2002年6月の読書感想



書名 時空ドーナツ
原題 SPACETIME DONUTS(1981)
著者 ルーディ・ラッカー
訳者 大森望
出版 ハヤカワ文庫SF(1998/10/15)
分野 SF

「コンビュータとロボット群が相互接続した巨大ネットワーク≪フィズウィズ≫が
世界を支配している未来。
みんなは仕事をコンピュータとロボットまかせにして、あらゆる人生を
3Dフルカラーの映像ホローで体験するだけ。
でも、直接フィズウィズと脳を接続するエンジェルのヴァーナーは、
そんな退屈な世界では我慢できない。
クルトフスキ教授の発明した仮想場発生機を使って、
ミクロとマクロの宇宙をめぐる冒険に出発した!」

裏表紙解説より

書いてあることを理解できていないということは断言できるが、なんかよくわからんけど、凄い。
「ドーナツの上に紙をおくと触れる部分が輪になる、その触れる部分を下げてゆくと、穴の部分にそってだんだん小さくなってゆき、さらに下げてゆくと一番下の部分で元の大きさの輪になる、それから外周にむかって上げてゆくと今度はだんだん大きくなってゆく。」
時空もこんなドーナツ状になっているのではないかとラッカーが考えて書き上げた、ラッカーの第一長編です。
ラッカーは最初からラッカーだった。
『フリーウェア』が面白かった人はこれもよんでみましょう。
なんて、『フリーウェア』にのりきれなかった、私が書いていいのかな?。


書名 10の世界の物語
原題 TALES OF TEN WORLDS(1962)
著者 アーサー・C・クラーク
訳者 中桐雅夫
出版 ハヤカワ文庫SF(1965/06/30)
分野 SF

1951年発表の一篇を除いては1958年〜1962年に発表された短編が収録されている。
ほとんどの収録作は太陽系内における宇宙SFです。
人類が月に降り立つ時に先立つ事約10年に執筆されたこれらの作品達は、
当時アーサー・C・クラークが予測した宇宙開発像を反映したものとなる。
現実にはこのように宇宙開発が進展することはなかったにせよ、今読んでも充分にリアリティが感じられた。
それだけに、これらの短編をリアルタイムで読めた人を羨ましく思う。
この本を読む旬の時期は過ぎているが、今でも読む価値はある。
テクノロジーは変化しても、人間の精神は変化していないのだから。
(ベアには内緒だよ)。


書名 楽園の泉
原題 The Fountains of Paradise(1979)
著者 アーサー・C・クラーク
訳者 山高昭
出版 ハヤカワ文庫SF(1987/08/31)
分野 SF

「赤道上を地球の自転と同じ速さで動き、そのため同じ地点の上に永遠に止まっている
同期衛星や字宙ステーション。天体力学の法則によって物体が空に静正していられる
ものなら、そこからケーブルを地上にたらし、地球と宇宙空間とを結ぶエレベーター
ができないものだろうか?4万キロにおよぶ<宇宙エレベーター>−一この壮大な
夢を胸に、地球建設公社の技術部長ヴァニーヴァー・モーガンは、赤道上に浮かぶ美
しい島国、タブロバニーヘとやってきたのだが……自らの夢の実現に向かって突き進
む天才科学者の姿を見事に描く、巨匠クラークのヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞作!
裏表紙解説より

クラークはこの小説を最後の長編だと宣言していた時期があった。
それだけ、この作品の出来に満足し、かつ、やりのこしたことはもうないと感じていたのだろう。
とはいっても、軌道エレベーターを建設するだけの話に魅力を感じず読んでいなかったのだが。
面白かったです、目標に向って邁進する人の姿や、人の命を救うために行動する人の姿には感動するね。
救助される側の大学教授達の今出来ることをやるとか言って、遭難中に 観測作業を始めたのには、あきれつつも、もっとぐっときた。
って、この部分に良さを見出すのはどこか間違っているかも。
軌道エレベーターが主役なんだから、軌道エレベーターに感動するのが本当だろう。
キラークが描く軌道エレバーターより見る景観は「3001年終局の旅」で既に体験済みなのがいかんかったか。
軌道エレベーターがいつの日にか実現するような気になってきた。
それを見ることはないだろうが。
この小説中である老人がこう語っている「わたしがそこへ行く機会はないと知ってはいるが、そのことを考えるのは、いいもんだ……」
僕もそんな気分だ。


書名 不思議の国トリプレット
原題 TRIPLET(1987)
著者 ティモシイ・ザーン
訳者 嶋田洋一
出版 ハヤカワ文庫SF(1990/10/31)
分野 SF

「惑星トリプレットの古代遺跡にある不思議なくトンネル>
それは、科学が異常に発達したシャムシール、呪文で精霊を呼ぴだせるカリックスの
ふたつの異世界に通じている。
<二十世界>を統治する星間政府は管理局を設立し、トリプレットへの無断立入りを
禁止してきた。
だが、惑星オータリスのはねっかえり女子大生ダナエは、大金持ちの父親のコネで
トリプレット調査の資格を手に入れた。
経験豊富な案内人ラヴァジンを雇い、勇躍、ダナエは異世界へとおもむく……!」

