2002年1月の読書感想


書名 戦車と砲戦車(歴史群像 太平洋戦史シリーズVol.34)
出版 学研(2002/01/20)
分野 軍事

このシリーズのムック本はほぼ読んでいないのですが、めずらしく読んでみた。 読んだそばから皆忘れたので、毒にも薬にもならなかった、何という情けない記憶力よ。
最近このシリーズがCGグラフィックを掲載するようになってきているが。
個人的には全くのページの無駄である、こんなものの何が良いのか。
内容的には巻末の戦車連隊小戦史をもっと詳しく掲載して欲しかった。これだけで一冊使ってもらってもよかったと思う。


書名 昭和二十年 第一部=9 国力の現状と民心の動向
著者 鳥井民
出版 草思社(2001/12/25)
分野 軍事

突然9巻単独で読んでみた、「日本戦争経済の崩壊」を読んで戦争経済に興味があったため、内容的にちょうど良かったのです。
昭和二十年の国力の現状は惨澹たる有り様ですね、もう闘えないという事がわからなかったあたり、徹底抗戦派は己を知らなさすぎます。
この「昭和二十年」という本は執筆に15年の歳月を費やしているそうですが、存在を今の今まで知りませんでした。
ですが、今回9巻を読んでみて分かったのですが、「これはいい本です」1〜8巻を購入するには少なからぬ出費は必要ですが、買う事に決めました。例えば9巻は2600円するのですが、充分以上にその価値があります。巻末の参考文献を見てもらえば納得してもらえるはずです。


書名 翻訳者の仕事部屋
著者 深町眞理子
出版 ちくま文庫(2001/12/10)
分野 その他

著者はオースン・スコット・カードの「辺境」の翻訳者でいらっしゃいますので。これは読まなきゃいかないでしょう、という訳で読んでみました。
SF翻訳の裏話的なものが読みたかったのですが、これについてはほとんど触れられていなかったので期待外れといえば期待外れでした、勝手な期待なんですがね。
ブロの翻訳者っていうのはやっぱりプロフェッショナルですね。これからも翻訳書をありがたく読ませていただきます。


