2001年12月の読書感想


書名 敵国日本
著者 ヒュー・バイアス
出版 刀水書房(2001/09/20)
分野 軍事

太平洋戦争開戦後80日にして米国で出版された、一般向けに日本について紹介した本。
大変的外れな紹介がされているか、正確な紹介がされているのかどちらだろう?、と興味を抱いて読み始めたのだが、後者であった、それもこちらの想像を凌駕するほどに正確であった。
まず感情的になっていないのです、一歩距離をおいて冷静に日本について、そして日本人について解説してゆきます。
著者は20年以上も日本に記者として滞在した経歴を持つ人だそうで、当時の日本と日本人について、現代の日本人はおろか当時の日本人よりもよくわかっていたのではないかと思わせます。他人に指摘されてはっと気づくこともあるものです。
又筆者は日本人は米国人について理解していないという著者の指摘は痛いところです。
これほどまでに日本を理解している人物がいて、しかもその人の著書が出版されていた米国と、この本を入手していたにもかかわらず、発禁処分にした日本の差は大きいです。
余談となりますが、筆者はこう書いています「日本海軍は対米戦争に勝算あリと信じている。開戦ニュースを聞いて、私は日本海軍がこう判断したことに驚愕を覚えた。日本では海軍が開戦についての最終決定権を握っており、その同意なしには何人といえども戦争を始めることはできない。」
まさか日本が戦争を終わらせる見通しを得られないまま、開戦してしまうほど愚かだとは筆者も考えなかったようです。


書名 潜水艦戦争 上
著者 レオンス・ペイヤール
出版 早川文庫NF(1997/08/15)
分野 軍事

第2次世界大戦の潜水艦戦についての本、上巻は1942年度あたりまでを扱っている。
扱う範囲が広範囲なので詳しいことは書いていないのだが、広範囲を扱っているために理解しやすいところもできてくる、例えば1941年度の地中海におけるイギリス潜水艦の挙げた戦果が同年にドイツの潜水艦が挙げた戦果と比してどれほどのものなのが、相対的に理解できる。
小難しい本でないので、第2次世界大戦の潜水艦戦がどんなものかちょっとかじってみたい人に良いでしょう。文庫本だから安いし。


書名 鉄底海峡
著者 高橋勇次
出版 光人社NF文庫(1994/10/19)
分野 軍事

第一次ソロモン海戦よりの帰途米潜水艦S44の雷撃で撃沈された重巡加古の艦長による手記。
執筆された動機は、戦死なさった方の遺族の方にとって身内の者が戦時中いかにしていたか、伝えるためだったそうです。
この手記から後に書かれたいろいろな記事に引用されている部分も多いことに読んでいて気づく。


書名 造物主の選択
原題 THE IMMORTALITY OPTION(1995)
著者 ジェイムズ・P・ホーガン
訳者 小隅黎
出版 創元SF文庫(1999/01/29)
分野 SF

傑作『造物主の掟』の続編。
帯に造物主襲来とか書いてあるので、造物主が宇宙船に乗ってやってくるのかと思っていたら、こんな形でやってくるとは・・・。
ああ、でも確かに宇宙船に乗ってやってきているね。
悪くはないよ、続編として予期以上に立派な出来でした。
以下余談です。読んでいて考えたことなんだけど、フレデリック・ポールの「ゲイトウェイ4」でヒーチーが『造物主の選択』のポリジャンのような形態をとるようになっていて、彼がああなってから初めてヒーチーとコンタクトできたという話になっていたら、『ゲイトウェイ4』も傑作と呼びうる作品になっていたのではないか。
などと妄想してしまいました。


書名 ガダルカナルの戦い
原題 Guadalcanal(1999)
著者 エドウィン・P・ホイト
訳者 井原裕司
出版 元就出版社(2001/06/30)
分野 軍事