裏表紙解説より

地球を宇宙人から守る者達が忍者だったり、新鮮なゾンビしか宇宙船を操縦できなかったり、変な設定をいりいろ考え付くザーンが今回考えついたのは魔法世界と同居する惑星トリプレット、今回はちょっとありがちかも。
裏表紙の解説には「大金持ちの父親のコネでトリプレット調査の資格を手に入れた」とありますが、そうなんだけど、父親コネでじゃなくて、父親コネでという方が正解でダナエは父親の庇護下にいるのがいやでしょうがないのです。
トリプレットに行きたかったのだって、父親の影響下から抜け出したかったからだし、もう大人なんだと主張したくて仕方がない。
それで、トリプレットに行っても無謀というか強引な行動ばかりとるんだけど。
ちょっと落ちつけと声をかけたくなるんですが、なんかここ数年そんな感想 を抱くことが多いな、(メルサスの少年感想とか、ピニェルの振り子とか)。
無鉄砲な方が話は面白いし、昔は銀河帝国の崩壊のアルヴィンなど無鉄砲な主人公が好きだった。
まあ正統派主人公ですな。
その無鉄砲さが世界の裏に隠れた陰謀を明かすところなどは基本パターンは『死者たちの星域』と同じパターンで、変ってないぞザーン。
今回は『死者たちの星域』と違ってなかなか楽しめたから、 古書店でみつけたら読んでみるといいかもしれない。


書名 グローリー・シーズン 上、下
原題 GLORY SEASON(1993)
著者 デイヴィッド・ブリン
訳者 友枝康子
出版 ハヤカワ文庫SF(1999/07/31)
分野 SF

「極端な家母長制社会の惑早ストラトス。遣伝子工学の発達により、
男性がほとんど排除され、女性のクローンが覇権を握る閉鎖的な惑星上では、
短い夏の間、クローン技術によらずに生まれてくる子供たちがいた。
そうした変異子の一人として、生まれ故郷から離れていくべく運命づけられた
内向的な少女マイアは、快活な双子の妹ライアとともに冒険の旅にでる。
だが、二人の行く手には想像を絶する過酷な運命が待ち受けていた!」

裏表紙解説より

上下巻合わせて1000ページという長大な小説を読み始めるのには、かなり抵抗があったのですが。
読んでみると、案外スラスラ読めたのでした。
長い小説ばかり書くブリンですが、それだけに、読みやすく書く技術には長けているのかもしれません。
ストラトスにおいてクローン技術で子供を作るのは、安定した環境ではそのほうがうまく行くからだそうです。
環境の変化に備えてクローン技術によらない子供も作るようになっています。
そうした社会がどのようなものか、ブリンはマイアの生まれ故郷を出ての旅をとおして描写してゆきます。
社会が安定するどころか、かえって歪んでいるような気がします。
安全措置としての変異子たちは、環境が安定している間は基本的に、いらない人達であり、クローン人達が就きたがらない仕事を担当しています。
以前のアメリカ合衆国における有色人種を連想させます。
内向的とはいえマイアも差別に悩むことはあまりない気質なので(それは兄弟のライアの存在が大きいのです)、社会が歪んでいても、読み手の方はあまりそれを感じさせられずに、素直にマイアの旅が楽しめることでしょう。


書名 緑の瞳
原題 Green Eyes(1984)
著者 ルーシャス・シェパード
訳者 友枝康子
出版 ハヤカワ文庫SF(1988/2/15)
分野 SF

「男の名前はドネル・ハリソン。詩人。
だが彼は普通の人間ではない。
死後数時間以内の新鮮な死体の脳に、墓地に棲息する特殊なバクテリアを注入することにより、死から呼び戻されたゾンビーなのだ,しかも復活する以前の死体は、ドネル本人のものではない。
彼の人格はどこから来たのか?自分は何者なのか?脳がバクテリアに侵しつくされ、瞳が緑の輝きをおびるまでしか生きられないことを悟ったドネルは、人里離れた秘密の研究所を脱走して、放浪の旅に出るが……
アメリカ南部のむせかえるような熱気の中に、生と死の織りなす不気味なSFゴシックを構築した俊英の話題作」

裏表紙解説より。

暴走する科学が生み出した悲劇や、惨劇という方向に行くのではという予想は大外れで。
ハリスンとその療法士のジョカンドラが南米をひたすら旅していました。
旅のきっかけや目的は異なれど、同著者の『戦時生活』と同じようなシチュエーションだなあ、雰囲気の似たようなものだし。
『戦時生活』はあまり退屈なので最後まで読みとおせなかった本だし。
10年前ならこれも途中で挫折していたかもしれないような気がしますが、今の私なら大丈夫、ちゃんと最後まで読めました。
命の熱さというか輝きというか、復活したがゆえに感じ取れる生命の熱さを強く感じました。
古書店などで見つけたら、買って読んでみてもいいと思います。


書名 宇宙軍団
原題 The Legion of Space(1934)
著者 ジャック・ウィリアムスン
訳者 
出版 ハヤカワ文庫SF(1977/01/31)
分野 SF

