2002年11月の読書感想


書名 臨界のパラドックス
原題 The Trinity Paradox(1991)
著者 ケヴィン・J・アンダースン、ダグ・ビースン
訳者 内田昌之
出版 ハヤカワ文庫SF(1994/07/31)
分野 SF

「反核活動家エリザベスは破壊工作中に事故にまきこまれ、50年まえの世界にタイムスリッブしてしまった。
行きついた先は1943年のアメリカ。
そこではマンハッタン・プロジェクトが着々と進められ、いままさに世界初の核兵器が開発されようとしていた。
なんとか開発を阻止しようとするエリザベスの行為が思わぬ結果を招き、やがてナチスの手に核兵器が握られることに……
期待の共作コンビによるサスペンスあふれる傑作SF!」


まず最初に読んでみれば面白いよと書いておく。
核兵器の開発されてゆく状況の描写は私のような知らないものにとっては迫真であった。
ナチスドイツによる、ユダヤ人を使ったプルトニウム生産場面は吐き気を覚えたほどだ。
しかし私はこの本を支持しない。
反核活動家たるもの、ナチスドイツが核兵器を使用した途端に、アメリカが持つ核兵器は正義であり、ナチスドイツが持つ核兵器は悪であるなどと、態度を豹変させてどうする、またそんなに簡単に態度を変えるものなのか?。
結局この反核活動家と称する主人公はアメリカこそ正義と自認する著者達の考え方の現れでしかないのではないだろうか。

異なる文化を背景にした人の考え方は異なって当然であり、SFを読む者であればそれを常に念頭に置いておくべきなのだろうが、感情がそれを許さない、この本はそこそこ面白いが嫌いだ。


書名 呪われた村
原題 The Midwich Cuckoos(1957)
著者 ジョン・ウインダム
訳者 林克巳
出版 ハヤカワ文庫SF(1978/04/15)
分野 SF

「9月26日、月曜日。ロンドンにほど近い小村ミドウィッチの夜は、
常と変りなく、静かに更けつつあった。だが10時17分、村のほぼ中央に、
白く輝く円盤状の未確認飛行物体が着陸するや、これを中心とする
半径一マイルの地域のあらゆる生物を眠らせてしまった。
急遽出動した軍隊もなすすべを知らず24時間を過したころ、
円盤はふたたび何処ともなく姿を消した。住民はすべて無事。
村は何事もなかったかのようだったが、やがて……
村に住むあらゆる受胎可能の女――17歳から45歳までの女性全員が、
妊娠していたのだ!イギリスSF界の重鎮ウィンダムが描く
戦慄と恐怖の異色作。」

裏表紙作品紹介より

ひたすら討論や現状認識のための会話が多くて、それだけで話が進んゆくのだが、確たることはなかなか判然としない。
その判然としないところがいい。
(会話が多いところはまだるっこしいが。)
原題はミドウィッチ村のカッコーという意味だそうです。
カッコーという鳥が他の鳥に子育てをさせることは聞いたことがあると思う。


書名 果てしなき旅路
原題 PILGRIMAGE(1959)
著者 ゼナ・ヘンダースン
訳者 深町真理子
出版 ハヤカワ文庫SF(1978/07/15)
分野 SF

「陰気で閉鎖的な人々が住むゴースト・タウンさながらの鉱山町−−
だが、女性教師ヴァランシーが赴任した町には、思いもよらぬ秘密が隠されていた。
町の人々は、宇宙を旅する途中で遭難し、地球に散らばった遠い星の種族
≪ピープル≫だったのだ!
超能力をもちながらも、厳しい種族の掟に縛られ、暗い日々を送る子供たちは、
やがてヴァランシーにだけは心を開いていく…
地球でひそかに生きる異星種族の姿を描いた感動作」

裏表紙解説より

ちょっと前にせっかく復刊された本なのですが、どのぐらいの方が手にとって読んでいらっしゃるのでしょうか?。
いい本です、人情話が好きな方はぜひ読んでみて欲しいと思う。

超能力を使える以外は人間と全く同じ異星人なんて、とか突っ込みを入れてはいけない。(そう思うけどさ)

これはね、何も考えずにその甘い世界に浸ればいいのです。
心地よいぞー。


書名 終末のプロメテウス
原題 Ill Wind(1995)
著者 ケヴィン・J・アンダースン、ダグ・ビースン
訳者 内田昌之
出版 ハヤカワ文庫SF(1998/05/31)
分野 SF

「オイルスター社の超大型タンカー、ゾロアスター号は、到着を
目前にして操船不能に陥り、ゴールデンゲート橋の橋脚に激突した。
この事故でタンカーの原油百万バレルがサンフランシスコ湾内に
流出しはじめた。オイルスター社はただちに原油回収作業を開始し、
自然保護団体のボランティアたちも必死で活動するが、ほとんど
効果はあがらない。マスコミは対応の遅いオイルスター社を非難
しだしたが……話題のバイオ・サスペンス」