ガダルカナルの戦いを海戦主体に扱った本です。
著者は日本側の資料も参照しながら、公平な視点より執筆されています。
6ヶ月に及ぶ範囲を一冊で扱っているため内容は薄くなってしまうのは仕方ないのですが、かといってダメな本かというとそんなことは全くなく、逆に物凄く得られた情報が多かった素晴らしい本でした。
例えば8月7日に失われた米戦闘機搭乗員の氏名とか、8月8日に失われたエンタープライズ搭載機の米戦闘機搭乗員の人数が6名だとか。
(従来8月7日の米戦闘機の被撃墜が11機で、8日までに21機を失ったとは解っていても、じゃあ8日の空戦の結果はどうだったか?っていうと、解らなかったんですよ。)
高速輸送艦グレゴリイとリトルが撃沈された経緯とか。(これもグレゴリイとリトルが沈没したことしか知らなかったです、カタリナが投下した照明弾のせいで日本側にはっきりと視認されたなどとは、今まで読んだ本の中には書かれていませんでした。)
日本側の書物では得られなかった知識が沢山増えました。
8月30日の空戦についてや各海戦の細かい部分に?のつく記述もありましたが、これは他の本を読んで補完してゆいけば良いことです。
やっぱり交戦相手の国の人が書いた本をもっと読みたいです。
海外の本があまり紹介が進んでいないのは残念です。
(現時点で日本を代表する航空戦史家の一人伊澤氏が翻訳した本が出版されているはずなんですが、本屋が開いている時間に帰れない日々が続いているので読めない、早く読みたいよ)。
この井原裕司さんという翻訳者ですが、以前翻訳された『戦艦ウォースパイト』といい今回の『ガダルカナルの戦い』といい、翻訳してくれてありがとうと言いたくなる本を翻訳してくれています。
何か次も期待したくなりますね。


書名 戦争に強くなる本
著者 林信吾
出版 経済界(2001/08/23)
分野 軍事

太平洋戦争についてのブックガイド。
本を選ぶ基準として、現在でも一般書店で入手が容易な本であることと、太平洋戦争(著者は15年戦争と呼んでいる)についての知識がほとんどない方を対象としている。
そのため、マニアの人にはくいたりないだろうとしている。
私もマニアと言えないと思うのだが(兵器の性能とかそういったものには興味がないのさ)やはり、この本を読んで、改めて読んでみたいと思った本はなかった。
私もまたこの著者が対象とした読者とは違うということなので、本の選択についてはどうこう言う筋合いではないのですが、一言だけ書かせてもらいます。
紹介された本の中に交戦相手の人の書いた本がほとんどないのは片手落ちです。
日本側から見た視点と、相手側から見た視点は違いますから、日本人の書いた本の紹介だけでは視点に片よりが生じます。
でもこの本はとても良い本なんですよ。
まず著者の態度が右寄りでも左寄りでも、戦争肯定派でも否定派でもなく、極めて客観的なところが良いです。
太平洋戦争を知るためのブックガイドなんですから、こういった姿勢はとても大事なところだと思います。
それと、この著者の客観性と著者の博識ゆえに、この本の著者が意図した太平洋戦争について知るための本を紹介するという以前に、この本を読むだけで、ある程度の、片よりのない知識が得られてしまいます。
だから、太平洋戦争について知りたい人が買って損がない本だと言えると思います。
題名が『戦争に強くなる本』っていうのは、もったいない題名だと思う。
これだと、何の本かわからず、人に敬遠されるのではないでしょうか?。
しかし、私もまだまだ勉強不足ですね、この本の中で太字で紹介されていた59冊の本の中で読んだことのあるのはたったの6冊でした。


書名 覇者の戦塵 ダンピール海峡航空戦 下
著者 谷甲州
出版 中央公論新社
分野 仮想戦記

この世界において長年にわたって行われてきた世界の改変のおかげで、日本軍が相当強くなっています、この巻でも戦術的に互角の戦いを繰り広げていますが、圧倒的に優勢な連合軍相手にこれからも互角に渡り合ってゆくためには、戦略的にもなんとかしなければいけない所です、これから先どうなって行くのか予断を許しません。


書名 星からの帰還
原題 POWROT GWIAZD[2つ目のOの上に'有り](1961)
著者 スタニスワス・レム
訳者 吉上昭三 出版 ハヤカワ文庫SF(1977/06/15)
分野 SF

ウラシマ効果によって10年間の宇宙飛行の末127年先の地球に帰還した宇宙飛行士の物語。
コミュニケーション不可能な異星生命を描写するのがうまいレムは、異質な文化を背景とする人類を描かせても秀逸だ。
なまじ言葉が通じるだけに、コミュニケーションがとれなくてもあきらめがつきそうな異星生命を相手にした時よりも、もどかしさや断絶感は強い。
帰還した宇宙飛行士たちは異質な文化に困惑こそすれ馴染もうとはしない。それゆえにこそ宇宙飛行士になり得た資質を持っているのだろう。