「太陽系の平和と秩序を守るガーディアン,それこそわが宇宙軍団!
選びぬかれ,鍛えぬかれたかれら精鋭スペースマンこそ,太陽系文明の存続を担っていたのだ。
だがいま,人類の住むすべての惑星が滅亡の不吉な影に怯えていた……。
はるかな宇宙,パーナード遁走星雲から,恐るべき怪物メドウサが突如襲来したのだ。
千フィートを越える球体宇宙船瞬時にしてなにものをも焼きつくさずにはおかぬ得体の知れぬ赤ガスー一
いまこそ,宇宙軍団の真価が問われるべき時だった!
E‐E‐スミスの<レンズマン・シリーズ>に匹敵する,本格スペースオペラの古典的名作!」

扉解説より

まっとうなスペースペラですね。
世の中スペースオペラは沢山あるので、これを読んでもいいし、他の本を選んでもいいし。
要するに普通です。
脇役のギルス・ハブビラが良いキャラクターしている。
「おお、いとしきはわが酒!」。
いつもこんな調子だから、困った人だ。
それに「わがはいともども食料などあさりにでかけることに致さぬか?」というこの人のセリフで物語の幕が下ろされるのだから3年後にはこの人しか覚えていないんじゃないだろうか?。

この本は1934年の出版で舞台が1945年よりに始まるのだが、真珠湾が空襲を受けたとの記述があった。
1941年の日本海軍機の真珠湾攻撃を予知していたのか?、ウィリアムスン。


書名 時間旅行者は緑の海に漂う
原題 Door Number Three(1995)
著者 パトリック・オリアリー
訳者 中原尚哉
出版 ハヤカワ文庫SF(1997/09/30)
分野 SF

「つまらん」の一言だけじゃいかんだろうか?。
感想を書く手間さえもったいないような気がする。
邦題よりも原題の「Door Number Three」が題名にぴったりくる(当たり前か)。
文学小説が好きな人はどうぞ。


書名 帝国の秘宝
原題 THE CROWN JEWELS(1987)
著者 ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
訳者 赤尾秀子
出版 ハヤカワ文庫SF(1991/05/31)
分野 SF

「機略縦横、神出鬼没、絶世の美女に甘い恋をささやきながら、狙った宝は断じて逃さない。
それが、異星人コーサリイの支配下にある銀河貴族社会で、
ひときわ人気の高い《公認盗賊》ドレイク・マイジストラルだ。
だがこの快盗でさえ、今回の獲物には手こずっていた一一
銀河帝国の命運を左右する究極の”秘宝”を盗みだすというのだから!
全宇宙が注視する中で、虚々実々の駆引きの幕は切って落とされた……
シリーズ開幕篇」

裏表紙解説より

この著者はかつてサイバーパンクの亜流とか叩かれて いたことがあったのですが、叩かれた当の『ハードワイヤード』が私には正当なサイバーパンクよりも面白かったんですね。
だからこの作家は好きだったのですが、その割にこの本が読むのが2冊目で、下手すると15年ぶり以上かもしれません。
巻末の解説でも言及されていましたが、アニメの「ルパン三世」的と表現するのが、一番わかりやすいような気がします。
一気に読んで一時の愉しみを得るには最適だと思います。
峰富士子的位置付けのキャラクタも出てきますが、性格面では「ルパン三世」とちょうど逆で、つれないのはマイジストラルの方で、純情なのはニコルとなっています。
翻訳されぬシリーズ最終巻では幸せになってくれよニコル。
ザコキャラといえばザコキャラなので、もう登場しないかもしれないけれどね。
かつては快調に翻訳出版が進んでいたウィリアムズですが、このシリーズの続刊1冊を最後に日本での出版はぱったり途絶えてしまっていますから、このシリーズの行く末を知ることはないだろうな。


書名 最後の地球船
原題 The Last Starship from Earth(1968)
著者 ジョン・ボイド
訳者 
出版 ハヤカワ文庫SF(1971/10/31)
分野 SF

「数学ブロフェショナルの若き天才ホールデイン四世は,ある日偶然詩学専攻の美女ヘリックスと出会い,一目で恋に落ちた。
彼は必死で彼女との再会を企てるが,しかし,キリスト教会・社会学者・心理学者の三頭政治下.人類が厳格な身分階層に分類され異種族混交をかたく禁じられた世界で,二人の恋は所詮許されるものではながった!
人目をしのぶ逢瀬を重ねるうちに彼女は妊娠。
警察に逮捕されたホールデインは,裁判のあげく巨大電子頭脳<教皇>の判決をうけることとなる。
結果は−−宇宙の果てにあるという,恐るベき囚人流刑地<地獄星>への追放であった!」

扉作品紹介より。

ありがちといえばあちがちな設定で、おまけにストーリーもありがちな話から外れることはないので、トホホな印象は免れないのですが。
最後の方でSF的展開になるので少しは救いがあるかも。


書名 ファイナルジェンダー -神々の翼に乗って
原題 Commitment Hour(1998)
著者 ジェイムズ・アラン・ガードナー
訳者 
出版 ハヤカワ文庫SF(1999/09/30)
分野 SF