書名 ジェット戦闘機Me262
著者 渡辺洋二
出版 光人社NF文庫(2001/06/17)
分野 軍事

渡辺洋二だから外れる事は無い、読んで損無し。
素晴らしすぎる。
今回大幅な加筆修正のうえ再刊された事をよろこびたい。
というかほとんど別物です。

1930    英ホイットルジェットエンジンの特許を得る。
1933    オハインがターボ・ジェットエンジンの開発研究を開始。
1936/06   オハイン、ハインケル社に入社
1937/04  英、ホイットルの設立したパワー・ジェット社が航空用ターボ・ジェットエンジンの地上運転に成功。
1937/09  ハインケル社のドイツ初のジェットエンジンHeS1水素燃料での駆動テストに成功
1938初め  メッサーシュミット社ジェットエンジン搭載機についての研究開始。
1938晩秋  航空省技術局、メッサーシュミット社に機体の開発を提案。エンジンの方もBMW社に研究を担当させる。
1939/06/20  ハインケル社有人ロケット機He176初飛行。
1939夏    BMW社のジェットエンジン開発のもたつきによりユンカース社もジェットエンジン開発契約を受ける。
1939/08/27  HeS3Bエンジン搭載のHe178世界初のジェット飛行
1939/11/01  航空次官ミルヒと航空省技術局長ウーデットHe178の飛行を見る。だが彼らは興味を示さなかった
1940/08/27   伊カプロニ・カンピーニN1飛行、最大速度は330キロ/時
1941/04/02  HeS8Aエンジン搭載のハインケルHe280初飛行。4/5にはウーデットが見学するも興味を示さず。He280はテストの間に780キロ/時の速度を記録した。
1941/05/15   1942/10  ユモ004A装備のMe262V2飛行 1943/4/17  JG54において中隊長の経験をもつシュペーテが飛行
      「この機はすぐにでも、実戦部隊に配備できます」とコメント
1943/4/18  テストパイロットのオステルターク墜落して殉職
1943/5/22  ガランドが搭乗して飛行。「Me262はものすごい成功作です、プロペラ機が相手なら、戦闘はきわめて有利になるでしょう。本機の飛行性能はすばらしく、エンジンも離着陸以外はまったく良好です。まさしく、革新的な戦術を可能にする機材といえます」とミルヒに向け電報。
1943/5/25  ガランドはゲーリングとミルヒにMe262の最優先生産を認めさせる。
1943/5/28  捕虜にした英空軍の隊員より「去年のクリスマスにファーンボロー基地で、プロペラのない飛行機が飛ぶのを見た」との証言を得る。
1943/8/下旬 ヒトラー、「Me262の大量産は、危険が大きすぎると否定」, このころガーランドは月産1000機を主張していた。
1943/7月下旬から8月上旬  ハンブルグ昼夜の爆撃により2/3が崩壊死者5万人
1943/10/17  実用機にも装備されたユモ004Bー1装備のMe262V6初飛行
1943/11/26  ヒトラーMe262V6の飛行を見学。「これこそ、まさしく電撃爆撃機だ!年来、ドイツ空軍に必要だった飛行機なのだ」とコメント
1943後半  ユンカース社は規模は小さいながらユモ004Bの量産態勢に入る, ただし諸問題続出いちおうの解決に1944夏までかかる
1943/12中旬  P51によるドイツ本土爆撃の重爆の援護が始まる。
1944/4末  レヒフェルトで262実験隊が編成、5月初めまでにまずMe262V8と先行量産型2機を受領
1944/05/23  ヒトラーMe262生産機の戦闘爆撃機化を命ずる。
1944/06/03  戦闘爆撃部隊として、3.KG51よりの選抜要因Me262への機種改変開始。シェンク実験隊と命名、やがてKG51自体がMe262装備の爆撃機部隊となってゆく。このころのユモ004B-1は、実動わずか8〜10時間
1944/06末  このころからレヒフェルトの262実験隊迎撃活動開始。
1944/07月下旬  このころからシェンク実験隊、実戦での活動開始。
1944/07/18  262実験隊隊長のヴェルナー・ティーフェルダー大尉戦死、降下時に引き起こせなくなったのが原因と推定される。後任はヴァルター・ノヴォトニー少佐
1944/08/28  シェンク実験隊のラウアー上級曹長、米78FG82FSのP47の追撃を受け胴体着陸、初の被撃墜。
1944/09  ジェット爆撃機Ar234偵察任務開始。
1944/12  Ar234爆撃任務開始。
もし1941年春の時点でHe280の実用化を強力に推し進めていれば、1942年8月から始まる米第8空軍の空襲に対し、大きな迎撃戦力になったのは疑いない、
と書く著者の言葉に納得する。


書名 火星夜想曲
原題 DESOLATION ROAD(1988)
著者 イアン・マクドナルド
訳者 古沢嘉通
出版 ハヤカワ文庫SF(1997/08/31)
分野 SF

読み始めはなかなか良さそうな感触があったのですが。
良いと思える小説でもそれぞれ適したページ数というものがあって、この小説は大幅にそれをオーバーしている、後半大事件が勃発しているにも関わらず読み手の私は退屈しきっていた。
結局人々の起こす摩擦が引き起こすトラブル史であるところなど、キム・スタンリー・ロビンスンの「レッド・マーズ」に読みごこちは非常に似ている。
「レッド・マーズ」が好きな人はこの本も気に入るのではないだろうか。


書名 対日仮想戦略「オレンジ作戦」
著者 NHK取材班
出版 角川文庫(1995/07/10)
分野 軍事

日露戦争後米国の第一の仮想的国は日本となっていった、米国の対日戦争戦略は1921年のワシントン軍縮条約の締結など状況によって変化していった。
案外遅い時機まで米海軍は大艦隊の渡洋作戦によって一気に戦争の決着をつけようとする戦略をとろうとしていたのに気づく。
軍縮条約によってかえって敵愾心をつのらせたのは日本ばかりでなく、米国もそうであったそうだ、軍縮条約により敵意をつのらせるのは本末転倒な気がするが、平和を求めた結果の軍縮条約でなく、財政難が契機となった軍縮条約であったことを考えると不思議でもなんでもなくなる。


