2001年10月の読書感想


書名 遙かなり神々の座
著者 谷甲州
出版 ハヤカワ文庫JA(1995/04/15)(単行本1990/8)
分野 冒険小説

滝沢育夫は5年間で7回の登頂遠征に参加したクライマーだが、うち成功したのは2回のみ、彼自身は最終登頂者になれず、8人の仲間を失った運のないクライマーだった。
今回も2人の仲間を失い日本に帰ってきた滝沢は空港に迎えに来た恋人の君子から、遠征中に妊娠が判明しそして流産したこと、心細かったその時にやさしく接してくれた男と同棲中で結婚するつもりである事を告げられる。
翌日、林という男が連絡をとってきて、マナスル登頂遠征隊の隊長になって欲しいと依頼される、見ず知らずの人間と遠征隊を組むのはいやだと拒否する滝沢に、遠征隊はカモフラージュで、目的は密輸であることをほのめかし、拒否したら君子とその婚約者の身の安全の保障はとれないと恐喝してきた。
財政が逼迫する君子の婚約者に林からの報酬金を送金すると、滝沢は再び神々の座(ヒマラヤ山脈のこと)へ赴く決心を固めた。

滝沢ってのは肉体的にも精神的にも頑健な男だなあと思う。
そうじゃないと山岳冒険小説の主人公は勤まらないんだろうけど。
そのわりに確固たる信念で行動しているようには思えず、ただ成り行きにまかせて行動しているだけのようなのが、この主人公の面白い所だ。
えっ、そういうお前はどうなんだって、いや、自分なら冒頭で死んでます、もし助かっても50ページも進まぬうちにくたばるでしょうね。
いつもながら文体は平易で読みやすいと思う。
感動こそしなかったが、相当面白い小説だった。
冒険小説もいいなと思う。


書名 アラスカ戦線
原題 ALATNA
著者 ハンス・オットー・マイスナー
出版 ハヤカワ文庫NV(1972/08/31)
分野 冒険小説

第二次世界大戦中に日本の降下部隊とアメリカの特殊部隊がアラスカで戦う。そんな僻地に一体何があるの?かというのが読む前の疑問だった。
この本は昨年(2000年)の早川文庫の読者アンケートでの復刊フェアで復刊された本で、冒険小説界では人気の本らしい、それと著者がドイツ人で日本人を単なる悪役として扱っているわけでもないことらしいことが、買うきっかけとなった。
それでは読んでみようか

アッツ島から米本土を片道爆撃するための気象観測のための日本軍の小部隊がアラスカに降下し、その通信電文を傍受したアメリカ側の追跡が始まるという話です。
著者は狩猟が好きな人だそうで、日本軍達は狩猟のターゲットってわけである。
逃げる側の日本人と、追う側のアメリカ人双方の記述はほぼ偏りなく半ばずつページが割かれています。
そのドイツ人の著者が描く日本人達がどうかというと、特に奇異な点は感じられない、当時のごく一般的な人々なのかもしれない(し違うかもしれない)。
当時の日本人の人達は現代の私とは基本的に異なる価値観を持つ人達なので、果たして同様な立場にたった当時の一般的な日本人が本書のような行動をとるのが普通なのか判りかねる。
あくまで冒険小説なので、軍事小説として読むことはできない。
著者の視点が追う狩人たち、追われる日本人たち双方に好意的であるために、読後感は良い。
ただ、個人的にひっかかるところがあった、この本に出てくる人達は平時は狩人をしている人が大半なので、彼らの価値観からいえば、狩るのが困難な野生の動物を仕留めることに喜びや誇りを感じたりしているのですが、ハンターでない私にとっては食用に必要でもない動物を殺傷することに抵抗感があった。
これは、ハンターである筆者と平地で安穏として暮らしている私との価値観の相違なので、冒険小説としての本書の傷になるわけではありません。


