2002年7月の読書感想



書名 ロカノンの世界
原題 Rocannons World(1966)
著者 アーシュラ・K・ル・グイン
訳者 小尾芙佐
出版 ハヤカワ文庫SF(1989/05/31)
分野 SF

「全世界連盟から派遺されたフォーマルハウト第二惑星調査隊は、隊長のロカノンを残して全滅した。
この惑星にひそむ連盟への反逆者が、調査隊を襲ったのだ。
なんとかこの事実を母星に知らせようとするロカノンだったが、通信装置を破壊されてしまっていた。
使用可能な装置は調査隊を攻撃した反逆者の手もとにしかない。
ロカノンは、この星のヒューマノイド−−風虎に乗り、空を翔けるアンギャール族の協力を得て、未踏の大陸の果てまでも反逆者を捜し求めるが……
その後のル・グィンの物語世界の基調をなすSF界の女王の記念すべき長篇第一作!」

裏表紙作品紹介より

者の長編第一作にしてハイニッシュ・ユニヴァース シリーズの第一作です。
冒頭のセムリの首飾りは元々独立した短編だったものですが、おとぎ話とSFが見事に融合していて感心する。
現地に住む人達にはおとぎ話にしか見えない物語も、外の世界の人であるロカノン達には別の世界が見えてくる。
ただ後書きはこの短編部分の話の骨子が何がネタバレしているので先に読まないほうがいい。
私は先に読んで失敗してしまった。
セムリの首飾りの章が終わった後もロカノンの冒険小説として楽しめる。


書名 魔の都の二剣士
原題 Swoeds and Deviltry(1970)
著者 フリッツ・ライバー
訳者 大谷圭二
出版 創元推理文庫(1977/10/20)
分野 ヒロイック・ファンタジー

「大の字なりに地上へ倒れたふたりの夜盗を挟んで,ファファードとグレイ・マウザーは対峙した。
名高きいにしえの都ランクマーを根城に,猛威をふるう<盗賊結社>の上前をはねんとて闇夜に遭遇したこのふたりにとって,それはまさに運命の邂逅であった。
かくして,彼らの前に待ち受ける盗賊の一団や妖術師との凄絶な戦いが始まった。
剣と魔法の世界ネーウォンを舞台に、ふたりが織りなす大冒険絵巻の開幕。
作者ライバーを代表する雄大なヒロイック・ ファンタジー!」

扉作品紹介より

ライバーのヒロイック・ファンタジーファファード&グレイ・マウザーシリーズの第1巻
私はSFよりもヒロイック・ファンタジー系の作品(含む火星シリーズ)から先に親しんでいたので、前々から存在は知っていたのだが、見向きもしていなかった。
なぜなら、数年前までライバーは避けて通っていたのです。
『ビッグタイム』はわけわかんないし、『闇の聖母』はSFとは思えなかったし。

「この作家は自分には合わない」と早い段階で決めてかかっていました。

昨年後半にムアコックのヒロイックファンタジーを読んで以来ヒロイックファンタジー好きが復活しているので今回始めて読んでみたのです。

面白かったです。

ムアコックの思い悩むヒーローもいいですが、”普通の兄ちゃん”系のヒーローもいい。
ただ、1巻は作品導入部的な性格が強いようなので、続刊では”普通の兄ちゃん”的なキャラクターではなくなってゆくことでしょう。
それと普通といってもコナンほど素直な性格(悪口じゃないぞ、僕はコナン党だから)ではなく、導入部の今巻において、2人とも既にかなりヒネています。

3作の短編が収録されていて。
「雪の女」はファファードの紹介編。
「灰色の魔術」はマウザーの紹介編。
「凶運の都ランクマー」は2人の出会編。
となっています。

このシリーズは加藤隆史さんより前もって「1巻はつまらないから、そこで躓いてはいけません」と警告されていたので、そのつもりで読んだのですが。

「あれ??、面白いよ、真っ当なヒロイック・ファンタジーじゃないか?。
2巻以降面白くなるとしたら、今後どれだけ面白くなるんだ??。」
と思いました。
その面白いと感じたのが最初に出てくる「雪の女」で、”ヒネリのないヒロイックファンタジー”で良いと思うのですが、たぶんこれで躓く人もいるんじゃないかと思いました。

「灰色の魔術」はさほど感銘を受けませんでした。
「雪の女」と「灰色の魔術」を通じての感想が”女は恐い”。コレがが不適切な感想であることは、「凶運の都ランクマー」でわかります。

「凶運の都ランクマー」は”ヒューゴ賞”、”ネビュラ賞”受賞作品です。
正直なところ、なぜこんなのが、ダブルクラウン?、つまんねー。
と思いながら読んでいました。
が、最後まで読んだ結果、”凄かった”です、さすがだ。
でも恐えーよ。

今回驚いたのですが、このシリーズは版元品切れのようです、古書店ではよくみかけるので、現役の本とばかり思っていました。
ムアコックのヒロイックファンタジーでさえ『エルリック』しか生き残っていないことを考えると、今はヒロイック・ファンタジーの時代ではないんですねえ。
訳されていない4巻以降が読める日は来そうにないなあ、読みたいんだけど。


書名 惑星スパルタふたたび
原題 Find the Lady(1984)
著者 A・バートラム・チャンドラー
訳者 野田昌宏
出版 ハヤカワ文庫SF(1984/07/31)
分野 SF

「無事惑星総督の大任を果たしおえ,しかも船長資格までとりもどしたグライムズは、一路惑星スパルタへと向かった。
彼の持ち船<シスター・スー>の次の立ちより先がそこだったからである。
例の一件で船長資格を剥奪され,泣く泣く船と別れをつげたグライムズだったが,これでふたたび,船長として愛しの<シスター・スー>に乗りこめるのだ!
しかもスパルタといえぱグライムズにとって想い出深い惑星である。
かつてめんどうをみたプラシダスも,いまでは執政官になっているという。
こんどばかりはトラブルにまきこまれることもあるまい……と,思ったのだが!?」

扉作品紹介より

宇宙船乗りとしての資格を取り戻したグライムスですが、結局地上でのゴタゴタに巻きこまれ、宇宙への復帰はかないません。
グライムズの行くところにトラブルが発生するのか、トラブルのある所にグライムズが行くのか?。
最後には”シスター・スー”の船長に復帰するので、安心してスパルタでの事件の顛末を楽しもう。


書名 この人を見よ
原題 Behold the Man(1968)
著者 マイクル・ムアコック
訳者 峯岸久
出版 ハヤカワ文庫SF(1981/08/31)
分野 SF

「現代社会が生んだ、病める神秘主義者カール・グロガウアーは、キリストの生涯に異常ともいえる執着をおぼえていた。
彼は、市井の科学者の手になる未完成のタイム・マシンを入手するや、キリストの最期を見届けるべく、過去へと旅立った。
目指すは西暦29年、場所はエルサレム。
だが、彼が見たのは、意外なキリストの姿だった!
はたして、歴史は虚言なのか?それとも……?
過越しの祭のさなか、やがてゴルゴダの丘に十字架の立てられる運命の時が刻一刻ときざまれてゆく……
イギリスSF界の奇才ムアコックが描く、ヒューゴー賞受賞に輝く問題中篇の意欲的長篇化作品!」

裏表紙作品紹介より

中篇より書き足されたのは、主にグロガウアーの生い立ち部分です、グロガウアーのとった行動の理由などの部分を肉付けしようとしたものだと思うけど。
はっきり言って蛇足だ。
キリスト教など、どうでもいいと思っている私にとっては原型となる中篇自体が平凡な作品にすぎない。