書名 西部戦線のフォッケウルフFw190エース
著者 ジョン・ウィール
訳者 阿部孝一郎
出版 大日本絵画(2002/01/09)
分野 軍事

先月第8航空軍のP−51マスタングエース」の感想で「来月発売の同シリーズの「西部戦線のフォッケウルフFw190エース」が楽しみだなあ。ドイツの戦闘機搭乗員中最も尊敬するエゴン・マイヤーの出番だからね。」とか書いたのですが、エゴン・マイヤーについてはほとんど言及されていませんでした。
エゴン・マイヤーに限らずこの巻はちょっと趣が変っていて、エース小伝のようなものがなく、「西部戦線におけるFw190戦史」的なものでした。
あきらめきれずに続刊予定を見ていると、「Jg2」の本が出るようなのでそれに期待しよう、そうだこちらには詳しく紹介されるに違いない。
翻訳のカナ表記が良く使われるものと異なるため読みにくかった、実際の発音に合わせるようにした結果そうなったのかなあ?と思ったりしたのだが、グルンツと書いたりクルンツと書いたり一冊の本の中でもカナ表記が一定していないので、そこまで気を遣って訳しているわけでもなさそうだ。
分中「1943年から1944年の早い時期にかけて起こつた出来事をほぼ毎日、日記形式て、たとえば連合軍が繰り出した攻撃部隊の詳細な機数、ドイツ軍の迎撃戦力、そして両軍の撃墜戦果と被った損害、といつた具合に述べるのはいくらか単調てあるし、あまりにも安易に過ぎるであろう。」と書いてある部分があるいんですが、違うよこの部分こそ本当に欲しかった部分なんだよ、なぜそんな勘違いをするんだ。
この部分を書いてもらうためにも、あと100倍ぐらいのページ数が欲しい本だった。


書名 ドラキュラ紀元
原題 ANNO DRACULA(1992)
著者 キム・ニューマン
訳者 梶元靖子
出版 創元推理文庫(1995/06/30)
分野 ホラー

この本を読むきっかけになった書評がありまして、これなんですが、随分前から読もう、読もうと思っていたんですが、なんで読むのが今ごろになったかというと、この本の元になった世界の小説である「吸血鬼ドラキュラ」がもう、凄まじく退屈でしかも物凄く分厚いという、オレこんな苦行をするため小説読んでんじゃないやいと言いたくなるほどの悪書だったからで、「ドラキュラ紀元」読むぞという意気込みもたちまち吹っ飛んでしまっていたのでした。
昔の人はよくこんなつまらない本を喜んで読んだものです。
「ドラキュラ紀元」読む前に「ドラキュラ」読んで予習しておきたい人は菊地秀行がリライトした「吸血鬼ドラキュラ」を読んだ方がいいかもしれません。
で「ドラキュラ紀元」の感想に移りますが、「吸血鬼ドラキュラ」読んで苦しんだかいはありました。
ドラキュラに支配されたイギリスという世界設定はもちろん、切り裂きジャックとからませた推理小説としても、現実に存在した人物はもちろん、主に吸血鬼物の小説や映画などの登場人物を中心とした人物まで、登場人物が百花繚乱の改変世界物としても。素晴らしく愉しませてくれます。
吸血鬼ドラキュラの登場人物はもちろん、シャーロックホームズの登場人物や、ジキル氏。モロー氏。エレファントマンの主人公までそれぞれ名前だけ出すのではなくてちゃんとそれぞれ役割を持った上で出演してきます。ホームズ本人の出番が無かったのは残念だなあ。
キョンシーまで出てきたにはびっくり、ちょっと、いや、かなり変ったキョンシーだけどこれが強くていいんだ。
だけど、キョンシー、なぜそこで手を引くんだ、どうせなら、キョンシー軍団引き連れてヴァンパイア共と熾烈な殲滅戦を繰り広げて欲しかったよ。



