2001年11月の読書感想


書名 男たちの大リーグ
著者 デヴィッド・ハルバースタム
出版 JICC出版局(1993/04/20)
分野 スポーツノンフィクション

1949年度のアリーグのペナントレースは2人の大打者を擁する2チームによって争われた。ジョー・ディマジオ擁するヤンキースとテッド・ウィリアムス擁するレッドソックスは最終戦まで争い、直接対決によって雌雄を決したのであった。
もちろんこの2チームは2人の大打者のみにて成り立っているわけではない、ハルバースタムは緻密な取材によって2チームがどのような人達によって争われたか教えてくれる。
自分は大リーグについては観戦するものというより、読むことによって接してきた。
最初は「ドジャース・ブルックリンに帰る」という小説だった、冒頭ヤンキースとのワールドシリーズに敗れ「みていろよ来年を」という印象的なセリフで始まるこの本で「大リーグを読む」楽しみを知った。以来それぞれ印象的な大リーグについての本を何冊か読んできたがその中にハルバースタム著の「さらばヤンキース」というカージナルスとヤンキースとのペナントレースを題材にした著書があった、これが素晴らしかったから「男たちのヤンキース」が面白いことは予期できていたのですが、高い期待に背くことはなかった。
色々な選手名を覚えることができました。
野球術でなぜ殿堂入りしないのか不思議と言及されていた、ヤンキースを固い守備で支えたベテラン遊撃手フィル・リズトーや大リーグにあがってきたばかりで自信がもてない天才的な守備をみせる二塁手のコールマン。いずれは屈指の捕手に成長してゆくヨギ・ベラ。開幕時ディマジオを欠いて心配されたヤンキースの快進撃を演出した勝負強い外野手のヘンリックに、引退が近づきつつあるベテラン外野手ケラー。
対するレッドソックスには荒っぽい打撃だが長打力のあるスティーブンズや、ジョー・ディマジオの弟の巧打のトップバッター、ドミニク・ディマジオ。二番打者のドウアーなど打線の破壊力はヤンキースをはるかに上回る。
投手力は速球派のラーシー、レイノルズに技巧派のローパットがいるヤンキースが優位なのだが、レッドソックスの2人の主戦投手パーネルとキンダーは優秀だとの評値のヤンキースの投手達もかすむような活躍をみせる。しかしヤンキースは抑え投手のペイジの存在によって試合の終盤に勝ちに持ってゆける強みを持っていた。
レッドソックスの監督マッカーシーがリリーフピッチャーには能力の劣る者を配置する旧弊な考え方をしていたのに対し、ヤンキースの監督スティンゲルは投手の分業制にいちはやくてをつけた人物だった。
これらの選手の経歴や野球に対する価値観を紹介しつつ、ファンや経営者、スポンサー企業、アナウンサーなどの種々の視点からこの1949年のペナントレースを現代の読者に伝えてくれます。
ただ邦題はセンスが悪いと思う、この邦題で読む気がわかず長年読まずにいたのです。


書名 世界巡洋艦物語
著者 福井静夫
出版 光人社(1994/06/09)
分野 軍事

著作集である性質上多少の重複記述は仕方ないんですがそのぶん多少の退屈感は感じる。
それでも色々知ることはできた(読むそばから大体忘れたが)。
巻末のあ号作戦兵装増備の状況調査は嬉しい。


書名 日本の戦歴 南方進攻作戦
著者 森山康平
出版 学研M文庫(2001/08/13)
分野 軍事

一冊の本で太平洋戦争開始時の南方攻略戦を紹介している。
マレー・シンガポール作戦、上海作戦、比島作戦、ジャワ、スラバヤ作戦を一冊で紹介しているので、1作戦当たり平均して60ページ程度で紹介しているにすぎないのですが、知らないことがほとんどだった、如何に陸軍作戦に関して無知かを思い知る。
基礎知識を得るのにはいいのではないかと思ういます。
ただ単行本に掲載された地図をそのまま掲載しているので小さくで見にくい、地図自体も大域地図なので、文中に出てくる地名が記されていない場合が多く、残念な部分です。