どうせなら、革新的なキリスト観を打ち出して欲しいものだ。
それがSFってものじゃないのか。

と書いておいて、今更ながら気づいたのだが、キリストを絶対視する人達にとっては、これは、革新的なキリスト観だっただろうと想像できる。
原型中篇がヒューゴー賞受賞したのも、むべなるかな。


書名 われら顔を選ぶとき
原題 Today We Choose Faces(1973)
著者 ロジャー・ゼラズニイ
訳者 黒丸尚
出版 ハヤカワ文庫SF(1985/07/15)
分野 SF

「11月の寒い土曜の夜、マンハッタンのクラプを一歩出たおれ、”天使のアンジー”は、何者かに狙撃され、絶命した。だが、肉体にただちに冷凍処置のほどこされたおれが目覚めたのは、遥かな未来の地球だった,名うての暗殺者として鳴らしたおれの力量を買って、わがファミリーの子孫たちはおれに、”仕事”をもちかけた一一一
惑量アルヴォに拠を構え、ファミり一に敵対するスタイラーを殺せというのだ。
だが、苛酷な訓練を終えてアルヴォヘ潜入したおれを待っていたのは……?
俊英ゼラズニイが、人類の未来を賭した壮大な戦闘を、緊密な構成と華麗なイメージで描きだす傑作SF!」

裏表紙作品紹介より

スリルがない、スピードがない、サスペンスがない。
やっぱりゼラズニイとの相性は最悪みたいだ。

裏表紙の作品紹介を読んだ時は、これは面白そうだと、ピンときたのですが。
「人類の未来を賭した壮大な戦闘」って話じゃなかった、全然違った。

これのどこが、「人類の未来を賭した壮大な戦闘」なんだー。


書名 沈んだ世界
原題 The Drowned World(1962)
著者 J・G・バラード
訳者 峯岸久
出版 創元推理文庫(1968/02/16)
分野 SF

「世界は溺れていた。
数十年も前からつづく一連の地球物理学上の変動のため、20世紀に栄華を誇った世界の主要都市は大半が水の底に沈み、地球の表面は高温多湿の水浸しの世界となっていた。
国連調査部隊イギリス隊に加わった生物学者ケランズは、激変した動植物の形態を調べつつ、水没した都市を遍歴していくのだか……。
英国ニューウェーヴSFの旗手が描破する、世界終末の姿!」

扉作品紹介より

原因は異なれど、現実もだんだん、この小説の事態に近づいているってことが、戦慄に近いものを感じさせる。
自国の利益だけのために、行動する、海の向こうの、身勝手な某大国をなんとかしてください。って所か。

バラードの長編としては初期の作品にあたるが、1987年発表の『奇蹟の大河』と比べて、作品全体から受けるイメージはあまり変ってないと感じました。
私の読んだバラードは新しくてもせいぜい1987年発表作なので、もっと新しい作品がどうかってことは解らないのですが。

廃墟と、虚しさを感じさせる、そこで行動する人々の話。

この時期において既に完成された作家だったみたいです。
ただ『ヴァーミリオン・サンズ』や『奇蹟の大河』で感じた退廃感だけはあまり感じなかった。


書名 異次元への冒険
原題 Costigan's Needle(1953)
著者 ジェリイ・ソール
訳者 仁賀克雄
出版 ハヤカワ文庫SF(1970/11/30)
分野 SF

裏表紙作品紹介より

読むに耐えないというのはこのことかってぐらい酷い小説でした。
マッドサイエンティストがたまたま異次元への通路を開きました、事故で何人かまとまって異次元に送られました。ってだけの話で。
なぜ、異次元への通路が開いたか、全く説明がないのが致命的だ。
読み返すことはないと断言できる。


書名 群青神殿
著者 小川一水
出版 ソノラマ文庫(2002/06/30)
分野 SF

「俊機とこなみは、最新のソナーやカメラを傭えた試掘艇の乗員。
二人の任務は、海底に眠る新世紀の燃料メタンハイドレートを探すこと。
海の大好きなこなみの勘が優れているのか、MH層の発見は順調に進んでいた。
だが、支援母船に戻った二人は、海上保安庁から大型沈没船の調査を依頼された。
地球生命の母なる海が、人知が及ばない姿を見せ始めた。」

裏表紙作品紹介より

海洋冒険小説としても良い出来だし、SFとしても良い出来だ。
登場人物達も、YA文庫によくあるような(これは偏見か?)不自然なまでにディフィルメされたキャラクターにもなっていないから耐えられる。
価格も安いし(552円+税)。
これ以上何を望むことがあろうか。
読んでいない人は買おう、買って読もう。

この小説の状況だと襲われた船舶の的になる部分はその時点で硬質になっているはずだよね、なぜあっさり穴が開く?。


書名 真説 関ケ原合戦
著者 桐野作人
出版 学研M文庫(2000/09/13)
分野 歴史

歴史の本を読むなら、小説じゃない本を読みたいと思う。
この本は著者が関が原の戦いについて色々考察したことについて書いてある。
関が原について興味のある方にはきっと面白いはず。
私は第二次世界大戦以外にはとことん興味がないんだなと、読みながら思った。


書名 特集・本の雑誌1 出版業界編
編者 本の雑誌編集部
出版 角川文庫(1995/11/25)
分野 その他

本の雑誌に掲載されていた記事の再録本です。
読んでどうなるという内容でもないけれども。
読んだブックガイド編より面白かった。

下読みのシステムについての記事が面白かった。
小説新人賞などでは、あらかじめ下読み委員が目を通して最終候補作を決めるのですが。
概算でダンボール箱5〜6個分の候補作を2ヶ月弱の間に読まなければならないそうだ。
こんな仕事はやりたくないなあ、全く。


書名 木星強奪
原題 The Jupiter Theft(1977)
著者 ドナルド・モフィット
訳者 大西憲
出版 ハヤカワ文庫SF(1990/09/30)
分野 SF

「月面の研究所が、白鳥座方面に未知のX線源を探知した。
観測の結果判明した事実は、恐るべきものだった一一
このX線源はブラックホールや中性子星などの通常の天体ではなく、木星に近い大きさの物体であり、しかも光速の98パーセントという速度で太陽系にむかって突き進んでいるのだ!
これだけ途方もない放射線源が太陽系内を通過すれば、地球上の動植物は残らず絶滅し、太陽系全体も壊滅的な打撃をこうむることになる。
残された時間は約6カ月。
宇宙的規模の死刑判決を前にした人類には、なすすべもなかった……
気宇壮大な宇宙ドラマの開幕」

裏表紙作品紹介より

忘れられた過去のSFには、忘れられるだけの理由がどこかにあるはずで、『異次元への冒険』(私の感想)とか『時のロスト・ワールド』(私の感想)などを読んでいると見境なくSFを読もうとする行為がばからしくなってくるし、無駄な時間の費やし方をしているのではないかと思えてくる。
話題になっているSFだけピックアップして読めばいいじゃないか。

しかし、沢山読んでいると、評判が悪い、あるいは評判すらたっていないSFの中にも、私の感情を心の奥底から揺るがせてくれる作品が出てくるのだ。
バクスターの『虚空のリング』(私の感想)が良い例だ。
「SFファンであることが幸せです」

私はモフィットの名前を聞いたことしかありませんでした、読んだことは当然ありませんでした。
彼のほかの作品名『創世伝説』、『星々の聖典』などの名前を見るたびにB級テイストの香りが漂ってくるようで、「読みたくない」と思っていました。
覚悟を決めて読んでみましたが。