「神々の手によって毎年、性転換が行なわれるトバー入江。
人々は20歳で≪最終陸選択≫を行なうまでに、どちらの性を選ぶか決めるのだ。
今年、少年フリンは選択を前に悩んでいた。
男か、女か?
そして≪最終性選択≫前夜、彼の前に現われた謎の他所者は、男でも 女でもない≪中性≫だった!
入江には騒動が巻き起こり、フリンは彼の運命を大きく変える冒険に乗りだすことになる。
俊英のユニークな発想が冴えわたる傑作SF」

裏表紙作品紹介より。

現在からみて特殊な社会を想定して、それがどのようなものになるか考察する、SFの専売特許とまではいかないが、得意とする事柄です。
今月読んだ中でも『グローリー・シーズン』『最後の地球船』がそれに当たります。
この『ファイナルジェンダー』の場合「若い時期に一年おきに男と女を交互に経験してゆけばもっと良い社会になるのかどうか。」という点についてガードナーが考察した結果が反映されているはずです。
どんな社会になっているかについては、詳しく書くとこれから読む方の興を削ぐことになるので、少しだけ感想を書くに止めますが、性が変っただけで考え方や話方が一日にして変化するのは変だと思いました。
ただしガードナーはそれについても理由を述べています。
このあたりに、このような世界がどのようなものになるかについての著者の考え方が現れているのではないかと思います。
どのようにして性を変えることができるか、も最後でタネが明かされるのでそれも、楽しみの一つではないかと思う。
性転換が日常となった世界を構築した某作家とほぼ同じ方法なので、その作家の著作を読んだ方にとってはおなじみの方法ではありますけれども。



書名 プロテウス・オペレーション
原題 THE PROTEUS OPERATION(1985)
著者 ジェイムズ・P・ホーガン
訳者 小隅黎
出版 ハヤカワ文庫SF(1987/12/31)
分野 SF

「1974年、世界はかつてない暗黒時代を迎えていた。
第二次大戦で圧倒的勝利をおさめたナチス・ドイツが、ヨーロッパはおろか
アジアやアフリカ、さらには南アメリカまで支配していたのだ。
ナチスの魔手は次第にアメリカ合衆国へと伸び、ふたたび戦争が起こるのは必至だった。
そのアメリカに唯一残された最後の希望が《プロテウス作戦》だ−−
過去の世界に選りすぐりの工作隊を送りこみ、歴史の進路をねじ曲げて、
いち早くナチスの野望を叩きつぶすのだ!
かくして《プロテウス部隊》は勇躍時間の流れに飛ぴこんだが…
人気絶頂のホーガンが時間テーマに挑んだ雄渾のSF大作!」

裏表紙解説より
どういった方法で時間旅行するかというと、とどのつまり、量子論における多元世界間の移動によるものなのですが。
この小説における、時間移動の方法を読者に、説明してゆくところは、ぎこちなさを感じさせず、この手際の良さのあたりにホーガンの人気の一端を垣間見た気がしたのでした。
理論はともかく、実践面は未来の技術の産物でよくわからんのじゃよ、という形で逃げているので、不満を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
ストーリーは平凡かなあ。
ラストも初期のホーガンの長編に見られる、我らの未来はバラ色、といった感じゃないのも異色かな。
ホーガンとしては水準以下の出来だと思うのですが。
ホーガンだと思わなければ相当面白い作品でした。


書名 緑の少女
原題 The Color of Distance(1995)
著者 エイミー・トムスン
訳者 田中一江
出版 ハヤカワ文庫SF(1996/12/15)
分野 SF

「長い眠りからさめたジュナは、目の前の自分の姿に息をのんだ。
頭髪は消え去り、鉤爪が生え、肌は鮮やかなオレンジ色だ。
いったいなぜ?わたしは異星の熱帯雨林で死にかけていたはずなのに……
ジュナを救い、その身体を改造したのは、密林に住む原住民テンドウだった。人類のたぴ
かさなる調査でも発見できなかった異星種族が、ついにその驚くべきカを現わ したのだ!
見知らぬ緑の星にとり残されたジュナの運命は……?」

裏表紙作品紹介より。

社会も考え方も身体機能も異なる人類とテンドウとのファーストコンタクトSF。
テンドウ達の視点から描写された部分が人類の視点から描写された部分よりも多いため。
ともすれば、テンドウが人類とかけ離れた種であることを忘れがちになってしまう。
特殊能力を持つ全く異なる文化を持つ人達ぐらいの感覚で考えてしまいがちになってしまう。
しかし、これは仕方のない事だと思う。
テンドウの視点で描写されている部分が人類と全く異なるメンタリティで描写されてしまうと、読み手のこちらが理解不能になってしまう。
この部分は人類に理解できるように翻訳して描写されていると考えて読むのがいいだろう。
本来のテンドウはもっと異質な存在だと考えている。
そのテンドウと人類の女性ジュナは極めて容易に意思の疎通が図れてしまうのだが、それもこれも、生来テンドウの持つ能力のせいで。それでもかなりの努力を重ねつつ、次の人類との接触が破滅的にならないように、相互理解の進行に努める。
その相互理解が深まるとともに徐々に判明してくるテンドウの生態や文化がこの本の読みどころだと思う。
裏表紙の作品紹介や、表紙絵、邦題など全ての点において、読む気が全く起きなかった、この本ですが、いざ読んでみたら、読んでよかったと思えるSFだった。
やっぱり「緑のおばさん」じゃ別のものを想像してしまうから「緑の少女」になったのだろうか?。