書名 スターハンドラー 下
著者 草上仁
出版 ソノラマ文庫(2001/09/30)
分野 SF

売れ行き次第ではシリーズ物になれると思うのですが、その売れ行きの方はどんなものなのだろう、気になる。
他のキャラクターはともかく「ポチ」には再び遭いたいと思う。犬そのものだし、読んでいるぶんにはかわいいじゃないか、実際には遭遇したくないけれど。



書名 日本特設艦艇物語
著者 福井静夫
出版 光人社(2001/04/20)
分野 軍事

1400隻におよぶ、日本の特設艦艇についての本、イギリスの防空用の特設艦艇は役に立ちそうだと思った。日本の場合予算の都合で実現できなかったろうが。こんな船を何隻かラボールに浮かべておければ良い牽制になったろうなと思う。
いろいろなデータが沢山掲載されていますが、面白いものではないので読みとばした、こうしたデータはいつの日か必要になった時にこそ役にたつだろう。


書名 ブリーフ、シャツ、福神漬
著者 中井紀夫
出版 波書房(1991/12/15)
分野 SFなど

SFアドヴェンチャーに掲載された短編を収録したもの。書き下ろしが一篇おまけについてくる。そのおまけの一篇が一番好きだ。うまいコーヒー飲みたいね。
中井紀夫の持ち味であるちょっと不思議な物語たち。SFマガジン掲載の諸短編と比べるとSF風味は薄いようですが、中井紀夫の短編が読みたかった自分としては、良い短編集でした。
毒はないので、怠惰な気分の時に読むのが良いのではないでしょうか。


書名 ムーチョ・モージョ
著者 ジョー・R・ランズデール
出版 角川文庫(1998/10/25)
分野 ミステリー

SFと軍事関係とスポーツ・ノンフィクション関係以外の本はほとんど読まない私にとって、ホラーアンソロジーに収録されていた「狂犬の夏」との出会いは、偶然でした。
「狂犬の夏」によって、その著者ランズデールの名を覚えることがなければ、この「ムーチョ・モージョ」を読むことはなかった。
なにしろ普段読まないミステリーであり、おまけに題名は変だし。気に留めることすらなかったろう。
「ムーチョ・モージョ」はランズデールを知って良かったと、そう思わせるに充分な内容だった。
陰鬱とした設定なんですが、それが気にならないのがランズデールの持ち味なんだろうか。
苦いなあ、いろんな意味で苦い終わり方をする、その苦さが良い。
今文章をタイプしながら唇の端が痙攣しているので(何故?)、唇を痙攣させたい方はどうぞ。


書名 第三十一海軍航空隊の歩み
編者 三一空会
出版 三一空会(1995/06/08)
分野 軍事

練習航空隊である三一空及び三二空に所属した人達の回想記集です。
多くの場合終戦後の独立運動に巻き込まれた件とジャワへの移動時に輸送船が撃沈されて多くの人が犠牲になった件に関して記述してある場合が多い、それだけ強烈な記憶だったのでしょう。
比島からジャワに移動するに際して約5ヶ月の空白の時間が発生するわけですが、軍事的にはもったいないと思いました、最初からジャワで練成していれば、もっと早く戦力化できていたろうにと思ったのです。
唯早く戦力化されていれば、生き残った練習生の運命にも大きな影響が出たはずで、そう考えると、そればそれでよかったんだなと思う。