もう一度「SFファンであることが幸せです」

強引なところがいい、恒星間を旅するのに、超科学を使うのでなく、こんな乱暴な手段を使うなんて。

その強引さに、痺れる、痺れるよ、モフィット。
もうメロメロです。

言葉が通じるようになっても、それで相互理解できるわけではないと、思わせてくれる異星人もいい。
「僕らの木星を持ってくんじゃねー、このヒトデナシー」と叫びたくなっても、もちろん聞く耳なぞ持たず、何匹かの人類を彼らの動物園に入れてくれるのでした。

謎につつまれた彼らの行動基準や、生態を頭のいい学者さんが推測してくれます、その推測する理由が納得できることなので、フムフムと頷かせてくれますが。
真実がどうなのかは、不明のまま終わります、本当そうに見えても、実は見当違いの解かもしれない。
そんなものでしょう、謎を秘めつつ終わるのもいい。
(人々は全て解ったつもりでいるけど。)

問題解決に際して、都合良すぎるんじゃない?と思えるほど、便利な手助けが介入してくるのが瑕かなあ。

気に入ったのでモフィットの『創世伝説』も読みかけている所ですが、今の所とても良い感触です。
そうなだけに、「なぜ、この作家の小説が全て品切れ状態なのか?」という疑問が湧いてきます。
なぜなんだろう?。

サイバーパンクの波に埋もれて目立てなかったのかもしれない。

派手な大仕掛けのわりに、荘厳さや神秘度が足りないのかもしれない、『木星強奪』でいえば、木星強奪のシーン、など、壮大で美しく哀しみや悔しさに満ちた、登場人物達の胸を打つようなシーンになっていても、いいようなものだが、この作品の文章からは、どことなくコミカルな感じまで伝わってくる。
それが軽んじられる理由かもしれない。

あまりにも解りやすいストーリーがいけないのかもしれない。
こまやかな人の心の機微の描写を求める人にも向かないと思う。

色々欠点はあるみたいですが、私は気に入った。
ホーガンやニーヴンの新作がもっと欲しいよという人に勧めたいと思う。
最大の欠点は既に品切れなことだ、古書店ではよく見かかるので、探してみて欲しいと思う。


書名 創世伝説
原題 The Genesis Quest(1986)
著者 ドナルド・モフィット
訳者 小野田和子
出版 ハヤカワ文庫SF(1990/12/31)
分野 SF

「満天の星空のもと、知的生命探査のため、遙かな銀河を仰いでいた無数のパラボラアンテナが、突然ひとつの信号を受信した。
ついに異星知的生命と接触したのだ!
3700万光年の彼方から人類が発信したメッセージを受け取ったのは全身黄色で、上肢下肢それぞれ5本ずつを有する十肢生物ナーだった。
かれらは、メッセージにあった遺伝子情報をもとに、人間をまるごと創りあげるきわめて困難なプロジェクトに着手する……!」

裏表紙作品紹介より

モフィットはハードSF作家としては谷甲州の対極にいる作家のようにも思える。
ひとつのSF的アイデアがあったとして、谷甲州ならその実現に対して工学的に、一歩づつ地歩を固めながら、そのアイデアが実現する過程を描写してゆくのではないだろうか?。
ホーガンもまた似たようなスタンスを取るのではないか。

所がモフィットは違う、「異星人が送ってきた遺伝子情報をもとに異星人を創る」などという、魅力的な設定を考えつきながら、異星人のメッセージを受け取るプロローグが終わって、第一章が始まると、既に異星人(人類のこと)は生まれていて、代を重ねています。

私は本当に期待する方向から微妙にずれているよ、モフィット。
なぜそんな壮大なアイデアを、そんなに軽々と扱う。

と一瞬そう考えたのですが、 私が間違ってました。
次から次へと発生する技術的なブレークスルーも、その説明を読んでるだけで楽しいし。
ストーリーも面白い。
バクスターが苦手な人もこれなら大丈夫だろう。

「3千7百万光年の距離ともなると、どんなに収束したビームでもかなり拡散するんだよ。これほどの信号電波を搬送するのに必要とされたエネルギーは、とてつもなく膨大なものだったはずだ。我々は、彼らがひとつの星をそっくり囲いこんで変調電波送信器にしてしまったのではないかと考えている。いったいどうやって、そんなことをなしとげられたのか、我々には想像もつかない。それに、何が動機でそれほどのエネルギーをつぎこんで遺言を送信したかも謎だ」
これだけの文章で感動する。
いい作家だなあ。


書名 第二創世記
原題 Second Genesis(1986)
著者 ドナルド・モフィット
訳者 小野田和子
出版 ハヤカワ文庫SF(1991/04/30)
分野 SF

『創世伝説』の続編です。
大抵の場合続編ってのは、前の作品よりつまんないのが相場ですが。
続編のこちらの方が面白いよ。どうなってんだよモフィット
相変わらずアイデア満載だし。
さあ、もう一回言うぞ。
「SFファンであることが幸せです」

しかし、この作家の小説が現在全部品切れってことは、売れなかったってことなんだが。
何がいけなかったのかねえ。


書名 カウント・ゼロ
原題 Count Zero(1986)
著者 ウィリアム・ギブスン
訳者 黒丸尚
出版 ハヤカワ文庫SF(1987/09/30)
分野 SF

「新米ハッカーのポビイ、別名カウント・ゼロは、新しく手に入れた侵入ソフトの助けを借りて電脳空間に没入していた。
だが、ふとしたミスから、”黒い氷”と呼ばれる防禦プログラムの顎にとらえられ、意識を破壊されかけてしまった。
そのとき、思いがけないことが起こった一一
きらめくテータの虚空のかなたから、神秘的な少女の声がきこえてきたのだ!
ボビイは必死で電脳空間から離脱しようとするが…!?
SF界の話題をさらった『ニューロマンサー』と同じ世界を舞台にして、前作をはるかに上まわる衝撃的なヴィジョンを展開した、ファン待望のキプスンの長篇第二作登場!」

裏表紙作品紹介より

「衝撃的なヴィジョン」って言うけど、モフィットの小説と比べるとスケール小さすぎだよ。(←オマエノ、スケールが大きいってのは、寸法がデカイってコトナノカ?。  うん、今はソウダ)。

未だモフィットの小説読んだ余韻がおさまってないので、ギブスンどころじゃないんだけど。
電車の中の時間は有効に使わなければいけないので、読んだが、頭の中は半ばモフィットの小説を反芻している状態だった。
モフィットはいいなあ。超科学を使わずとも、あれだけスケールの大きい物語を力技でゴリゴリと作り上げてくれるんだもんなあ。

真面目に感想を書くと、今となっては、もう衝撃度は薄れているのではないか?。
ギブスンも偉大すぎて模倣者が多すぎたんじゃないのかなあ。
ストーリーや文章は際立ってスタイリッシュな感じはするけど。
何と言うか普通だねー。


書名 星の秘宝を求めて
原題 The Star Treasure(1971)
著者 キース・ローマー
訳者 冬川亘
出版 ハヤカワ文庫SF(1979/10/31)
分野 SF

「土星の環を構成する無数の星間物質。
そのひとつ、小さな岩石のかたわらに一人の男の体が浮かんでいた。
前方に腕をつきだし開いたフェイスプレートからは浅黒い奇妙な結晶状の花が咲いている一一
それが、統一惑星海軍士官タールトンが見つけた友人の無惨な姿だった。
誰が、何の理由で彼をこんな目にあわせたのか?
真相をつきとめるべく活動を開始したタールトンは、やがて全太陽系を席巻する陰謀の渦にまきこまれていった……
見えない運命の糸に操られ、宇宙をさまよいながら冒険を重わていく男の物語りを、才人キース・ローマーがハードSFの味つけでえがいた傑作長篇。」