書名 失われた世界
原題 THE LOST WORLD(1912)
著者 コナン・ドイル
訳者 龍口直太郎
出版 創元推理文庫(1970/09/19)
分野 SF

他所と隔絶した場所にジュラ紀の生物が現存していた。
1912年にシャーロック・ホームズ物の著者で有名なコナン・ドイルが執筆したロストワールド物の始祖です。
今更恐竜物なぞ珍しくもないし、この小説の続編として執筆された田中光二の「ロストワールド2」がつまらなかったし、食指が動かなかったのですがいざ読んでみたならば。
これは、予期に反してお勧め本です。
まず、非常に真面目な態度で書かれた小説でした、ほらここに恐竜が現存している地域があるんだよと、ただ提示するのでなく、きちんとなぜここにロストワールドが存在するのか説明がされています、鹿などの哺乳類や猿人やインディアンも存在するのですが、それもまた、なぜ生息しているのか、推測という形で説明されているのです。
当時の一般的な最先端の科学情報を元に書かれた作品だと言えるでしょう。
登場人物も個性的でそれぞれ個性的な人達が揃っていますが、さすがにホームズほど魅力的な人物というわけにはいかなかったようです。
そして、やっぱり読んでいて面白いですね、ロストワールドが箱庭的な世界でなく生き生きと描かれているし、現時点で推定されているジュラ紀の姿とは多少異なる世界となっていますが、(90年前に書かれた作品ですからね)、それがかえって効果を発揮して、秘境に来たんだと感じさせてくれます。
もうちょっとロストワールドに居て欲しかったなと心残りがありますが、それぐらいがちょうど良い終わり方といえるでしょう。
探検の余地が残っているがために、後年田中光二をして「ロストワールド2」を執筆させたのでしょうし。


書名 皇国の守護者 1
著者 佐藤大輔
出版 中央公論社(1998/06/15)
分野 仮想戦記?

佐藤大輔が書く異世界ファンタジーじゃね、とか思って手を出していなかったのですが、ついに手を出してしまいました、だって佐藤大輔執筆スピード遅すぎです、読む本ないんだもんな。
異世界ファンタジーじゃありません、ミリタリーフィクションです ああ、よかった、佐藤大輔だよー。佐藤大輔独特の小説だ。
彼の小説は例えば、「レッドサン・ブラッククロス」だと御都合主義が鼻をついたり「征途」だとアニメ、特撮好きの人のためのお遊びにげっそりしていたりもすることがあるのですが(それもこれも基本的には非常に良質な小説だけにかえって気になっているだけです)。
架空世界を舞台にしているだけあってそういった欠点が見うけられず、ストレス無しに読むことができました。
武器レベルは現実世界でいくと明治維新よりちょっと前の世界標準あたりでしょうか、龍や剣牙虎、魔道兵あたりが強すぎもせず活躍できるあたりにうまく設定されています。


書名 皇国の守護者 2
著者 佐藤大輔
出版 中央公論社(1998/06/15)
分野 仮想戦記?

1巻の感想でこの小説は異世界ファンタジーでなくミリタリーフィクションだと書いたが、異世界ファンタジーとの共通点もある。
異世界ファンタジーはその世界の地理や生息する生物達歴史や決まり事がその作品毎に設定されるし、その世界を知ることに楽しみを見出す人もいると思う、そしてこの「皇国の守護者」もまたそれらの舞台が一から構築されている、それも恐ろしく詳細に、この「皇国の守護者」の世界は多くの異世界ファンタジーよりも私達の住む地球に近いのだが、それだけにかえってその世界の設定は困難を極めたのではないかと思う。
この世界が現在どのようにして形成されているか、過去のこの世界歴史がどのように推移してきたかを説明しながら、違和感なく読者が納得できるようになっている。
一流の仮想戦記作家の強みが存分に発揮されているといえると思う。