レムは凄い。


書名 ターミナル・エクスペリメント
原題 THE TERMINAL EXPERIMENT(1995)
著者 ロバート・J・ソウヤー
訳者 内田昌之
出版 ハヤカワ文庫SF(1997/05/31)
分野 SF

地味な表紙と地味なあらすじによって今まで読んでなかったのですが。
面白いよ、これは。
電子的な仮想人格への攻撃法がつい最近読んだホーガンの『造物主の選択』と同じなのが興味深い。
これで未読のソウヤーの邦訳長編は打ち止めなので、早く他の長編も翻訳してほしいところです。


書名 有坂銃
著者 兵頭二十八
出版 四谷ラウンド(1998/03/26)
分野 軍事

この著者は旧日本陸軍の陸戦兵器については恐ろしく詳しいです。
参考文献のリストを見てもたいそう熱心に研究していることがみてとれる。
何しろ私はこの参考文献のうち唯の一冊も読んだことがないのです。
一人の研究者の研究の成果をたった一冊の本の代金で読めるのだから安いものです。
日露戦争に使用された三〇式歩兵銃と、三十一年式野砲、それにその開発者である有坂 についての本。
著者曰く三十一年式野砲は日本を敗亡の淵に追い込みかけ、三〇式歩兵銃は日本の勝利の原動力だった。
三〇式歩兵銃とその改良型である三八式歩兵銃が優秀なのはわかったが、日露戦争における主力野砲の効果がほとんど無かったのは驚きを感じる。
第二次世界大戦において歩兵の戦死者のうち小銃弾によるものと野砲弾によるものの内訳は圧倒的に野砲弾によるものの比率が高かったはずだ。
よくこんな状態で野戦を優勢に進められたものだ。


書名 出撃!魔女飛行隊
原題 NIGHT WITCHES(1982)
著者 ブルース・マイルズ
訳者 手島尚
出版 朝日ソノラマ文庫(1972/12/15)
分野 軍事

第二次世界大戦中にソ連では女性の戦闘機搭乗員が存在し、その中でのトップエースがリディア・リトヴァクという。
この本は彼女に関する伝記の本かと思っていたのですが、読んでみるとそうではなく、ソ連の女性搭乗員のみで編成された3つの飛行隊、戦闘機装備の第586連隊、爆撃機装備の第587連隊、夜間爆撃機装備装備の第588連隊、全般について当時の生き残りの人々より取材してまとめたものだった。
原題のNIGHT WITCHESが表すとおり、最もページが割かれているのは夜間爆撃任務についていた588飛行隊についてであり。又この部隊は活躍がみとめられ第46親衛連隊として改名されている。
最も有名な女性戦闘機搭乗員であろうリトヴァクにも個人としては最もページが割かれている、が同じくエースであるブダノワにはほとんど触れられていない。

読み物形式の戦史ではあるが、独ソ戦のソ連の航空部隊についての本としては初めて読む本だけにソ連軍の航空部隊の雰囲気が感じ取れてよかった。
ドイツ空軍相手に手ひどい打撃を蒙ったソ連空軍ではあるが、彼女達が実戦に参加し始めた1942年末期以降はドイツ空軍もそれほど脅威でなくなっていたのが見て取れる。
確かに遭遇した時のドイツ戦闘機は恐るべき敵ではあったろうが、彼女達が展開していた南方戦域に展開していたドイツ戦闘機部隊はわずか1個戦闘航空団を主とするわずか100機程度で、ドイツ戦闘機と遭遇する機会が少なくなっていたのだから。


書名 伊17潜奮戦記
著者 原源次
出版 朝日ソノラマ文庫(1988/03/15)
分野 軍事

たぶん著者は戦時中日記をつけていてそれを元に執筆したのでしょう、執筆された年もあって、かなり詳しく書かれており、戦時の潜水艦勤務の様子がよくわかります。
地味で大変な日常が淡々と綴られてゆきますが、大変面白かったのは意外でした。
私が本を読む人だから特に注目したのかもしれませんが、潜水艦乗り組みの人の暇つぶしの一つの手段に読書があるんですね、目が悪くなりそうだなあ。