裏表紙作品紹介より

『臨界のパラドックス』を読んでから間髪おかずに同一著者の本を読んだってことは、『臨界のパラドックス』が面白かったんだろうと思う方がいらっしゃると思いますが、そうではなく、逆につまらなかったからこそ、読んでいるのです。
海外SF読書目標をこなすためには読みたい本の間に積極的に読む気になれない本を入れていかないと、達成が困難となってしまいますから。
そこまでして読む必要があるのかという点については、反論できませんけど。
ただ、海外SFの場合、翻訳する際の選別というフィルターがかかっているため、最近の海外SFの場合は、よほどの例外以外は、つまらない作品でも、水準的な出来にはなっていると思っています。

この小説も読んでしまえばそこそこ面白いレベルではあります、他に読む本があればそっちを読むべきだと思うけれど。

SFというかパニック小説色が強いです、いずれ資源が尽きれば、プラスチック製品を潤沢に使えない世の中がやってきてもおかしくないので、そんな未来予測小説だと読めば昔からあるSFの一流波の一つと言えるかと、(苦しいか?)。

しかしねー、悪くはないんだけど、感動がないんだよなー。
SFの設定を借りたパニック小説だよな、これじゃ。
あとね、長いよ、長すぎる。800ベージもいらないよ、この小説に、少しはシェイプアップする訓練をしたらどうだい。


書名 零戦燃ゆ
著者 柳田 邦男
出版 文春文庫(//)
分野 軍事

再読、トラック空襲時の水戦隊について何か書いてないか知りたくて4巻を拾い読みしたのだが、書いてなかった、配備されていたことすら、書いてなかった。
しかし読んでみると、ついつい惹き込まれて、全部読んでしまった。

久しぶりに読んでみて感じたのが、太平洋戦争の航空戦史に詳しくない人でも、ちゃんと把握できるように、注意深く記述されていることに気付いて感心した。
簡単なようで、難しいことだと思うが、こういった記述をしているからこそ、ノンフィクション作家として名が通る人になったのだろう。


書名 覇者の戦塵 「ニューギニア攻防戦 上」
著者 谷 甲州
出版 中央公論新社(//)
分野 仮想戦記

この著者は手練の域に達している作家なのではないのだろうか。
初期の著者の作や最近のSFマガジンに掲載されている新鋭のSF作家達と比べてそう感じる。
凡庸な作家では、これだけ淡々とした話を、これだけ面白く読ませることはできないだろう。

書名 さらば愛しき鉤爪
著者 エリック・ガルシア
訳者 酒井昭伸
出版 ヴィレッジ・ブックス(2001/11/30)
分野 ミステリ

6500万年前に恐竜が滅びなかったとしたら?。
この本の世界では、6500万年の間に恐竜達は大きく変貌し。
人間の皮をかぶって扮装すれば、人間社会に溶け込んで生活できるようになっていた。
どうやって変装するんだよと、冗談として笑って読むのもいいが、姿も思考も変わっていると考えるべきだろうな、SFの読み方としては。<しかしね、ミステリとしてはたぶん面白くないよ。
だから、やはり、人間の姿で生活をすることを強いられている恐竜達の姿とストレスの発散具合を、笑いながら読むのが一番いいんだろうと思う。
いや、とても面白いです、バカSFとしては。


書名 天界の殺戮
原題 Anvil of Stars(1992)
著者 グレッグ・ベア
訳者 岡部宏之
出版 ハヤカワ文庫SF(1994/10/31)
分野 SF

「20世紀未、地球は末知の異星種族の手になる惑星破壊機械の襲来を受けて炎上、壊滅した。
べつの異星種族に救出された数千人の人々は、太陽の軌道上の宇宙船に収容されて、”銀河法典”の教育を受ける。
この法典によれば、破壊機械を送り出してほかの惑星を壊滅させた文明は、みずからもまた滅ぽされなければならないという。
地球壊滅から八年後、生存者のなかから選ばれたマーティンら八十五人の子供たちが復讐の旅に出た!」

裏表紙作品紹介より

ベアのファンであることを自認しているオレだが。……
スマン、ベア、オレにはこれを、面白いと言うことができない。

長いよ、長すぎる、いや、短くともこれは、ダメだろう。
何のために行動しているのかは、理屈では、解るんだが、
彼らを見ていると、どうでもいい目的のため惰性で行動しているように思えてならない。
惰性で行動するには過酷な環境なので、そうではないだろうが……。