扉作品紹介より

1971年にもなって、なんのひねりもないスペースオペラが発表されているのにちょっと驚く。
紹介文には「ハードSFの味つけ」とあるが、そんな隠し味は微塵も感じられなかった。
280ページ程度の手ごろな厚さの本なので、一時の退屈しのぎ用にはちょうどいいのだろうけれど。


書名 遥かなり銀河辺境
原題 The Wild Ones(1985)
著者 A・バートラム・チャンドラー
訳者 野田昌宏
出版 ハヤカワ文庫SF(1985/11/15)
分野 SF

「ジョン・グライムズのくシスター・スー>は比較的平穏に二ュー・スパルタから地球への航海をすませ、いま、ボート・ウーメラに停泊していた。
だが、のんびりできたのも,ほんのつかのま、またもやダミアン少将から新たな密命が下った。
ニュー・セイラム星系へ行き、たんに毛皮をとるというだけの理由で虐殺されている土着生物シルキーを調査してこいというのだ。
シャールとダルリーン、ロボット・メイドのセイ子、厄病神のキャシーらとともに、グライムズは旅立った,心に一抹の不安をいだきながら……
絶大なる人気を誇るわれらが<銀河辺境シリーズ>最終巻!」

扉作品紹介より

著者の死によって、銀河辺境シリーズ(正編)はこの巻で幕を閉じることになる。
最後にグライムズは<シスター・スー>のマンシェン駆動を駆動させ再び宇宙に旅立つが。
その際に生じた時空の歪みによって生じた、ロボットのセイ子とグライムズの演じるシーンはこのシリーズ屈指の名場面だろう。
感傷でなくそう言える。


書名 イルカの島
原題 Dolphin Island(1963)
著者 アーサー・C・クラーク
訳者 小野田和子
出版 創元SF文庫(1994/2/18)
分野 SF

裏表紙作品紹介より

爽やかなジュブナイルSF。
これはねー、若い頃に読んでおきたかったと思うよ。
年くってから読むとつまらないという意味じゃなくてね。
クラークの小説は堅苦しくて苦手だよという人もこの本なら大丈夫かもしれない、やっぱり堅苦しいけど、爽やかさが上回ってあまり感じないから。


書名 天空の劫火
原題 The Forge of God(1987)
著者 グレッグ・ベア
訳者 岡部宏之
出版 ハヤカワ文庫SF(1988/11/30)
分野 SF

「天文学者アーサー・ゴードンは、友人からの電話に息をのんだ。
木星の衛星エウローパが、なんの前兆もなく突如消滅したというのだ。
世界各国の調査にもかかわらず、原因不明のまま、次なる異常現象が地球を見舞った。
アメリカのデスバレーに忽然と火山ができて、そこから異星人の手になるとおぽしき物体が発見されたばかりか、瀕死のエイリアンまでもが見つかったのだ。
だが、この二つの事件を結びつけ、地球と人類に襲いかかる末曾有の危機を予見しえた者は、ひとりとしていなかった……
80年代を代表する俊英が雄渾の筆致で描く超話題作の開幕」

裏表紙作品紹介より

結果からみれば「地球と人類に襲いかかる末曾有の危機」なんだが、それを表現し得たかというと、私はそう感じなかった。
未曾有の危機を読者に実感させるためには、地球に住む人々の心情や行動を綿密に描写することが必要だと思う。
著者もその部分に多くのページを割いて、ラストシーンまで物語を進めているのだが、分量だけ多いだけで、地球と人類の危機である実感が伝わってこなかった。
どんな服を着ているかとか、そんなこと説明してもらわなくてもいいです。
いっそのこと人類についての描写はばっさり削って、ドライに事件を描写してもらった方が良かったなと思う。
なんと言いますか、私は長い小説が嫌いなので辛い感想になりましたが。
多分他の人が読めば評価は違うと思います。
「地球と人類に襲いかかる末曾有の危機」というのは本当だから。


書名 栄光のスペース・アカデミー
原題 Space Cadet(1948)
著者 ロバート・A・ハインライン
訳者 矢野徹
出版 ハヤカワ文庫SF(1987/06/05)
分野 SF

「太陽系文明の守護者にして、自由の戦士,それが、太陽系パトロール隊だ!
オイスター・ホワイトの制服に身を包んだパトロール隊士官は、ぼくらの憧れのまと。
そう、ぼく、マット・ダッドソンもパトロール隊士官を夢見て、士宮学校に入学したのだ。
サンタバーパラ・フィールド基地にあるヘイワース・ホールでの厳粛な宣誓式のあと、士官候補生となったぼくは、地球軌道上の練習船ランドルフ号へと向かった。
だがそこで待ちうけていたのは、信じられないはどの苛酷な訓練だった…
巨匠ハインラインが宇宙に乗りだした若者の友情と冒険の日々を鮮やかに描く傑作宇宙SF!」


私はこれが駄作だと思いました。
ハインラインは私にとって当たり外れのある作家のようだ。
こんな本の感想に時間はかけずに、さっさと次ぎの本を読むぞ。


書名 遙かなる俊翼
著者 渡辺洋二
出版 文春文庫(2002/07/10)
分野 軍事

著者は名前だけで安心して買える作家だから、買うことに、そして読むのに躊躇する必要はない。
贅沢を言えば、書き下ろしの一篇もあれば良かったんだけど、収録作の改訂作業に凡百の作家の書き下ろし短編よりはるかに多くの時間を費やしているだろうから、仕方ないでしょうね。
今回は雑誌掲載作からの収録も多いので、わざわざ雑誌を引きずり出さなくて良くなるので嬉しい。


書名 ゲルマンの騎士
著者 小林源文
出版 世界文化社
分野 マンガ

「鼻クソらしきものをあちこち塗り付けた本を、古本屋へ持っていくのは、やめろー。」
言いたいのはそれだけだ。
もう捨てました、気持ち悪かったです。

黒騎士中隊長は第6装甲師団に所属していたこともありましたか。
ヒューナースドルフ戦闘団!



書名 D−蒼白き堕天使 1〜4
著者 菊地秀行
出版 ソノラマ文庫(1994〜1996)
分野 YA

「旅のあいだは吸血を禁じるとの条件つきで、グラウハウゼンの村へ送って
ほしいというバラージュ男爵の護衛依頼を、Dは承諾した。青いマントをまとった
その美しい貴族は、西部辺境統制官である父を弑する旅に出るのだ。貴族と貴族を
狩るハンター、本来なら到底あり得ぬ奇怪な組み合わせの一行は、間違いなく
選りすぐりの刺客たちが待ち受ける危険な街道へと、歩を踏み出した。」

裏表紙作品紹介より

もうマンネリなんだけど面白いから困ったもんだ。(←なぜ困る?)
終わり方も水戸黄門化しているけど、いつもなら、犠牲者の方に多少なりとも自業自得な面があるのに、今回はそれがないので、多少の痛ましさを感じる。
しかし、これ以外の終わり方はできないでしょうね。


書名 オー・マスター・キャリバン!
原題 O Master Caliban!(1976)
著者 フィリス・ゴットリーブ
訳者 藤井かよ
出版 ハヤカワ文庫SF(1982/01/31)
分野 SF

「四本腕の地球人の少年、人語を流暢に話す猿、モンテーニュを愛読する白山羊−−
銀河連邦の生物実験ステーション、パラザン第5惑星で生き残っている知性体は彼らだけであった。
研究を補助する目的で作られた機械一一エルグたちが反乱を起こしたのだ。
彼らは、この惑星の支配者である生物学者ダールグレンを捕え、他の研究員、実験用生物を皆殺しにしたのである。
いまや惑星全土は、エルグたちの手におちたかにみえた。
だがそんなある日、5人の子供を乗せた宇宙船がこの惑星に不時着したことから、事態は思わぬ方向に……
カナダの女流詩人が瑞々しい筆致で描く傑作SF!」

