおよばない人たちとの違いは、一体どこにあるのかについて
考えてみます。


 もちろん学習効果がどんどん上がっていく人のなかには、
生まれながらの才能や適性に恵まれている人もいるでしょう。
しかし普通の人たちでも努力や工夫しだいで学習効果が上がり、
自ら立てた高い目標を達成していく人たちはたくさんいます。


 そういう人たちに共通して言えることは、自分がどうすれば
学習効果が上がっていくのかということを、こうすればできると、
からだで知っているのです。


 まず気づくことはそういう人たちはみな記憶がいいという
ことです。学習には知識や技能を習得するために記憶することは
欠かせません。いろいろな情報を記憶することで、知識の絶対量が
多くなるのです。


 それでは学習効果が上がる人は知識の絶対量をふやすために
どういうことをしているのでしょう。


 一般に記憶されたことは24時間後に7割に、72時間後には
2〜3割に、一週間後にはほとんど忘れてしまうといわれています。
 そういう状況下で、学習効果をあげるには知識の絶対量を確実に
ふやしていかなければなりません。


 記憶したことを忘れないためには、覚えたことを忘れてしまう
時期に、効率よく復習を繰り返さなければならないのです。覚えた
ことを忘れてしまう3日後、1週間後、1か月後などの時期に、何度も
復習を繰り返します。新しく習ったことは月に3〜4回の割合で
復習が必要なのです。


 短期記憶はすぐに忘れてしまいます。しかし何度も繰り返しリハーサル
することで、忘れてしまう情報の短期記憶であっても、それを長期記憶
として脳の中にコード化し整理して保存することができるのです。一度
覚えてしまった記憶はなかなか忘れません。


 一般にすぐに忘れてしまう短期に記憶される内容は、意味の
あるまとまり7つまでといわれます。それ以上は記憶として
残らないのです。


 たとえばランダムの電話番号で、326−9872をメモ帳
から調べ、電話をかけたとします。この7つの数字は電話を
かけるために、そのときは記憶されるものの、相手と話している間に
すっかり忘れてしまうのです。


 それを長期記憶として脳に記憶させるためには、反復繰り返して
覚えなければなりません。知識がどんどん増えていく人はこれを
常に意識しています。


 さらに記憶させるときに、先ほどの電話番号を例にとると、
小学一年生ならランダムな7つの数字として、一つ一つを記憶
していくことになります。しかし九九を学習した小学2年生になると、
「さにがろく」「くはしちじゅうに」というふうに、これらの情報を
2つの意味のあるまとまりとして認識し、記憶しているのです。


 こうして反復繰り返し記憶された情報は、知識として長期記憶される
ことになります。


 次にこの長期保存された内容が想起されるとは、どういう状態になる
ことをいうのでしょう。先に述べた電話番号が異なる7つの数字
として認識し、記憶されたものは、その一つ一つの数字をよみがえらせて
いることになります。


 しかしあとで述べた九九で記憶された電話番号は、7つではなく、2つの
意味のある内容として想起されます。これは7つが断片的に想起される
のではなく、意味のある2つの内容として想起されるのです。


 認知心理学では何かの問題を解いたり、思考したりするときには
ワーキングメモリという作業場所でおこなわれるとされています。長期記憶
としてコード化された情報は、いったんここへはいってくるのです。しかし
ここで処理できるのは、先ほど言った意味のある内容が7つ分だけだと
いわれます。


 ひとつの答えは長期記憶から引き出された意味のある7つまでの
情報をもとに、ワーキングメモリで加工され、出力されることになるのです。


 短い7つ分の情報を処理するより、1つが長くても意味のある2つ3つの情報を、
処理するほうが、ワーキングメモリにはまだ余裕があることになります。


 たとえば歴史年表を考えてみます。1894年:日清戦争、
1904年:日露戦争、1914年:第一次世界大戦。これらが
ランダムに長期記憶されていると、それぞれが単独に想起され、
ワーキングメモリでは意味のある内容3つ〜6つ分として処理されます。


 しかしこれらを長期記憶させるときに、この時代の人たちは、
10年おきに戦争がおきて大変だったのだと思いながら記憶
させれば、意味のあるまとまりひとつとして長期記憶されることに
なるのです。したがって想起されるときにもやはり1つ分になります。


 ワーキングメモリではこれら想起された情報をもとに、問題を
解いたり思考したりして、情報を加工していきます。情報の数が
少なくて問題解決できる場合のほうが、ワーキングメモリに負荷が
少なく、余裕がある事になるのです。


 問題解決する時には、学習効果が高くなるほど多くの枠組み
(スキーマ)をもち、それを使って処理することが多くなります。
さらにこの問題解決に使われた枠組み(スキーマ)は、形を変え
複雑化し、新たに長期記憶されることになるのです。


 世の中には問題を見てすばやく解答できるひとがいます。この人たちは
学習効果の非常に高い人だと言えます。問題を解決するための枠組み
(スキーマ)をすでに持っている人たちなのです。今まで長期記憶してきた
多くの情報を複雑にからめあわせながら、瞬時に想起し枠組み(スキーマ)
に当てはめ、その問題を解決する答えを引き出しているのでしょう。


 こうしてみると学習効果の高い人は日ごろからこつこつと、体系的な
情報を効果的に長期保存させていることがわかります。、問題解決の
ための枠組み(スキーマ)をすでに数多く持っているのです。 


 また学習効果の高い人はテストを行なうと、ミスが少なく解答率も高い、
しかも制限時間内で問題を処理してしまうのです。時間的に見直す余裕
さえあります。


 それに対して学習効果の低い人は、ミスが多く解答率も低い、しかも
制限時間ぎりぎりか、足らないくらいなのです。見直す余裕などほとんど
ありません。


 つまり学習効果の高い人は、学習を高めてくれるこの記憶のメカニズムを、
体で知っているのです。ですからこれらの人は多くの情報を長期記憶
させるための学習時間を多くつくることをいとわないのです。


                               
 私はあなたがこのメカニズムを知って、何らかの形で自らの学習に
取り入れていけば、より効果の上がる勉強法を、きっと見つけられる
のではないかと思います。


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