書名 最後の二式大艇 −海軍飛行艇の記録−
著者 碇義朗
出版 光人社(1994/05/18)
分野 軍事

川西の飛行艇についてその開発から生産戦歴まで網羅して一冊にまとめられたもの。
読んでいて城山三郎著の『零からの栄光』を思い出した。
内容的に重なる部分が多い、『最後の二式大艇』は飛行艇に関する本なので、飛行艇に関する部分に関しては、こちらの方が詳しい。

日本海軍の飛行艇戦史としても、お手軽に読める本として価値はあると思う。
知らなかったことが満載でしたが。
それは私が日本海軍の飛行艇戦史について全くの無知だったからに過ぎず。
何か調べものをするには物足りない感はある。

私がこの本を読んだ理由は802空の大艇隊が1944年1月から2月に何処にいたか調べるためだったのですが。
サイパンだったですね。
……、6月頃にサイパンで玉砕してるよー(;_;)。ショックだ。
知らない方が幸せだったかもしれない。
合掌。


書名 ドクター・アダー
原題 Dr. Adder(1984)
著者 K・W・ジーター
訳者 黒丸尚
出版 ハヤカワ文庫SF(1990/12/15)
分野 SF

ジーターの名を知ったのは、この本を見て解説を読んだ時で、たぶん10年近く前かもしれない。
かなりエグそうな作家な印象を持ち、以来ずっと読まずに来たのだが。
今年になって初めて『垂直世界の戦士』『ブレードランナー 2』と続けざまに読み、この本で3冊目となるのだが。

たぶんこの作家は、著作後10年経過して初めて出版されたという経緯を持つこの本から受けるイメージと相違して。
内面に危うさや狂気を秘めた作家ではない。
ジーターは基本的には狂気を持たぬ職人作家であり。
アブノーマルさを抱えていそうな作品群も書かれるべく書かれたものではなく、演出の結果そうなっているものだ。

…外してたらどうする?。『グラスハンマー』を読んでから書くべきだったか。


書名 鳥姫伝
原題 BRIDGE OF BIRDS(1984)
著者 バリー・ヒューガート
訳者 和爾桃子
出版 ハヤカワ文庫FT(2002/03/15)
分野 ファンタジー

ダメです、僕には合わない。
やっぱりファンタジーだから何でもありってのは良くないと思う。
何らかの制約がないとスリルがなくていけないね。
特に今回のような、冒険型のファンタジーの場合には。


書名 ホワイト・ライト
原題 WHITE LIGHT(1980)
著者 ルーディ・ラッカー
訳者 黒丸尚
出版 ハヤカワ文庫SF(1992/05/31)
分野 SF

「いつもどおり、研究室で心地よい昼寝を楽しんでいた数学者のぼくに驚愕すべきことが起こった。
なんと、無意識に幽体離脱をやってしまったのだ!肉体を離れて意識だけになったぼくは、
一冊の案内書に導かれ、ヒルベルト空間を−−数学の概念が文字どおり実体化した
奇妙奇天烈な世界を目指した……”無限”の実像を探求するため!
鬼才の名に値する真の鬼才が怒涛のアイデアでSFと数学の極北を探求する超絶マッドSF」

裏表紙解説より

僕はアホです、書いてあることがさっぱり理解できません。


書名 マイノリティ・リポート
著者 フィリップ・K・ディック
編訳者 浅倉久志
出版 ハヤカワ文庫SF(1999/06/30)
分野 SF

「予知能力者を使う犯罪予防局が設立され、犯罪者はその犯行前に逮捕されるようになった。
ところがある日、犯罪予防局長官アンダートンは思いもよらぬものを見た。
こともあろうに自分が、見たことも聞いたこともない相手を、来週殺すと予知分析カードに出ていたのだ。
なにかの陰謀にちがいないと考えたアンダートンは、警察に追われながら調査を開始するが…
…スピルバーグ監督による映画化原作の表題作はか全7篇を収録。」

裏表紙作品紹介より
これはおすすめ短編集です、ディックの長編はどうも苦手という方にこそ読んでもらい、ディックの短編の魅力に触れてもらいたい。
「追憶売ります」とか「水蜘蛛計画」とか読んでおいた方がいいよ、本当だよ。


書名 スーパートイズ
原題 SUPER TOYS
著者 ブライアン・オールディス
訳者 中俣真知子
出版 竹書房文庫(2001/07/20)
分野 SF

許す、オレは許すぞ、単行本を買って数ヶ月で文庫本が出て憤慨していたが、文庫版は完全収録版ではなかった。
これで憂いはないわ。わはは
単行本持ってたって、読んだのが文庫本なら仕方ないというのは、そうなんだけど。

で、感想なんですが、なかなか良い短編集だと思いました。
特に「III」はいいよ、この食いしんぼな人類は、かえってありそうでコワイ。うなされそうだ。
後はたいがい寓話的な話が多かった。
それが、オールディスの持ち味なのかどうかは、わかりませんが、それはそれでいいと思いました。


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