野尻抱介のサイン会に行った事


2002年6月23日名古屋、栄の丸善のおいて野尻抱介のサイン会があったので、それに行って来ました。
丸善のある場所に着いて何をしたかというと、向いの「マナハウス」という新刊書店に入ることでした。
2年ほど前、丸善にけんかを売るがごとく道を挟んだ向い側にマナハウスという書店が出来たのでした。
丸善の販促イベントに来てライバル店に入るのも気がひけたのだが、名古屋で最大規模をうたう、この書店には一回も入ったことがないので、興味があったのだ。
暴走野郎のこじまさんが、ここは良い品揃えだと言っていたこともあるし。
結論「所詮は新刊書店、どおってことはありませんでした」、探していた「キングラット」もなかったし。
軍事関係のムック本の品揃えは名駅の各書店より良かった。
並木書房の水雷戦隊の本を買う、初心者用の本だが造船所のイラストが掲載されているのでそれが目的だった。名駅の書店にもありますが、たまたま本の状態がね…
4階に行くと「米英から見た太平洋戦争」という本が売っていた、出版当初は見向きもしなかった本だが、少し興味を持つ傾向が変ってきているのか、面白そうだ、”買おう”と思ったのだが値段をみて棚に戻す、上、下巻合わせて一万円ぐらいする。
"古書店で見かけるのを待とう”。
いろいろ回っているうちに『陸軍工廠の研究』という本を見つける、なんか面白そうなうえに安かった(8800円)ので買う。
『昭和二十年』の著者、鳥居民の対米開戦関係の著書があったので迷わず買う。
『牧野茂艦船ノート』も買う、昔は3500円という定価を見てあまりの高価さに、この世のものとも思えなかったこともあったが、”無茶苦茶安い”と感じるぐらい昨今の軍事関係書籍の値上がりは著しいように思う。
『高松宮の日記』が置いてあったので、ページをめくってみる。
”これは入手しなければ”、しかし、3800円*8冊分もの大金を持っているわけでなく、今回は見送る。
他の本を合わせて、総計18000円もの支出を余儀なくされたのだった。
恐いから、もうこの書店には近づかないようにしよう、もうサイフの中には5000円ぐらいしか残っていないよ。
軍事関係の本についても品揃えは所詮新刊書店だし。
丸善の販促イベントに来て向いの本屋で散財してていいのか?。
疑念を抱きつつ丸善に向う。
サイン会場の2階のフロアに向う。
15分前についたので、始まるまで本の棚を巡る、「キングラット」はなかった、軍事関係の本もなかった、多分他のフロアにあるんだろう。
サインしてもらうときに店員さんに本の代金を支払うのかと思っていたのだが、既に本を手にしている人を数人みかけるので疑問が湧いてくる”前もって本は購入しておくべきなのだろうか?”、書店の方に尋ねるとそうだと答えが返ってくるので、『太陽の簒奪者』を購入する。
そうか、そのための”整理券”だったのか。
サインをしてもらう段になって書店員の人が名前を入れてもらうかどうか確認してくる、名前が入っていると古本としての価格は下がるので確認してくれたのだと思うのだが(心配りがいいですね)、(売り払う予定は毛頭ないので)もちろん名前を入れてもらう。
心配事が一つあって、著者へのメッセージ記入欄に”次回作にも期待しております”と書いたつもりではあるのだが、”に期待”と書いてやしないか?という疑念が念頭より去らない。
大丈夫だろうな?、大丈夫だ、たぶん。
サイン会が終わったら野尻氏を囲む会が始まる。
丸善の方のインタビューで今までの作家の経歴の紹介から始まって、続いて早川書房の 塩澤氏を含めた質疑応答に入る。
3日前のことなのにもう、あらかた忘れてしまっているので、思いだしたことをランダムに書きます。
それと録音もメモもしていたわけでないので発言部分など細部においては全部正確ではないことをお断りしておきます。

野尻氏がハヤカワ書房の仕事を最初に受けたのは、短編版の『太陽の簒奪者』だったのですが、塩澤氏は仕事を発注したきっかけは、SFオンライン掲載の『沈黙のフライバイ』を読んでこれはいいと思ったから。
本日名古屋に塩澤氏が来ていたのも、次の仕事の打ち合わせのためだそうです(長編か短編かは忘れました、記憶力ないなあ)。
作家は各出版社で奪い合いであり、そうなると自社でデビューさせた出版社がどうしても有利になるので、自社でもSFコンテストをやりたいのだが、種々の事情で実現に至ってないそうです。

野尻氏の今後の予定は、次は「ハルキ文庫」から出版予定がある。
ソノラマの銀河博物誌の続刊は書きなおす必要が出てきたため止まっているが、出版予定が無くなったわけではない。
SFジャパンのアニメ特集で「ギャラクティックエンジェル」というアニメについて何か書く予定があるが、なぜ依頼が来たかというとSF関係者で「ギャラクティックエンジル」が好きな人間が野尻氏しかいなかったらしいこと、野尻氏はこんなことを語っていまた「ぼくは素晴らしいSFだと思うのですがねえ、何が素晴らしいって、SFには山場なんてなくっていいんだ。SFには落ちなんてなくっていいんだ。SFに設定なんてなくっていいんだということを認識させてくれる、なんて素晴らしい作品なんだ」
なぜSFJAPANがアニメかというと、SFJAPANの編集長がアニメージュの編集長でもあり、かつて”ガンダムはSFではない”論争でSFとアニメが仲が悪かったこともあり、これではいかんということで、今回の企画になったということです。
(でもあれって、20年も前の話だよ?)。