書名 エルトダウンの炎
原題 HOUSE OF SHARDS(1988)
著者 ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
訳者 赤尾秀子
出版 ハヤカワ文庫SF(1991/07/31)
分野 SF

「リゾート小惑星シルヴァーサイドがついに完成した。
華やかな開幕セレモニーにつめかけたあまたの名士や貴婦人たちのなかに、
われらが快盗マイジストラルの姿もあった。狙いは、銀河に名高い宝石
《エルトダウンの炎》。
だがこの宝石を狙っているのは彼だけではない。
宿命のライバル、フウ・ジョージも、この警戒堅固な小惑星に乗りこんできていたのだ!
エレガントな快盗の胸のすく活躍をえがく人気沸騰シリーズ第2弾!」

裏表紙作品紹介より

帝国の秘宝(私の感想)に続くシリーズ第2作。
ウィリアムズの長編邦訳はこれで停止してしまったので、売れ行きが芳しくなかったのでしょうね。
面白いと思うのですが。

前作での私の心配をよそに、ニコルは他の男に走ってしまっています。
べったりくっついていられても、鬱陶しいだけなので、良い処遇だなと思う。
この巻は個性豊かな登場人物が多彩で、めまぐるしい展開の中、あっという間に読み終えてしまいました。
大規模な盗難が発生したにもかかわらず、登場人物皆幸福なままエンディングを迎える著者の手並みが鮮やかだと思う。


書名 ホラーを書く!
著者 東雅夫
出版 小学館文庫(2002/07/01)
分野 その他

日本人ホラー作家へのインタビュー集。
キングという作家の影響力が非常に大きいらしい、多くの作家がキングの長所や影響を受けたところ、など述べているのだが。
実は私はキングを一冊読んでつまらなかったし、(私の感想)、このインタビューで述べられたキングの美点を目にしても、何処が素晴らしいのかさっぱり判らなかったので、もう一度どれか読んでみるべきだろうか。
最近SFばかり読んでいるが、ホラーに興味がないわけではないのだ、マキャモンの『少年時代』、やランズデールの『狂犬の夏』は私のお気に入りなのだ。(正当派のホラーかどうかは判らないが)。
文庫落ちなので最新インタビューではないのですが、その後の経過をコメントとして寄せられている作家の方もおり、時間の経過についてある程度の配慮が配られています。
ホラー作家がどのような態度で執筆に向っているか興味のある方は読むといいと思います。あたりまえか。


書名 火星の虹
原題 MARTIAN RAINBOW(1991)
著者 ロバート・L・フォワード
訳者 山高昭
出版 ハヤカワ文庫SF(1992/09/30)
分野 SF

「アメリカ宇宙軍が主体となった多国籍の国連火星遠征軍は、
火星各地に築かれた新生ソヴィエト連邦の基地を急襲、占領に成功した。
やがて、この遠征軍を率いていた双子の兄弟オーガスタスとアレクサンダーは、
苛酷きわまりない環境の火星と人類の故郷である地球でそれぞれの道を進みはじめるが……
科学者作家フォワードが、最新の科学知識と理論を縦横にもちいて、
火星の姿と火星植民の未来をいきいきと描きだすハードSF」

裏表紙作品紹介より

1990年代には最新の観測の結果解ってきた新しい火星像による、”火星SF”が何作品か執筆されました。
テリー・ビッスンの『赤い惑星への航海』(1990)、ロバート・L・フォワードの『火星の虹』(1991)、キム・スタンリー・ロビンスンの『レッド・マーズ』(1992)、『グリーン・マーズ』(1993)、『Blue Mars』(1996)、 グレッグ・ベアの『火星転移』(1993)
。などです。
このうち、『火星転移』、『レッド・マーズ』に始まる火星3部作、『火星の虹』は火星に移住した人々の物語なのですが、やはりこうした場合政治とは無縁とはいかないようで、3作とも政治関係の話にページの多くを割いています。
『火星転移』と火星3部作はそのあたりそこはかとなく退屈感を感じたのですが、『火星の虹』の場合は多少の”変”さを感じました。
ハインラインの未来史に準拠した歴史や社会に設定してあるため、強引さを感じるのです。
この本の魅力はリアリティのある火星の描写にあるので, 設定が変な部分は目をつぶれば問題はいと思います。
長所のみに着目して愉しむのが良いでしょう。
題名にもなっている”火星の虹”の光景は素晴らしいですよ。
火星のテラフォーミングの方法は『火星の虹』の場合は相当強引かつ都合よすぎる話だと思いました。
この部分は好き好きで、とても良いと感じる人が多いと思います。


書名 猫のゆりかご
原題 Cat's Cradle(1963)
著者 カート・ヴォネガット・ジュニア
訳者 伊藤典夫
出版 ハヤカワ文庫SF(1979/07/31)
分野 SF