裏表紙作品紹介より

シェークスピアの『テンペスト』を下敷きにしたそうだ、だからと言ってシェークスピアなぞに何の興味もない私には関係ない。
SF的に目を見張るようなギミックもないし、つまんない小説だったなあ。


書名 暁のファーストフライト
原題 Firstflight(1987)
著者 クリス・クレアモント
訳者 斎藤伯好
出版 ハヤカワ文庫SF(1990/04/30)
分野 SF

「暁の空にそびえ立つ宇宙船の群れ、次々と発射されるシャトルの轟音−−
ここ、ダビンチ基地で、新任女性少尉ニコル・シェアの夢が、いまかなえられようとしていた。
航宙図作製のため冥王星基地へと向かう<ワンダラー>に、指揮官として乗り組み、あこがれの宇宙に第一歩をしるすのだ。
だが、航宙途中で、壊れて漂流している<ロックハウンド>と遭遇したことから、ニコルはとんでもない陰謀に巻きこまれていく……
超光速航行が実現し、太陽系せましと字宙船が飛ぴかう近末来を舞台に、若きヒロインの活躍を生きいきと描きだす、傑作冒険SF!」

裏表紙作品紹介より

出だしはなかなかのものです、ソノラマ文庫で、とある作家がそのまま真似しているぐらいだし。
近未来宇宙SFとしてなかなかのものではないかと思っていたのも束の間、異星人とファーストコンタクトが始まる時点から、しおしおの展開に……。
B級SFなんだ、楽しければそれでいいではないかと、自らに言い聞かせつつ読みました。
しかし、ラスト数ページは素晴らしかった。
もうこの数ページがあるだけでいいよ。
さわやかで、いいエンディングだったよ、うん。


書名 イシャーの武器店
原題 The Weapon Shops of Isher(1951)
著者 A・E・ヴァン・ヴォークト
訳者 沼沢洽治
出版 創元推理文庫(1966/07/29)
分野 SF

「二十世紀のアメリカに突然,ふって湧いたたように出現した武器店−−
特種を求めて新聞記者マカリスターは,この幻のような店に乗りこむ。
気がついた時.彼は七千年の末来にいた。
地球全体を支配するイシャー大帝国と,これに対立する地下組織.武器製造者ギルド.地球の運命を賭けた大決戦が行なわれようとしていたが,
偶然まぎれこんで来たマカリスターが危機をもたらした。
彼の体内には太陽系を破壊しつくすほどの時間エネルギーが蓄積されていたからだ。
絶縁宇宙服を着せられ,何十兆年の過去と未来のあいだを時間振子となって往復する男……。」

扉作品紹介より

壮大な設定なのに、どこか長閑なのはなぜだ、ヴォークト、期待したほどの絢爛豪華な作品じゃなかったな。


書名 ポストマン -改訳版
原題 The Postman(1985)
著者 デイヴィッド・ブリン
訳者 大西憲
出版 ハヤカワ文庫SF(1998/02/28)
分野 SF

「最終戦争ですべてが崩壊し、廃虚となったアメリカで、人々は小さな集落をきずき、やっと生きのぴていた。
ゴードンは、そんな世界をひとりで生き抜いてきた男だった。
だが、山中に遺棄された郵便配達のジープを発見したとき、彼の運命は大きく変わった。
郵便配達の制服を着たゴードンは、アメリカ再建をめざし、孤立無援の戦いに挑むが……
キャンベル記念賞、ローカス賞受賞、ケビン・コスナ一監督・主演で映画化の話題作。」

裏表紙作品紹介より

ホロコーストから力強く復活する、そんなアメリカ的物語を評価したくない、という、感傷的な気持ちを別にしても。
変な話だなあ。


書名 ウェザー・ファクター
原題 The Weather Factor(2000)
著者 エリック・ドゥルシュミート
訳者 高橋則明
出版 東京書籍(2002/02/05)
分野 軍事

天候が戦闘の行方に決定的な影響を及ぼした戦例を紹介した読み物。
軍事関係の本に関しては、こんな”読み物”ばかり読んでいて、堕落しきっている。
とはいっても、第一次世界大戦においてのアルプスでの山岳戦については、こんな戦いがあったのかと目をみはる思いだった。
著者は気象が歴史を変えたと主張しているが、逆の印象を抱く。
元寇の役では台風がなくとも、敵の侵攻を防ぎ得たろう。
太平洋戦争において米機動部隊が遭遇した台風は何らの影響も及ぼさなかった。
第一次世界大戦のアルプスにおいての戦いは元より無意味な戦いだった。
バルジの戦いでは連合軍は航空支援がなくとも、ドイツ軍の攻撃を撃退していたろう。
ナポレオンと第二次世界大戦におけるドイツ軍のソ連侵攻だけは天候が良好ならどうなっていたかと思わせるが、これについては最初から天候が悪化するのは判っていたことだった。
天候は戦いの帰趨を決する大きなファクターではあるが、歴史に影響する力は人間の判断の方が大きい。

しかし、この本は2600円もの価格に見合う内容ではない。
文庫本で600円程を出して一時の暇つぶしに使う。
そんな読み方にふさわしい本だと思うから、わざわざ買って読むことをお勧めはしない。

書名 ヴァート
原題 Vurt(1993)
著者 ジェフ・ヌーン
訳者 田中一江
出版 ハヤカワ文庫SF(1995/12/15)
分野 SF

「ヴァートとは、新手のドラッグ。
効用によって色分けされた羽を口のなかに差し入れて喉奥をなでれば、眼前にヴァート世界が出現する。
マンチェスターの片隅でヴァート浸りの日々を送るスクリブルには、呪わしい過去があった。
謎の黄羽でトリップし、妹をヴァート世界に置き去りにしてしまったのだ。
最愛の妹を取り戻したい一心で、スクリブルは絶望的な探索を続けるが……?
A‐C‐クラーク賞に輝く、新鋭の超話題作!」

裏表紙作品紹介より

ヴァートっていうドラッグが普及した文化の描写は面白かった。
これもサイバーパンクブームから派生した亜種なんだろうと思う。
ハヤカワも『ロズウェル』ばかり出版していないで、色々なSFを出版してくれと思いますよ。



書名 破局のシンメトリー
原題 Broken Symmetries(1983)
著者 ポール・プロイス
訳者 小隅黎
出版 ハヤカワ文庫SF(1986/05/31)
分野 SF

「日米合同でハワイに建造された世界最大の粒子加速器で、新たなクォークが発見された。
素粒子理論を塗りかえるこの業績に物理学界は湧きたち、所長のエドヴィックは全世界の賞賛を一身に浴びていた。
だが研究所員の一人ピータ・スレイターは、新粒子にひそむ怖るべき可能性と、華々しい成功の裏で進行する醜悪な陰謀の影を感じとった。
やがて、研究所構内で原因不明の爆発事故が起こり、それをきっかけにスレイターは、見えざる敵に対して敢然と立ち向かっていくが……!?
新鋭が最新の物理学理論を駆使して壮大なスケールで描きあげた、戦慄の近末来SFサスペンス巨篇!」

裏表紙作品紹介より

地味な話で、研究分野における政治的かけひきに大きな比重がかかっている。
それを象徴しているのが、舞台となるハワイの研究施設の大口出資者が日本の通産省で、研究所長以下日本人が沢山出てくることだろう。
地味な話だが、登場する日本人達の描写に気を取られていたので気にならなかった。
ハードSFなんですが、今回その部分の説明がさっぱり理解できませんでした。
理解できなかったけれども、その部分が一番面白かったのは、不思議だ。