書名 背徳の惑星
著者 A・バートラム・チャンドラー
出版 ハヤカワ文庫SF
分野 SF

「相変わらず資金繰りが厳しい グライムズは新聞記者にチャーターされて、「背徳の惑星」に向かいますが。」
銀河辺境シリーズも11巻目を迎えてちょっとだれ気味かな。けっこう悪趣味だし。
途中ちょっとした額の小遣いを得ますが、シリーズ物の主人公の宿命ですぐに失うはめになります、かわいそうに。
こんなことで、大事な星間連絡艇<リトル・シスター>を維持してゆけるのでしょうか?。


書名 銀河私賊船団
著者 A・バートラム・チャンドラー
訳者 野田昌宏
出版 ハヤカワ文庫SF
分野 SF

結局グライムズは首が回らなくなって星間連絡艇<リトル・シスター>を手放すはめになりました。
もうがっかりです。
小なりとも星間航行のできる船です、やっぱり宇宙の男グライムズにこそ所有していて欲しいと思いつつも、せめてスクラップにするつもりはないと言ってくれる人に譲ることができたことを、せめてものなぐさめにする他ありません。
<リトル・シスター>は小型とはいえ、船体は金でできており大変高価な船です、まとまったお金を入手したグライムズは、とりあえず地球に戻ってゆっくりしようとしますが、そこへ男女2人組がやってきます、占いによるとグライムズは今売りに出ている老朽船を購入し、2人を雇うべきだというのです。
こんなおんぼろ船を買うくらいなら、なんとか<リトル・シスター>を所有し続ける道はなかったものかと、納得のゆかぬ思いですが、おんぼろとはいえ、小型の<リトル・シスター>とは異なり、標準的な大きさの、まごうことなき輸送船です、乗り組む船員を集め、船の不具合を修理し、新たな船名<シスター・スー>と命名するころには、さきほどがっかりしたのはどこへやら、面白くなってきたじゃないか。と心踊りました
やっぱりグライムズは宇宙(海?)の男、地球に隠居などしていてはいけません。
実のところ面白さのピークはこう思った部分で、<シスター・スー>で新たな船出をした後はまたまた、だれてしまったのですが、まあ仕方ないか。
ラストの危機回避も、もうちょっと能動的な危機回避が出来なかったものかと思ってしまいますし。

銀河辺境シリーズには種々のヒロインが登場しますが、はるか昔に読んだ1〜6巻に登場するヒロインについては一人を除いては忘却していました。
一人だけなぜ覚えていたかというと、グライムズの子供を産んだからなんですが、今回その、マルレーネ姫が再登場します。
しかし、哀れにもオデブさん呼ばわりされてしまってます。
おまけに親子の対面ができないかとのグライムズのひそかな期待も、子供にこんな男が父親だとは知らせたくないとの理由で、かなえさせてもらえませんでした。
そりゃ、(たぶん)運動もせずに美食を続ける日々を十数年送ってきたんですから、おでぶさんになって当たり前なんですけど・・・。
マルレーネ及び立派に成長した息子との感動のご対面というわけにはいかなかったものかねー。
実際そんな展開になっていたら、「けっ、都合良すぎるぜ」って言って、読むのを投げ出したくなったような気もするので、これでいいんだけど。

書名 日独最終戦争1948 B0 -前夜編−
著者 桂令夫
出版 学研
分野 仮想戦記

タイ・ボンバの米本土で日本とトイツがスターリングラードをやらかす冗談ゲームを原作とした、仮想戦記。今回は時代をさかのぼって日独開戦前のメキシコ、テキサス国境近辺での事変を扱っている、今回の主役はパットンです。そう海軍のハルゼーと並んで、ちょっとキ印が入ってんじゃないかって感じの、あの猛将です。
第二次世界大戦中の日本にはこういったタイプの人材に不足していましたねえ。
内容はこのシリーズのB1、B2でなかなかたいした仮想戦記を書いていた著者だけに、なかなか面白い仮想戦記となっています。


書名 覇者の戦塵「ダンピール海峡航空戦 上」
著者 谷甲州
出版 中央公論新社(2001/09/20)
分野 仮想戦記

この本の前に読んだ「日独最終戦争1948 B0 -前夜編−」もなかなか良い仮想戦記ではあったけれど、続けてこの本を読むと「やっぱり、オレの認める仮想戦記は「覇者の戦塵」だけだ」ってそう思ってしまいます。格が違う。
SFに冒険小説に仮想戦記にと幅広い?ジャンルの小説を書いている谷甲州ですが、「覇者の戦塵」シリーズに重点を置いて書いて欲しいです。
SFファン(オレもそうか)はとんでもないと言うでしょうけど。