「私の名はジョーナ。いまプエルト・リコ沖のサン・ロレンゾ島にいる.”パパ”モンザーノの専制政治に支配されるこの島で、『世界が終末をむかえた日』の著者となるべき私は、禁断のボコノン教徒となったのだ。
”目がまわる、目がまわる”世の中は複雑すぎる。
愛するサン・ロレンゾ一の美女モナが、世界中のありとあらゆる水を氷 に変えてしまう<アイス・ナイン>が、柔和な黒人教祖ボコノンが、カリプロを口ずさむ私のまわりをめぐりはじめる−−
独自のシニカルなユーモアにみちた文章て定評のある著者が、奇妙な登場人物たちを操り不思議な世界の終末を描いたSF長篇」

裏表紙作品紹介より。

暴言になりますが、”アイスナイン”の部分だけに着目した20ページぐらいの短編だったら良かったのにと思う。
それ以外の部分は不必要だと思う。


書名 聖堂都市サーク
原題 Cirque(1977)
著者 テリー・カー
訳者 宮脇孝雄
出版 ハヤカワ文庫SF(1984/08/31)
分野 SF

「その朝、アルデパランからひとりの異星人がサークを訪れた。
華やかな銀河文明からとりのこされた地球では、幾多の壮麗な寺院が立ち並ぶ平和な都市サークだけが、にぎわいを見せている。
異星人は、街の中心にある直径10キロの底なしの<淵>から現われるすばらしいものを見にきた、と謎めいた言葉を口にした。
だが、住民たちがテレパシー放送で見たものは、底知れぬ暗黒 から躍り出た、伝説の<獣>の巨大で醜悪な姿だった!
狂暴な<獣>の脅威に、住民は怯え、逃けまどうばかりだったが……
編集者、アンソロジストとしても令名を馳せる才人が、満を持してはなつ傑作長篇!」

裏表紙作品紹介より。

過去と未来を同様に認知できる異星人は"どのようにして"、"なぜ"の概念のうち"なぜ"の概念が理解できない。
その異星人がなぜ”サーク”に来たのか?。
そんな話です。
サークの風物の描写も多いので、サークを観光する楽しみもある。


書名 虹の天象儀
著者 瀬名秀明
出版 祥伝社(2001/11/10)
分野 SF

「まるで宇宙船のようにも見える、不恩議な形をした星の投影機。
四十四年間の使命を終え閉館した渋谷の五島プラネタリウムに、不思議な少年年がやって来た。
「おじさん、プラネタリウムはどんな時代の星でもつくれるんでしょう? 昔に吸い込まれそうになったことはない?」
-- 一つの思いが心に刻まれ、昭和二十年前後の時代にタイムスリップする感動の物語!」

裏表紙作品紹介より。

コンパクトにまとまった良い話だ、いらぬ書きこみをしてページ稼ぎをする作家は見習ってもらいたいと思う。
天象儀のにこだわる主人公(というより天象儀自体)に惹かれた。
回顧モードに入るが、五島プラネタリウムには小学校2年生の時両親に連れていってもらったことがある。
今回思い出したのだが、展示室?に展示されていた、地球と太陽、太陽と他の恒星の大きさを比較したパネルを見て恒星の巨大さに驚嘆した覚えがある。
世界地図を始めて見て間もない頃だった。
あの時の驚きが今の私をSFファンにした遠因となっているのだろうか?。
なるべくして、なっているような気がするので、関係ないと思うが。
そう思っていたい気がする。


書名 アイ・アム
著者 菅浩江
出版 祥伝社(2001/11/10)
分野 SF

「私は誰?‐‐円柱形のボディに特殊ラバーの腕。
ホスピス病院で目覚めた<ミキ>は、プログラミングされた高度な知識と技術で、難病の子供や末期癌患者たちを介護すべく活躍を始めた。
生と死が隣り含わせの現場で、激しく揺れる心、そしてなぜか甦る奇妙な記憶。
私は本当にロボットなの?「自分探し」をするミキが、”人間とは何か”を問う、感涙の近未来小説誕生!」

裏表紙作品紹介より。

ストーリー自体は特に驚かせられることもなく、予定調和的に終わるが、この本の読みどころは登場してくる人達の心の機微の描かれ方だと思う。
病院での話なので、どろどろした部分もあるが、皆人生に前向きに対していてさわやかだ。
この著者の登場人物は、この本においてもさわやかすぎて、本ばかり読んでいるおじさんには眩しい。
この本も『虹の天象儀』と同じくコンパクトな割に内容が詰まっている。
枚数制限のある方が作家に良いものを書かせることになるのでは?、と思ってしまた。


書名 太陽の簒奪者
著者 野尻抱介
出版 早川書房(2002/04/20)
分野 SF

西暦2006年、突如として水星の地表から噴き上げられた鉱物資源は、
やがて、太陽をとりまく直径8000万キロのリングを形成しはじめた。
日照量の激減により破滅の危機に瀕する人類。
いったい何者が、何の目的でリングを創造したのか?
−一異星文明への憧れと人類救済という使命の狭間で葛藤する科学者・白石亜紀は、宇宙艦ファランクスによる破壊ミッションヘと旅立つが……。
星雲賞・SFマガジン読者賞受賞の傑作短篇、待望の長篇化!」