書名 潜水艦隊
著者 井浦祥二郎
出版 朝日ソノラマ文庫(1983/03/18)
分野 軍事

戦時中潜水艦部隊の参謀などの任についていた著者が巣鴨にいた頃に執筆した本、あまり自由度もなかったろうに良く書けたなあと感心する。
最も感銘を受けたのが米本土爆撃で有名な藤田飛曹長のことでこの人は南太平洋において6回にわたって偵察飛行に成功していたんですね、驚くべきことだと思いましたが、秦郁彦著の『太平洋戦争航空史話』にもちゃんと書かれていました、注意深く読んでいれば既に知っているはずのことでした。
この本は最近学研M文庫で再刊されたようで、現在でも日本海軍の潜水艦戦関係の手軽に読める基本図書としての役割を果たしているようだ、もうそろそろこの役割を代りに果たす本が出てきても良いとは思うのですが、もしそうなったとしても、現場の人間でしかわからないことが多々書かれていることからして、この本の価値が減ずるものではないと思います。


書名 アリアドニの遁走曲
原題 LIGHT RAID(1989)
著者 コニー・ウィリス&シンシア・フェリス
訳者 古沢嘉通
出版 ハヤカワ文庫SF(1993/10/31)
分野 SF

アリアドニの住む未来の合衆国は分裂して戦争状態にある、彼女は17歳にして(自称)有能な生物学者であるのだが、中立州に疎開させられて、孤児たちの面倒をみるはめになっていた、彼女には心配事がある、父親からの便りがここ一月絶えているのだ、彼女は(勝手に)我が家へ戻ることにした。
戦争状態にあるとはいっても、随分長閑な印象がある、戦いの主な手段は原題でもある光襲と呼ばれる軍事衛星よりのレーザー砲撃によるもので、攻撃目標も基本的には軍事目標に限られている、マスコミの主要記事もゴシップ記事にあるような印象がある。
だが、人にとってその戦争が悲惨なものかそうでないかは自分自身は当然として家族などその人にとって大事な人が無事であるかどうかによって決まるものだなあと、家族の身を案ずるアリアドネの姿を見てそう思いながら読みはじめていた。
ですが、この本はこんなじめじめした話ではなく、ミステリ基調のSF小説でした、探偵役?はアリアドニでもちろんラブストーリーも絡んできます、ミステリは読まないけれどミステリ調のSFは好きな傾向があるのですが、この本もミステリ調のSFが楽しめました。
楽しい娯楽小説で難しいこと無しで読み終えることができます。
とか書いておいて別のことを書きますが、本人の正義感と異なる正義によって家族が行動していたら人はどう行動するのだろう、もちろん本人の正義を貫いて家族を犠牲にする人もいるだろう、最近読みかけのヒトラーユーゲントの本でも父親を密告して殺してしまった少年の例が出ていた。
自分なら、自らの正義を貫くことはできないような気がする、自らの正義によって家族を犠牲にすることはできない。
アリアドニも彼女の父親も母親もそれぞれ家族の身を案じつつ、行動する。
盲目的に行動する人物も登場するが、その人の気持ちも多少わかるような気がする。


書名 第二次大戦のイタリア空軍エース
原題 Italian Aces of World War2(2000)
著者 ジョヴァンニ・マッシメッロ&ジョルジョ・アポストロ
訳者 柄澤英一郎
出版 大日本絵画(2001/10/10)
分野 軍事

題名通りの本です。著者はその国の人なので正確度は高いだろうし、イタリア戦闘機隊についての文章にはほとんどお目にかかったことがないのでありがたい。
著者達の調査の結果従来言われてきたエース達の撃墜機数も大幅に修正が加えられている。
例えばトップエースの一人とされてきたヴィスコンティ少佐の撃墜機数も26機から10機に減じられている、だからといって彼が偉大な戦闘機搭乗員であることにかわりがないのは本書を見れば明白である。
素晴らしい本なんだけど、難を言えばこの本が10倍ぐらいページ数がある本だったらな

書名 第8航空軍のP−51マスタングエース
原題 P-51 Aces of the Eighth Air Force(1994)
著者 ジェリー・スカッツ
訳者 藤田俊夫
出版 大日本絵画(2002/01/10)
分野 軍事

題名通りの本です。航空戦史に興味があるとは言っても本書はこのシリーズ中最も興味のない題材かもしれない。
来月発売の同シリーズの『西部戦線のフォッケウルフFw190エース』が楽しみだなあ。ドイツの戦闘機搭乗員中最も尊敬するエゴン・マイヤーの出番だからね。
第8空軍の損失中どの程度が空戦によるものかわからないが、巻末のキルレシオを見る限り、帯にある『独空軍戦闘機隊を蹴散らし』と書いてあるほどドイツ空軍が弱い敵でなかったことが解る。
この本もあと10倍くらいのページ数が欲しい。


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