書名 花粉戦争
原題 POLLEN(1995)
著者 ジェフ・ヌーン
訳者 田中一江
出版 ハヤカワ文庫SF(1997/07/31)
分野 SF

「犬人間のタクシー運転手が殺された。しかも、口から大量の花を生やした
奇妙な状況で。捜査にあたる女刑事シビルは、テレパシーで被害者の最期の意識に
アクセスしそこで読み取ったボーダという少女の行方を追いはじめる。
だが、それはのちに街を騒がせる<花粉侵入>事件の、ほんの序章でしかなかった−−
混血種やロボットが闊歩する未来世界を舞台に、英SF界の寵児が特異な感覚で
描いた傑作サイケデリック・ノヴェル!」

裏表紙解説より

前作の『ヴァート』(私の感想)の続編です。
ミステリSFとしては前作より面白かった。
どう表現していいのかわからないが変貌した社会と文化の描写の魅力的なことよ。
この人の小説には麻薬的中毒性がありそうだが、幸い(どこが?)にして、翻訳が絶えている。


書名 永遠に生きる男
原題 The Man Who Lived Forever(1956)
著者 R・D・ミラー、アンナ・ハンガー
訳者 関口幸男
出版 ハヤカワ文庫SF(1973/01/31)
分野 SF

この小説で提示されている不老不死の方法について、1973年の翻訳出版時点においての日本人の読者に対してどれだけの説得力があったのか?。
というのは著者に対してフェアではないだろうが、それでは1956年の原書出版時点で読者に対してどれだけの説得力があったのかというと、ほとんど無かったのではないかと思う。
今でもナノテクノロジーと書いておくだけで不死を実現するSFが存在するがそれも似たようなものか?。
この小説は不老不死が題材になっているだけに、”ナノテクを小道具として使っている現在のそれらの小説”より酷いような気がする。
読むだけ無駄な小説だと思う。


書名 惑星間の狩人
原題 Interplanetary Hunter(1956)
著者 アーサー・K・バーンズ
訳者 中村能三
出版 創元推理文庫(1969/08/29)
分野 SF

「彼女の名はゲリー・カーライル。
太陽系中にその名を轟かす、ロンドン惑星間動物園の専属ハンターだ。
九惑星に棲息する、想像を絶した生物を捕獲するのが彼女の仕事。
愛機の宇宙船≪箱舟号≫を駆り、海千山千の男どもを向こうにまわして、
捕獲不可能とされる生物たちに真っ向から戦いを挑む。
赴く先は金星の密林、人跡未踏の彗星の核!
スペースオペラの魅力溢れる傑作連作集!」

裏表紙作品紹介より

スペースオペラの金字塔といえるであろう、「キャプテン・フューチャー」と「レンズマン」シリーズの中から、それぞれ一冊だけ、今年になってから読んだのですが。
野田大元帥の仕事がなければ日本で紹介されていたかどうかすら危ういような、この 『惑星間の狩人』の方が面白かった。
出版時期に15年以上新しいのでその分の歴史的な上積みがあって当然といえば当然なんですけれども。
どこが面白かったかというと、カットナーのスペースオペラとの合作部分でした。
両者の登場人物が相手を出し抜こうとして一喜一憂する部分でした。
生物狩人物といえば、最近では草上仁の『スターハンドラー』シリーズを連想しますが、『スターハンドラー』の方が登場する生物達の生態に一々理由付けしてくれている分、 登場人物に個性がある分、ユーモアに溢れている分面白いかな。


書名 特集・本の雑誌3 活字の愉しみ篇
編者 本の雑誌編集部
出版 角川文庫(1995/11/)
分野 その他

まあ、読んでどうなるという本ではないですね。
雑誌の再録でしかもこの本事体古いんだけど、本好きならそれなりに、楽しめると思う。


書名 ベティアンよ帰れ
原題 Bettyann(1970)
著者 クリス・ネヴィル
訳者 矢野徹
出版 ハヤカワ文庫SF(1972/11/30)
分野 SF

「ある雪の日、一台の車が運転を誤り崖の下に転落した。
警察が駆けつけたとき,車の中に発見されたのは,奇妙にもただ泣き叫ぶ赤ん坊ぱかり……。
孤児院からデイブとジューンの夫婦に引き取られたその赤ん坊ペティアンは,周囲の人々の暖い愛情の中でやがて18の年を迎えた一一
彼女が自分の素性を知ったのは,その冬のことである。
光子船で宇宙を飛ぴ回る星間種族のただ一人の後継者!
仲間との出発を前に,ペティアンの心の中で二つのものが争った。
無限の時の奥深くから呼び返し呼び立てる種族の本能と,いつくしみはぐくんでくれた地球の親達への心情とが……
待望久しきネヴィル畢生の名作ここに登場!」

裏表紙作品紹介より

裏表紙作品紹介を読んで『かぐや姫』みたいなあらすじだなあ、と思って読んでみたのですが、そのままでした。
日本の読者向けに書かれたであろう、著者の後書きによると、著者は占領軍の一員として数ヶ月の日本での滞在経験があり。
日本が好きになって、日本における職を求めたこともあるそうです。
このコメントには日本の読者向けの多少のリップサービスも混じっているでしょうが、日本での滞在中に『かぐや姫』を知る機会があり、それにヒントを得たということは無いでしょうか?。
スワンやピートリィが好きな人に向いていると思います。
僕も好きだけど。
この3人とも長寿だったとは言えないようです。
作品事体にも生命力の薄さが現れてきているような気がする。
その儚げな作風に惹かれるのですけれども。


書名 軍学考
著者 兵頭二十八
出版 中公叢書(2000/10/)
分野 軍事

孫子とか戦争論とか海上権力史論とか種々の戦争方法についての書物のなりたちや相互の影響関係などについて説明してくれている。
この著者は、相変わらず着眼点がユニークだ。
著者が主張すること全てに同意はできないが(同意できないと言うか危ないよ)、ユニークだからこそ読んで面白い。


書名 仮想空間計画
原題 Realtime Interrupt(1995)
著者 ジェイムズ・P・ホーガン
訳者 大島豊
出版 創元推理文庫(1999/07/23)
分野 SF

「科学者ジョー・コリガンは見知らぬ場所で目を覚ました。
かつては極秘プロジェクトの一環でヴァーチャル・リアリティの開発に従事し、テスト段階で神経を接合し、その後、記憶を失う。計画は過去に放棄されたはずだった。
ところがある女が現れ、二人ともシミュレーションの中に取り残されたままだと言う!
不可測の虚構世界から脱出の道は?リアルすぎる仮想現実に挑む、本格SF。」

裏表紙作品紹介より

仮想空間を扱った小説というのは、程ほどに面白くできても、飛びぬけて面白くするのは難しいのかも、と思いました。
今年になって読んだ他の2つの小説を合わせて、そう感じるのです。
『天界を翔ける夢』の感想『バーチャライズド・マン』の感想
3作の中で舞台として仮想空間を用意しても、仮想空間そのものには興味を示していないものが『天界を翔ける夢』で現実世界とほとんど変るところが無い。
仮想空間がどのようなものかに気を配ってミステリ風味に仕立てたのが『バーチャライズド・マン』で仮想空間で実現できることにも限界があることが示されている、しかし仮想空間をどのような技術で実現するかについてはあまり言及されていない。
『仮想空間計画』は仮想空間をどのようにして構築してゆくかに3作の中では一番気を配っている。
ホーガンの面目躍如といった所です。
ミステリ仕立てといったところは『バーチャライズドマン』と同じです。
そして、現実と仮想空間の認識が困難となる所などが他の2作にない所でしょうか。(『バーチャライズトマン』にも多少そういった面はあるが顕著ではない)
3作の中では『仮想空間計画』が一番面白かった、仮想空間プロジェクトの進行具合とか、それに伴う経営者と技術者のかけひきも面白いし。
どうやって、仮想空間から脱出するかというところでは盛り上がる。
欲を言えばもうちょっとシェイプアップして欲しかったかなといったところです。