時は1943年5月、現実のダンピール海峡の悲劇が生起した時点より2月ほど経過し、ガダルカナルでの消耗戦は発生しておらぬものの、ニューギニア方面は山越えのポートモレスビー攻略が無理がたたって、酷いことになっています。
そんな状況でニュージョージアに反攻してきた連合軍を叩くため、逆上陸部隊が編成され、艦隊航空隊が陸にあがって南東方面に送られます。
セ号、ソ号作戦のトラウマが刺激されて、読んでいて、ヒー、となりました。
お願いですから、無駄に航空兵力を消耗するのはやめてください。
太平洋戦争で現われた不具合を早めに認識させることによって、改善されてきている覇者の戦塵世界の日本軍の装備と運用方法ですが、航空機の防御力不足だけは未改善なのです、ゆえに「速力が低下しても良いから、燃えない飛行機を」という陸攻搭乗員達の血のさけびは、この世界でも存在するのでしょう。
「航空機の防御力の改善」これがどうにならぬものか、読者である私の、そしてこの世界の前線の搭乗員達の切実な願いであります。
大きな背景は上記のソロモン方面でのニュージョージアへの逆上陸作戦なんですが、この作戦の裏で機械化された設営部隊が二等駆逐艦の護衛のもと哨戒艇でニューギニアへ輸送されており、彼らがこの巻の主役です。
著者は南東方面は現実にも大きな影響があった戦いが行われており、覇者の戦塵でも4巻程度必要になってくると後書きにも書いておりますが、4巻じゃ少ないような気がするなあ。
欲を言ったらきりがないけれど。


書名 アーバン・ヘラクレス
著者 久保田弥代
出版 ソノラマ文庫
分野 YA

ハードボイルド・アクションっていうのでしょうか?、この分野には疎いのでよくわかりませんけれども。
最初からスロットル全開のアクションシーンの連続で、最後まで息もつかせず突っ走っています。
息をつかせないのは面白さが持続していいことですが、反面読んでいるこちらは、ちょっと疲れたよ。いや、主人公はもっと疲れてるだろうけど。


書名 暁の女王マイシェラ
原題 THE VANISHING TOWER
著者 マイクル・ムアコック
訳者 井辻朱美
出版 ハヤカワ文庫SF(1985/04/15)
分野 ヒロイック・ファンタジー

エルリックサーガの4巻です、3巻を読んだのが10年以上前なので、名前などすっかり忘れてしまっている。
ムーングラムってどこでどうやって知り合ったのだろうとか。
ストームブリンガーいいなあ、エルリックが最後にどうなるか知らなかったら、こんな剣欲しいと思っていたろうなあ。いや、10年以上前にやっていた、D&D上での話ですけどね。


書名 黒き剣の呪い
原題 THE BANE OF THE BLACK SWORD(1967)
著者 マイクル・ムアコック
訳者 井辻朱美
出版 ハヤカワ文庫SF(1985/05/20)
分野 ヒロイック・ファンタジー

この巻でエルリックは大事な人に出会い結婚し平安を得ますが、このエルリックサーガは有名すぎて、エルリックの結婚相手であるザロジニアがどうなるのかとか、エルリックがどうなるのかとかおぼろげながら情報が耳に入ってきていて大体判明しているのが残念だ、やっぱり人気作は早いうちに読んでおくべきだなあ。
コルムやエレコーゼサーガの方がその点余計な情報は入ってこないので良いかもしれませんね。
エルリックはストームブリンガーを厄介払いしたくても、できない悩みがあるようですがこの件に関しては同情無用のような気がします、都合の良いときだけ利用して、厄介になったら邪魔者扱いなんて都合が良すぎるよ。