書名 桜花特攻隊
著者 木俣滋郎
出版 光人社NF文庫(2001/08/13)
分野 軍事

まず、色々なことを知ることができた良い本だったということを先に書いておきます。
次に悪口に移りますと、この著者の書く文章は以前から気に入らないのです、この著者は勝手に会話シーンなどを創作して物語風にして書く点に特徴があるのですが、そこが気に入りません。事実だけ書いてくれればそれが一番良いのですが。
今回は勝手に会話シーンを創作して書く悪いくせは出ていないのですが、全篇にわたって気になる記述が現れます。例えば以下のような文章です。
「うへー、ちっちゃい飛行機だなあ、こんなもので飛べるのかい?」
確かにそう考えた人もいたかもしれません、しかしこれはあくまで著者の推測です、これを断言口調で書かれるのは気に入りません。実際にどうであったか当事者にしか解らないことなのですから。
こういったどうしようもない部分は読み捨てにして気にせず読んでゆけばよいようなものですが、どうも気になっていけません。
肝心なのは事実がどうであったか知ることが出来る情報がどれだけ書かれているかですから、その大事な点においてこの本は高得点をあげられます。
そう、大事なのは文体じゃないんだよな、でも気になるなあ。
桜花が命中しても沈んだ船があまりないため、米国艦船のダメージコントロールに舌を巻いていたのですが、勢いあまって突きぬけてしまっていたのも原因の一つなんだね。
あと訓練用桜花は水タンクで爆薬重量を補完していて、着陸時には安全に着陸するため水を放出して軽くしてから着陸していたことなど、勉強になることがぎっしり書かれている。多少の誤記も見うけられましたが。桜花に興味がある人はぜひ読むべき本です。


書名 関東軍壊滅す
著者 エル・ヤ・マリノフスキー
出版 徳間書店(1968/02/20)
分野 軍事

太平洋戦争終戦前、後におけるソ連の日本に対する戦争行為についての本。
戦後のソ連の視点から書かれているのだが、立場が変れば視点も変るといいますが、なんと言うか、勝手なことを言っております、難癖つけられるような口実を作ってきた日本軍部にも責任はあると思うのですが。
訳者が後書きで相互理解のためには、相手の立場にたって相手の考えていることを知ることも必要とか書いておりますが、相互理解なぞしたくもありませんね、こういう人達とは。
考え方はともかくとして、戦史の本としてはソ連側から書かれた本として貴重な内容を多々含んでいる本だと思う。
最近毎度書いているような気がするのですが、この本も地図が不備です、今回は特にひどくて恐ろしく簡単な地図が巻頭に一枚あるだけで、これで戦況の推移を解れというのはいくらなんでも無茶です。自分で地図を用意してから読めばいいようなものですが、今回はそれができぬ環境で読んだため、強く不満を感じた。
対ソ戦としては戦争終結の方法を誤ったと痛切に感じる、正式に戦争終結が決定するまでは断固とした立場をとるべきだったと思う、そうできなかったことによりかえって犠牲者の増加を招いたのではないだろうか。


書名 日ソ戦争と外交[1]
著者 C・E・ソシンスキー
出版 世紀社(1980/08/12)
分野 軍事

第1章が日ソ開戦までの外交を主とした経緯、第2章が日ソ戦史、第3章以降は中立条約を破ったことに対する言い訳が収録されている。
弱者に難癖をつけて暴力を振るうことは旧日本軍もやっていたことなので文句をつける筋合いではないと理性は告げるのだが。
感情がそれを許さない、オレは奴らを嫌いになった、奴らのことを理解しようとは思わん。


書名 日本戦争経済の崩壊
著者 戦略爆撃調査団
出版 日本評論社(1950/06/25)
分野 軍事

太平洋戦争時の日本に対する戦略爆撃の効果を経済面から調査した本。
面白いです。読み物として面白いわけではありませんが、色々なことがわかる面白さがある。
機雷投下による海上封鎖があくまで補助的な効果しかあげ得なかったことや(海上輸送そのものが当時の国内輸送の主力でなくなっていたため)、鉄道網攻撃を早期に行っていたら、もっと大きな成果を挙げ得ていたことなど、冷徹に分析がなされています。
本書の2/3は各種データが掲載されていますが、ざっと眺めただけで読まなかった。このデータはあくまで目的があった時にこそ生きるもので、その時までは役にたたない数字に過ぎませんから。


書名 永久帰還装置
著者 神林長平
出版 朝日ソノラマ()
分野 SF

とっても神林長平らしい作品だったので、神林長平のファンは安心して読めるだろうと思う。
難しい話じゃない、理解しやすいんだが・・・、難しくないだけにかえって、自分は本当に理解しているんだろうかと不安にはなる。
エンターティメントとしては普通かなあ。愉しめたけど、目標達成までの困難感が多少足りないような気がした。



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