書名 狙われた使節団
原題 Precious Cargo(1989)
著者 ジョー・クリフォード・ファウスト
訳者 坂井星之
出版 ハヤカワ文庫SF(//)
分野 SF

「どうにかシンジケートを撃退したとはいうものの、
メイの不運はまだまだ続く。豪華客船に拾われたまではよかったが、
そこで会ったのが昔の女房。しかも凄腕の司令官になっていようとは!
ただでさえ気まずいこの状況下で、狂暴化したデュークが異星の大使に
怪我を負わせてしまい、メイの立場はますます微妙になってゆく……
おなじみ悪運コンビが、今度は美女やエ一リアンを向こうにまわして大暴れ!
好調シリーズ第二弾」

裏表紙作品紹介より

1作目の『やけっぱち大作戦』に続く2作目です。
1作目の事件の直接の続きの話のようで、2作目の独立性は低めでした。
もちろん必要な説明はしてくれてあるので、1作目の内容を完全に忘れ去っていた私でも、ちゃんと読めたのですが、状況把握に手間取りました。
3作目の『これが最後の大博打』を含めて3冊一度に読んでしまうのが良いと思います。
1作目に関しては正直なところ、さほど良い印象は持っていませんでした。
普通のスペースオペラなんです、読めば面白いけど、だからといって、それがどうしたといったタイプの。
だから2作目を読むまでに、ずいぶん間が空いてしまいましたし、内容だって全く覚えていませんでした。

この巻は良かったです。
何が良かったかというと、”狙われた使節団”である異星人のアーコリア人です。
匂いでコミュニケーションを図るアーコリア人は、人類との接触後お互いの誤解により戦争状態にあったのですが、講和が成りアーコリア代表の使節として送りこまれてきたのが”みすたあぼぶ”らでした。
その彼らを狙うテロリストの襲撃を切りぬけるのが、この巻の話です。
(ストーリ事体は普通かな)。
"みすたあぼぶ”は人類を観察してこう言います。「魅力的だ、なんて魅力的な生物なんだろう」と。
私はこう言いたい「なんて魅力的な異星人なんだ」と、……(誇大表現だな)。
匂いでコミュニケーションを図るアーコリア人がなぜ、話すのかと思いますか?。
それは、”みすたあぼぶ”が人類との接触用の形態をとっているからです。
「われわれは発見した土地にどんな形態が最適かを選びます。そして、われわれは新しい形態のためにらせんコードを書き直し、彼らが孵化するまえに卵を変化させてしまうのです」
ねっ、ちょっと魅力的でしょうと書こうと思ったけど、ありふれてるように思えてきた。


書名 レイテ沖海戦
著者 佐藤和正
出版 光人社NF文庫(1998/06/13)
分野 軍事

表題通りレイテ沖海戦についての本です。
読みやすいし、全般の状況を把握しやすい、良い本だと思う。
欲を言えば、各記述のソースを明らかにして欲しかった。
例えば、9月12日のセブ空襲における、敵来襲情報の伝達の遅延の原因を本書では、見張り所の無線機の出力が小さかったためとしている。
この件に関して遅延の原因について書かれているのを始めて目にしたが、原因を知ることができたらできたで、情報のソースをぜひ知りたい。
プリンストンを撃沈した彗星を撃墜したのが、直衛戦闘機だったとも書かれている、今まで読んだ本には、直後に撃墜された、又は対空砲火によって撃墜されたと書かれていたものばかりだったと思う、情報のソースが明記されていれば、どちらが正しいかを知る手がかりになるのですが。



書名 A君(17)の戦争 1〜3
著者 豪屋大介
出版 富士見ファンタジア文庫(2001,2002//)
分野 YA

「一一やってやる。こいつに教え込んでやる。
僕が感じてきた痛みと同じものを。
小野寺剛士、17歳、天抜高校二年生。
ちんちくりんな見かけで気も小さい。
しかし、追い詰められると、恐怖と恨みをエネルギーに変換する高速怨念増殖炉を内蔵した、アブないヤツ。
そんな彼が、ふたつの太陽が輝く異世界に救世主として召喚されてしまった!
しかも、人族の迫害に苦しむ魔族たちの支配者、「魔王」として!?
四面楚歌の状況の中で、はらなきゃならない意地をみせて剛士が繰り広げる大逆転ピカレスクバトル。
時代が呼んだニューヒーローがいま、ここに登場した!
男には、まもらねばならないものがある。」

折り返し作品紹介より

なんというか、これは、週刊少年サンデーに連載中の『勝手に改蔵』ですね。
魔王が80年代のアニオタであることもあって、出てくるネタが古めなので、ツボを突かれることもあるのですが。
それじゃいかんのではないか?、ターゲットはあくまで若い人であるべきで
おじさんを喜ばせていても仕方が無いのではないか?。

佐藤大輔が別名で執筆したと教えてもらって読んだのですが、どうだろ?、別人のような気がする、佐藤大輔特有の言いまわしが出てこないから。
「悲しいけど、戦争なのよね」という場面などは、佐藤大輔がよく書く状況な気がするので、やっぱり佐藤大輔かな?と思ったこともあったが。
でも違うね、シルヴァーバーグになる可能性は多分にあるけれども。

「悲しいけど、戦争なのよね」という場面はぐっとくる、感動した。
しかし、そうして、突撃していった部隊が、いとも簡単に離脱後退できるのは奇異に感じる、あの状況で離脱に成功はすまい。
主人公が名をあげることになったこの戦いで、最後の逆転で勝てないまでも負けなかったことになったのだが、いくらなんでもそれは無理ではないか、どうみても、相手に手痛い手傷は負わせたかもしれないが、魔王軍側が再起不能なほどの敗北を喫している状況だ。

さて、この本はどのような読者向けなんだろうか?、確かに佐藤大輔似のYA小説だけれども、 ミリタリー小説としてはぬるすぎるので、佐藤大輔ファンには向いていないかもしれない。
やはり普通のYA小説の読者向けなんだろうが、もうちょっと今の若い読者に媚びた方がいいのじゃないのかな?。
それをやられると、こちらはついて行けなくなるのだけれども。


書名 日本人の戦争観
著者 吉田裕
出版 岩波書店(1995/07/25)
分野 軍事

戦後書かれた種々の軍事関係の書物が何を訴えるために執筆されたのか?。
それを知るために読んだのだが、全く役に立たなかった。
あくまで日本人の戦争観についての本であった。
戦争観については、別にこの著者に押し付けられなくとも、軍事関係の本を読むことによって、自分なりの戦争観を持ちたいし。
これから読む本によって、変ってゆくことだろう。


書名 ヒトラー・ユーゲント
原題 HITLER YOUTH(2000)
著者 B・R・ルイス
出版 原書房(2001/12/25)
分野 軍事

題名通り”ヒトラー・ユーゲント”についての本です。
けっこう高い本なので費用対効果は悪めです。
別にこの本を買わなくとも大日本絵画から出版されている”ヒトラー・ユーゲント”の本があれば十分だと言われたことがあったのだが。
大日本絵画の本は”ヒトラー・ユーゲント”というニックネームのついた、装甲師団についての本なので、扱う対象が異なるのであった。
しかし、そう忠告してくれた人は正しいことを言っている、なぜなら私が興味を抱いているのは、むしろ装甲師団の方だからだ。