書名 パールハーバーの真実 -技術戦としての太平洋戦争-
著者 兵頭二十八
出版 PHP研究所(2001/07/18)
分野 軍事

この人は人と違う視点から物を見ることができるから面白い。
資料も注意深く読んでいることが見て取れて感心する。
それに引き換え、私はといえば、この本の8割を3ヶ月前に読み終えていたとはいえ、ほとんど忘れ去っていて、何も感想が書けなくて、とても情けない。


書名 タイム・パトロール
原題 GUARDIANS OF TIME(1960)
著者 ポール・アンダースン
訳者 深町真理子、稲葉明雄
出版 ハヤカワ文庫SF(1977/02/28)
分野 SF

時間旅行が可能になった世界と歴史の改変を阻止&監視するタイムパトロール物。
タイムパトロール物は日本においても豊田有恒や光瀬龍が執筆しているが、ポール・アンダースンのこの小説がおそらく嚆矢となる。
歴史改変を企む犯人とそれを排除するタイムパトロールとの虚虚実実の駈引きも面白いのだが、もうひとつ読みどころがあった。
タイムパトロールは遥か未来の人類とかけはなれた存在となってしまっている「デイネリア人」によって管理されており、タイムパトロールは「デイネリア人」にとっての歴史を維持するために動いているのだそのためタイムパトロールは歴史の改変者を排除するのみでなく自らが歴史の改竄に手をつけなければならなくなる、エヴァラードは改竄に手をつけることに葛藤しつつも、結局は彼の所属する歴史(デイネリア人にとっての歴史でもある)を守るため歴史の改竄に手をつけてしまうのだ。
他にも過去の歴史上の有名人物になってしまったタイムパトロール員の話とか、読み応えがありました。


書名 魔球の伝説
著者 吉目木晴彦
出版 講談社文庫(1994/02/15)
分野 スポーツノンフィクション

”ホーナス・ワグナー”とか”ロジャース・ホーンスビー”とかあまり知る事のないかつての大リーガーについての記事に惹かれて読んだ。
著者の語ることは同感同感とうなずきたくなる事も多々あったが、いかんせんこの本自体がつまらなかった。
江夏とか吉田とかメジャーな選手についての文章にはもう飽きたよ。


書名 刺青の男
原題 THE ILLUSTRATED MAN(1951)
著者 レイ・ブラッドベリ
訳者 小笠原豊樹
出版 ハヤカワ文庫NV(1976/02/15)
分野 SF

今まで読んだブラッドベリの短編集の中では一番よかった。
宇宙SF物が大半を占めるのでそのせいかもしれませんが。
「ロケット・マン」「コンクリート・ミキサー」「町」「ロケット」とかとかが特にいいなと思う。


書名 流れよわが涙、と警官は言った
原題 FLOW MY TEARS、THE POLICEMAN SAID(1974)
著者 フィリップ・K・ディック
訳者 友枝康子
出版 ハヤカワ文庫SF(1989/02/10
分野 SF

読み終わった後、解説を読めば読後感が変って2度おいしいかもしれない。
ふむふむ、彼がXXで彼女がXXXだったとはねえ、全く気づかなかったよ、いつか、これをふまえたうえでもう一度読み返したいね。


書名 ドラキュラ戦記
原題 THE BLOODY RED BARON(1996)
著者 キム・ニューマン
訳者 梶元靖子
出版 創元推理文庫(1998/12/25)
分野 ホラー

ヘルシングに打倒されなかったドラキュラが世界に君臨する世界の物語であるこのシリーズ、この巻ではドラキュラはドイツ皇帝の後ろ盾として実質的なドイツの最高権力者として権力を振るっている。
今回の舞台は第一次世界大戦、多少なりともおなじみの世界で親しみやすい。
世界にヴァンパイアやヴァンパイアになってしまった者達が跋扈する世界でも歴史は史実と同じような経過で経過しているのは面白い(意図的に同一の歴史をたどるようにしているんでしょうね)。
今回の主人公ウィンスロップも又前巻の主人公ボウルガードと異なった個性でよいと思う。
読み終わった今では何が面白かったのかわからないけれども、大変面白かったです、その証拠に読み終わってすぐ続刊の「ドラキュラ崩御」を読みはじめている。
今回は名前を知っている人がいる分愉しめたのですが、思い入れが強いぶん彼らの扱いに不満を持ってしまうこともあって、以下勝手な言いがかりなんですが。