裏表紙作品紹介より

オーソドックスといえばこれほどオーソドックスなSFは近頃珍しいです。
巻末の著者の言葉「現代の知見をもとにしたファーストコンタクト・テーマを書きつづけてゆく価値はある」がこの作品の位置付けを的確に表現していると思う。
オーソドックスなSFが珍しいということは、つまり、最近オーソドックスなSFを書ける力量のある作家がほとんどいないと言うこともできると思う。(いやこんな言いかたをしたら、書けるけど、書いていないという作家に対しては失礼か)
この本は、僕の読みたいSFってのは、こんなSFなんだよ、ってSFで。
著者はそんなSFが書ける希少な著者のうちの一人だということなんだ。


書名 蒼海の尖兵10
著者 横山信義
出版 中央公論新社(2002/06/15)
分野 仮想戦記

最終巻です、八八艦隊物語、修羅の波涛と10巻で終わらせているのだが、こちらは10巻で終わるのだろうかと思っていたら、陸戦部分はばっさりカットして終わらせていた。
最後にシリースを通しての感想を書いておくと、面白いから読む価値はあるが、これもトンデモ仮想戦記の仲間なんだから、変なところは笑って許してやってください。


書名 最果ての銀河船団
原題 A Deepness in the Sky(1999)
著者 ヴァーナー・ヴィンジ
訳者 中原尚哉
出版 創元SF文庫(2002/06/14)
分野 SF

「250年のうち35年間だけ光を放ち、それ以外は人が消える奇妙な恒星。
その星系には知性を有する蜘味型生命が存在していた。
彼らの惑星がもたらす莫大な利益を求めて、二つの人類商船団が進出する。
だが軌道上で睨みあいを続けるうち戦闘の火蓋が切られ、双方とも装備の大半を失い航行不能に。
彼らには、地上の種族が冬眠から目覚め、高度な文明を築くのを待つしか手段がなかった。」

裏表紙作品紹介より

チャンドラーの本と間違えそうな題名だなと思う。

面白い、面白いのは本当だから、読む人は1300ページたっぷり楽しめるはずです。
しかし、何かが足りない、SFに大事なのは細々としたいろいろなギミックでなくて、読み手の想像力を遙に凌駕するような、著者の想像力だと思うのだけど。
それが無いんだよ、いろいろごちゃごちゃしているせいで、私が気づいていないだけ、な可能性も大きいんだけど。
なまじ面白いだけにもったいなさが募る。
こう思ったりするのはバクスターのせいだな、きっと。

蜘味型生命の描写は人類の描写と差異を感じないのだが、これは『緑の少女』(私の感想)で書いたことと同じで、読み手に理解できるように描写しているだけで、実際はもっと理解しがたい存在なのだと考えると良いと思う。
それと前作の『遠き神々の炎』のスゴイ設定がこれっぽっちも出てこなかったのは、拍子抜けした。
その代わり、『遠き神々の炎』を読まずにこれを読んでも大丈夫です。
『遠き神々の炎』と共通の世界設定と解説がなかったら気づいてなかったろうと思えるほど。


書名 クリプトノミコン 3 −アレトゥサ−
原題 CRYPTONOMICON(1999)
著者 ニール・スティーヴンスン
訳者 中原尚哉
出版 ハヤカワ文庫SF(2002/06/30)
分野 SF

今のところ、これのどこがSFなんだろうと疑問に思う。
次ぎの最終巻でSFになってなかったら、荒れるぞ。


書名 時のロスト・ワールド
原題 The Lost World of Time(1941)
著者 エドモンド・ハミルトン
訳者 野田昌宏
出版 ハヤカワ文庫SF(1972/09/30)
分野 SF

木星人とか火星人とか出てくるので、これは、地球人が植民したものか、
それとも、現地で発生したものかと思ったが、何と太陽系全ての惑星に現地で 発生した人類がいる設定になっているようだ。
気にせず読めば楽しめますと書きたいところだが、
気にせず読んでも、ストーリー自体にスペクタクルが乏しく、
あまり面白くありませんでした。
今まで読んだハミルトンのスペースオペラの中ではおとなしめかな。


書名 未知の地平線
原題 Beyond This Horizon(1948)
著者 ロバート・A・ハインライン
訳者 斎藤伯好
出版 ハヤカワ文庫SF(1986/08/31)
分野 SF

「時は23世紀。遺伝子操作が可能となりすぺての病苦は克服され、人々は自由を享楽していた。だが、このユートビアのような地球社会に、反逆をいどむ集団があった。
自らを<生き残りクラプ>と称するかれらの目的ほ、より機能的な杜会をつくりあげること。
四世代以上にわたる遣伝子操作の結果生まれたエリート種の一人でありながら、現状にあきたらぬ若者ハミルトン・フェリクスは、しだいにその運動に巻きこまれてゆくが……
巨匠ハインラインが、遣伝子操作の問題に深く切りこみ、ありうべき近未来社会の姿をリアルにかつヴィヴィッドに描きあげた、記念すべき長篇第一作!」