政治、戦争目的の団体なので、こう言うのもなんだが、日本の幼年学校生徒よりも体格面で健康的な感じがする。
幼年学校の生徒は成長期に質素な食物しか与えられなかったために、全般的に当時の日本人の中においても、貧弱な体格をしていたらしいのに対して。
ヒトラー・ユーゲントの方はスポーツをおおいに奨励されていたせいもあってか、掲載された写真をみても、体格が良い。


書名 ほしのこえ
著者 大場惑
出版 MF文庫(2002/07/31)
分野 SF

少なくともインターネット上のSFファンの間では、大きな話題になっている『ほしのこえ』だが、買うのに躊躇させるに充分な値段だったから、私は買えなかった。
しかし、ノベライズなら買える、1/10以下の値段だから
侘しいこと書いているなオレ。

著者は昔「スモーキング・ゲーム」など「XXゲーム」という名の風変わりな短編SFを書いていた人だ、ファンというわけでもないが、懐かしい名前だ。

読み始めて、あっ、これはやはり、アニメで見た方がいいかも、と思い一旦本を伏せた。
しかし、再び読みはじめる、やっぱり僕は貧乏だ。

これは、読書感想にセンチメンタルなことをドバーっと書き連ねそうだなとも思いはしたが、読み終わってみたらそうでもなかった。
原作者が後書きで、若い人への贈り物だと書いているが、まさしくその通りで、これを読んでレトロな感じのSFだねと思ってしまうようでは、もうこの作品の対象ユーザーからはずれているのだ。

ストーリーの粗筋事体は珍しいものでもないけれども。
それでも、これは良いSFだ。
ウラシマ効果の影響を受ける当事者の心の内を描写したSFなんて久しぶりだ。

SFの持つピュアな部分だけを集めたような感があり、さわやか感において他の追従を容易には許さない。

アニメを見てない私が言うのもなんだが、ぜひとも、アニメをご覧になっていただきたい。


書名 エンド・オブ・デイズ
原題 END OF DAYS(1999)
著者 デニス・ダンヴァーズ
訳者 川副智子
出版 ハヤカワ文庫SF(2001/10/31)
分野 SF

「世界的に有名な遺伝学者ティルマンは、コンピューターのなかの
ヴァーチャル・リアリティの世界に百年以上も囚われていた。
だがティルマンは、その仮想現実の世界では思いのままに環境を作り替えられる。
子供のころに訪れた思い出の場所ホワイトハウスに住んだり、絶世の美女を
はべらせたり、自分の悲恋の結末をたどることもできる。そんなティルマンの
平和な世界に、予期せぬ侵入者が訪れた!仮想現実をめぐる冒険SF」

裏表紙作品紹介より

デニス・ダンヴァーズはつまらない。
もう読まない。


書名 槍作りのラン
原題 Run, The Spearmaker(1975)
著者 クリス・ネヴィル
訳者 矢野徹
出版 ハヤカワ文庫SF(1975/11/30)
分野 SF

「マストドン、ジャコウウシが原野をわがもの顔に疾駆し、
人類が火と石器をもちはじめたころ一‐一
部族の男たちは成人すると狩人となり、女たちは育児に日々をおくり、
ある時期をのぞいては、たがいにまじわることはなかった。
長く厳しい冬がすぎ、獲物の数も少くなった村落に、森林に姿を消していた部族のあぶれ者フォルウが帰ってきた。
森の<力>と語りあったと称する彼は、皮紐の切れた輪をもとにもどし、丘の穴から無数の魚を取りだしてみせた。
驚きおそれる人々の前に立つフォルウは、森の<力>の命を伝えた、
“女を愛せ”と。人類の曙をSF文明史的に描いた現代の聖書。」

裏表紙作品紹介より

交配の季節を除けば、男と女がいがみあう、石器時代において、一人の宗教家(ペテン師)の登場が彼らの生活習慣を変えて、家族や王が成立する。
フォルウは狩りをする能力が欠如しているがゆえに、狩人達が抹殺することを考えるぐらいなので、本来同情して読むべきなのでしょうが、口先で人を惑わすキャラクターは、どうにも好きになれず、フォルウも例外ではない。


書名 宇宙探査機 迷惑一番
著者 神林長平
出版 光文社文庫(1986/09/20)
分野 SF

「『ぼくはメイワクィチバン…』月面に墜落した謎の物体から
聞こえる奇妙な声。
こいつはいったいなんなんだ?
破片を収容して基地に帰還した宇宙戦士たちに、なんと生体反応ナシの診断が下った。
「おれたちは死んでるのか?いや、おれたちは生きている!」、
"生存証明"を賭けて基地脱出を計る5人の戦士。
−−これぞSFの新次元!」

裏表紙作品紹介より

永久帰還装置の感想でも同じことを書いているけれど、これも神林長平らしいSFでした。
「君達死んでるよ」とか唐突にやられるから、痺れる。
コメディ仕立てなので、神林長平ファン以外にも勧められる。
もうすぐ、ハヤカワ文庫JAで再刊されるので、買って読みましょう。
薄いから、時間もそうかからないし。


書名 さまよえる海 下
著者 草上仁
出版 ソノラマ文庫(2002/07/31)
分野 SF

あらすじはこちらを参照してください
上巻から4ヶ月も間が空くと読む勢いが削がれてだれる。やはり上下巻同時に出版してもらうのがベストだ。

上巻であれだけ魅力的なキャラクターだった釣り師も、結局いなくてもかまわないキャラクターだったし。
”クマ”もめっきりパワーダウンしている。

その代わり、”海”の調教に力が注がれている。
ここの部分だけは面白かったかなあ。

総じて上巻で展開した内容を消化不良なまま終わらせてしまった感じがする。


書名 人間がいっぱい
原題 Make Room! Make Room!(1966)
著者 ハリイ・ハリスン
訳者 浅倉久志
出版 ハヤカワ文庫SF(1986/02/28)
分野 SF

「1999年夏世界人口は70億を超え、深刻な食料難のもと、人心はすっかり荒廃しきっていた。
3500万もの人口をかかえるニューヨークも例外ではない。
凶悪犯罪は日常化し、一触即発で暴動が起きる。
今また、高級マンションの一室で、男が一人殺された。
ニューヨーク市警のアンドルー・ラッシュ刑事にとって、ことはありふれた殺人事件にすぎなかった。
だが、被害者が大物だったがために、
上層部から圧カをかけられ、彼は犯人の目星もつかないまま、この騒然たるシティを端から端まで彷徨する破目に陥った……
危機的状況の近未来を鋭い筆致で描きだしたSF問題作、遂に登場!」

裏表紙作品紹介より

人口過剰により化石燃料は燃やしつくし、自然の浄化能力を上回る勢いで水は汚される。
ひどく住みにくい街、ニューヨーク
それでも人々がここから逃げ出さないのは、ここでなら、最低限生きていられるからだ。
『宇宙兵ブルース』や『テクニカラー・タイムマシン』などコメディタッチなハリスンはいくつか読んだが、シリアスタッチなハリスンを読むのは始めてです。

たまたま犯罪を犯した少年と、事件を追う刑事と犠牲者の同居人の女性、ハリスンの分身だと訳者が指摘する老人のニューヨークにおける数か月間が濃厚に描き出される。
わずか300ページの出来事だとは信じられぬぐらいで。
ただ長いだけの小説を書く作家は見習ってもらいたいものだ。
ユーモアを一片も交えずとも、エンターティメントに仕上げているのはさすがだ。

ソイレント・ステーキの正体が小説中でははっきり示されていないのだが、やっぱり、正体は人間か?。
ソイレント・ステーキ(グリーン?)を中心に扱ったセンセーショナルな内容だと思っていたが、そうでもなかったのは意外だった。




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