「こんなのリヒトホーフェンじゃないやい、豚を追いかけまわして血を啜るなんて、まるでけだものです」


狩る対象が豚なんて美しくないよ、これが豚じゃなくて美少女だったら、・・・「美少女を追いかけまわして、血を啜るリヒトホーフェン」こんなリヒトホーフェンもいやだな。
やっぱりレッド・バロンが狩る対象は敵機でないといかん。
けだものといえば映画「ブルー・マックス」の主人公ブルーノ・シュターヘルがリヒトホーフェンに輪をかけてけだもので哀れをさそう、性格の悪い男だけにこんなのも有りかなとは思うのだけど、フィクションからの登場人物中ほとんど唯一知っていた人物がこんなのだとはねぇー、こんなのになってまでヴァンパイアになりたいかねー。
あとオズヴァルト・ベルケがどんな登場の仕方をするか楽しみにしていたのだけど、舞台が1918年だと知ってがっくりきた。
最も、けだものみたいな、ベルケを見るはめになるよりはましだとも思えてきた。
ベルケに関しては一つ勉強になったことがあった、ベルケは日本ではヴェルケと表記される本も存在するのだが”ヴェ”という表記を使う本書でベルケと表記されていて、はっと気づいたのだが、そういえばベルケの綴りはBで始まったようなおぼろげが記憶があるので、ヴェルケと表記されるのはおかしいのだ、一つ勉強になったよ、もっと早く気づいていてしかるべきだったのだけれど。
それと空戦シーンは凡庸だった、「表現力の確かな実戦経験者が書いた手記の持つ緊迫感」に匹敵するものを持つフィクションはなかなかないもんだなと思う。


書名 ドラキュラ崩御
原題 (JUDGEMENT OF TEARS(DRACURA CHA CHA CHA)(1998)
著者 キム・ニューマン
訳者 梶元靖子
出版 創元推理文庫(2002/01/25)
分野 ホラー

ヘルシングに打倒されなかったドラキュラを主人公に擁くこのシリーズも3巻目ともなると前の2巻と異なった愉しみ方ができるようになってくる。
それは、ボウルガード、ウィンスロップ、ジュヌヴィエーヴ、などシリーズを通しての登場人物に対する愛着で、彼らに幸せになって欲しいと暖かい気持ちで読むことができるようになってくることなのです。
だからこの巻のエピローグは好感の持てるシーンとなった。
このシリーズの真の主人公であるドラキュラだけは心底嫌いのようで、「題名に偽り有り」になるんじゃないぞと、最後までドラキュラに対する憎悪の念は持ち続けていたようだ。
続刊はあって欲しくともドラキュラには滅びて欲しい複雑な心境だ。
また、きれいな終わり方をしたので、この巻で完結させても良いのにな、とも思う。
ヴァンパイアが宇宙航行に向いているとの言葉には納得、小松左京もヴァンパイアに宇宙旅行させていましたね。
それから、今回は思い入れのある人物は登場しないので。

こんなのボンドじゃないやい

とは言いません。
分厚い小説が嫌いな私をして短期日で読破せしめた素晴らしいシリーズでありました。(←未だ終わってないよ)。


書名 若草野球部狂想曲 -サブマリンガール-
著者 一色銀河
出版 電撃文庫(2000/02/25)
分野 YA

金属バット全盛の高校野球において少し芯を外すことがそれほど劇的な効果を表すのかとか、守備力が不確かな高校野球において打たせてとるのがどこまで効果的なのかとか言ってはいけないのだろうな。
軽く読める野球小説として短時間で読んでしまうが吉。


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