丸善の司会の方よりの『太陽の簒奪者』はもっと文章量の多い小説にした方がよかったのではないかと質問に対しては。
野尻氏は「外国人作家の長い話を読んで”なんでこんなに長い小説が書けるんだ”、”なんでこんな話の本筋と関係ないことを延々と書くんだ”といつも思う、そういうのは自分自身としては好きではない」又塩澤氏は「野尻さんの作風から考えてこのぐらいがちょうど良かったのかなと思っています(女子高生が蔓延る結果になっていたろうということだろうか?)」と回答が出ました。

「最近SFが好調になったのは21世紀特需で、21世紀になって未来に興味を持つ人が増えたからではないか。」、(特需ってことは一時的なものということを言いたいのだと思う)

「野尻氏が好きなSF作家はクラーク、ニーヴン、堀晃、小松左京。」

「女子高生が大事なテーマの一つ、ハヤカワの仕事でも何とか潜り込ませようとしている太陽の簒奪者では最後には50台になってしまったが、それはそれで仕方がない。 女子高生が出ていれば必ず、ある程度の部数は期待できる。」
「YAの方がSFより小説としてはよっぽどしっかりしている。
ハヤカワに書く小説もYAに書く小説も執筆スタンスは変っていない、その中で塩澤氏に撥ねられた部分がなくなった結果『太陽の簒奪者』となった。」

ハードSFとしては『太陽の簒奪者』より『ロケットガール』の方がしっかりしている。

考証部分は人に相談する方が楽でいい。

自分の掲示板に書かれる内容は自分でも良く理解できない場合が多い。(謙遜しているのでしょう)

『太陽の簒奪者』のどの部分が塩澤氏のアイデアによるものかという質問についてもヒントを提示していただきましたが、書いていいのかわかわないので書かない。

そんなところか。
続いて塩沢氏を対象にJコレクションの話題に移る。
Jコレクションの構想が出来たきっかけはSFクズ論争がきっかけで、ある程度本当のことだったんだろうけど、それではいけないということで考え始めて。
これはという作家の作品をSFマガジンに掲載しながら、準備を続けていた。
反対に塩澤氏より質問が出る”Jコレクション全部買っている人?”
……あまり手が挙がりませんでした。
地方の本屋に置いていないという言い訳が数人から出る。
これは本当のことだと、三重県人の私もそう思う。
私も『太陽の簒奪者』しか買ってないので当然手を上げていません。
いや、私はJコレクションに関しては投げやりなんだよね、
ラインナップ中に飛浩隆氏の名があるのをみて、その中に水見稜の名がない寂しさが募っちゃったんだよ。
「水見稜のいない日本SF界なんてどうなろうとオレの知ったこっちゃないもんね」
いや、飛浩隆氏の本は名前を見た時から買うと決めていました。
「夜と泥の」の著者ですよ、買わないわけがない。
飛浩隆氏へは前から何か書けたら送ってくださいと頼んでおいたら、あるとき突然長編がどさっと届いて、読んでみたら”これがいい”んで、当然のようにJコレクションに入れた。そうです。
Jコレクションの第2期が企画されるかどうか出版されるかどうかは、1期の売上いかんによるそうなので、ご贔屓のほどよろしくお願いいたします。
私は……「オレには関係ないもんね」
Jコレクションの中核として野尻氏を考えていたのではないかとの、司会の丸善の方の質問には
「全部が中核です」
そりゃ、本音は言えないよね。
最近絶版が多くてJAに冷たいのではないかとの質問が出る。
編集の問題でなくて、在庫管理の問題で新刊書籍が出る以上、一定量売れない本は在庫切れとなるとの答えがかえってくる。
丸善の人がさらにたたみかける、「言うほど、皆買ってないんだよね、グリーン・マーズも同じだけ入れたのに同じ量売れていない」
現場ではレッド・マーズと同じだけ入れたのに同じだけ売れてはいないといっていると思ったのですが、今思うとグリーンマーズの上巻ほど下巻が売れていないということかもしれません。どっちだ?
「20年も待てば又再刊されるかもしれないから、気長に待ってください」とは丸善の方の弁。

質問者「SFマガジンに連載の戦闘妖精雪風のマンガ面白いと思いますか」、塩沢氏「私は面白いと思います」、質問者「でも、あれはメカの描写が……」塩沢氏「あれはメカを愉しむマンガではありません」
どっちにしてもページの無駄遣いだから掲載は止めて欲しいと思う。

そんなこんなでお開きになり、帰宅する。
少し歩けば上前津の古書店に行けると思ったのだが懐が寂しいことに気づいて、寄り道せずに名駅まで歩いてゆく、堀川は相変わらず汚かった。
『太陽の簒奪者』のサイン本は今後も丸善において在庫が切れるまでは販売されるそうです。10冊ぐらいありました。



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