裏表紙作品紹介より。

1941年の時期に遺伝子操作による人種改良の話を書いてしまうのだから、やっぱりミスターSFと呼ばれるだけのことはあるんだなあ。
すいません、『栄光の道』を読んで以来ハインラインを見くびっていた私が愚かでした。
でもこの小説自体はつまらなかったかな。


書名 スローターハウス 5
原題 Slaughterhouse-Five(1969)
著者 カート・ヴォネガット・ジュニア
訳者 伊藤典夫
出版 ハヤカワ文庫SF(1978/12/31)
分野 SF

「時の流れの呪縛から解き放たれたビリー・ピルグリムは、自己の生涯を過去から未来へと往来する奇妙な時間旅行者となっていた。
大富豪の娘との幸福な結婚生活を送るビり一……
UFOに誘拐され、さる肉体派有名女優とトラルファマドール星の動物園に入れられるビリー……
そして、第二次世界大戦に従軍した彼はドイツ軍の捕虜となり、連合軍によるドレスデン無差別爆撃を受ける。
そして、人生のすべてを一望のもとに眺めるビリーは、その徹底的な無意味さを知りつくすのだった。
現代アメリカ文学において、もっともユニークな活躍をつづける作家による不条理な世界の鳥瞰図」

裏表紙作品紹介より。

1945年に古都ドレスデンがそこにいた人々と共に抹殺されたことを気にとめている人などほとんどいないだろう。
そういうものだ。
せめて今だけは、哀悼の意を表したい。

作品の最後より引用する。
「木々が芽を吹きだしていた。道路に動くものはなかった。自動車一台走ってなかった。二頭立ての馬車が一台、乗り捨てられているだけ。馬車は緑色で、棺のかたちをしていた。小鳥たちがおしゃべりをしていた。」
これはドイツの終戦の日における描写だが、この描写に私は既視感があるのだ、ドイツ人の戦時についての手記や小説の終戦の部分の描写で似たような光景に出会ったことがある。(『最終戦』だったか?『空対空爆撃戦隊』だったか?)
「若葉が芽吹くころの終戦」、夏の真っ盛りに終戦を迎えた日本人とは、敗戦と聞いて思い浮かべる光景が異なることを、実感した。
当たり前のことなんだけど。


書名 言の葉の樹
原題 The Telling(2000)
著者 アーシュラ・K・ル・グィン
訳者 小尾芙佐
出版 ハヤカワ文庫SF(2002/06/30)
分野 SF

「古い象形文字で書かれた、詩や小説、歴史書、哲学書など、過去のあらゆる本が焚書にされる惑星アカ。
科学技術の進んだ大宇宙連合エクーメンと接触後、圧政がしかれているアカは、伝統的な文化を捨て去り、新たな道を進みはじめていた。
そんな世界に観察員として、地球から派遣された若き女性サティが知った伝統文化<語り>とは…
『闇の左手』と同じくハイニッシュ・ユニヴァースを舞台に描いたローカス賞受賞作」

裏表紙作品紹介より

「ありがとう」と言うことが相手に失礼になる世界、冒頭でその世界が異なる習慣を持つことを実感させられる。
「ありがとう」と言わないように常に気をつけていなければならないことにすごく居心地の悪さを感じさせられるのです。
(施政者の思惑によって)「伝統的な文化を捨て去り、新たな道を進みはじめて」
というところが、日本人である私にとっても人事じゃない話でありました。

実は私はグィンは苦手意識を持つ作家でした。
『闇の左手』に登場する”どちらの性にもなれる人”が男にしか思えず、気色悪かったのです。
(ネタバレ防止に不親切な記述をしましたが、『闇の左手』を読んだことのある方には、どの部分のことを書いているのかはわかると思います。)
しかしこの小説は、そんなことはなかったのでグィン恐怖症は払拭できたと思う。


書名 惑星総督グライムズ
原題 To Rule the Refugees(1983)
著者 A・バートラム・チャンドラー
訳者 野田昌宏
出版 ハヤカワ文庫SF(1983/08/15)
分野 SF

「監察宇宙軍の予備役に復帰したグライムズはダミアン少将から新たなる密命を受けた。
宇宙海賊のつぎに、今度は総督として惑星リペリアへ行けというのである。
無政府主義者たちによって植民されたリペリアも、いまでは当初の自由な気風は完全に失われ、一部の支配者階級がさまざまな惑星から受けいれた難民たちに奴隷制を強要している。
しかもその親玉が、地球陸軍から派遺された駐屯軍の司令官だというのだ!
なんとしてもかれらをぶちのめし、リペリアに自由をとりもどさせること−−
これが今回の任務だったが……。
お待ちかねわれらがクヲイムズの一大冒険!」

扉作品紹介より

グライムズは今回もまた陰謀に巻きこまれて、地上に降りても骨休めさせてもらえません。
少し可哀相にと思いかけましたが、のんびり暮すとなったら、かえってストレスを溜めそうな人物なので、これでいいのでしょう。
次巻では、再び宇宙に出て行きます、よかったね、グライムズ。
あなたにはやっぱり宇宙船が似合う。




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