エルリックサーガも次巻で決着がつきますが、さっそく読んでエルリックの運命を見とどけるとしますか。


書名 かりそめエマノン
著者 梶尾真治
出版 徳間デュアル文庫(2001//)
分野 SF

読んでいる最中に、「この本は「狂犬の夏」と並んで出会えて良かった今年2冊目の本になるな」、とそう感じていた。
物語の前半で主人公が感じた、安らぎや、怒りや、喜びや、悲しみをそのまま素直に共感できたからだ。
それは物語の後半部分になって多少薄れはしたが変ることはなかった。
著者は後書きで「AI」で泣けなかった人を泣かすことを目標にしたと書いているが、泣きこそしなかったものの、哀しみの混じった暖かな、ほのかな感動を得ることができた。
SFとして傑作とは言えないと思う、だけどいいじゃないか、読んでいて幸せだったのだから。


書名 日本海軍戦場の教訓
著者 半藤一利、秦郁彦、横山恵一
出版 PHP研究所(2001/10/15)
分野 軍事

半藤氏と、秦氏の対談を横山氏が司会するという形で著されたもの。
秦氏今回はちょっとだけ過激です、ミッドウェー海戦は半プロが指揮していたのがいけないのであって、東條英機が指揮していればよかったんだ、とか特にミッドウェー海戦では怒りモードに入っています。
読み物としては面白いので太平洋戦争について知りたい人向けだと思います。
最後に秦氏に注文があるのですが、確かに対談物は読むのは楽しい、だけど、もうそろそろ、今までの研究の成果を生かした太平洋戦争の航空戦史の決定版を著してもらえないものでしょうか、この仕事ができる数人のうちの一人のはずだから、期待しているんだけど。


書名 時間不動産
著者 草上仁
出版 ハヤカワ文庫JA( 1988/11/15)
分野 SF

この本が読んでいない最後の短編集だったんです、後は新しい短編集が出版されるのを待つしかありません。アンソロジーなどに単発で新作が発表されていますが、それをいちいち追いかけるのは情報的にも金銭的にもきついので、短編集という形で早く出版してほしい。
この本の内容はというと、期待を裏切ることはなかった、安心して読める良質のコメディSF短編集と言えるでしょう。


書名 死闘の海
著者 三野正洋
出版 新紀元社(2001/03/10)
分野 軍事

読んだのは今年初めですがいつ読んだか忘れたので10月に書いておきます。
第1次世界大戦の海戦を概観できる本、この本で第1次世界大戦の海戦に関する大体の概要を把握してから、次にもっと詳しい本に進めばよいのだが、いかんせんその詳しい本は日本では出版されていない、筆者がこの本を執筆したきっかけも、第1次世界大戦の海戦に関する本が出版されていない現状を憂いて、そのような本が出版される呼び水になればと考えた結果だと序文で述べているぐらいである。
ユトランド沖海戦、フォークランド沖海戦など主要な海戦については、過去出版された事がないわけではないが、現在入手困難な現状からみて、この本が海戦史関係の出版物の中で貴重なものであることは間違いない。
著者は今までに第2次世界大戦の地中海の戦い、スペイン戦争など、日本であまり紹介の進んでいない戦いについての著書を出版してきた人です。
本の内容は発生した事件を日付順に記述するのでなく、全部で33の話題をとりあげ、それぞれについて約2〜4ページ前後を割り当て、解説し、第1次世界大戦の海戦全般が把握できるようになっている。
第1部のイントロダクションでは、この本を読む上での基礎知識が書いてある。
第2部の主要な海戦ではその名のとおり主要な海戦を解説している。
海戦直後に英独軽快艦隊が衝突した「ヘルゴラント・バイト海戦」。ドイツ東洋艦隊が勝利した「コロネル沖海戦」とそのドイツ東洋艦隊が巡戦を主力とした英艦隊に殲滅された「フォークランド沖海戦」。英独巡戦部隊の戦闘である「ドッガーバンク海戦」、地上砲台と機雷により主力艦に思わぬ大被害がでた「ガリポリ半島とダーダネルス半島を巡る戦い」。英独水上部隊の主力が激突した「ユトランド沖海戦」がとりあげられている。
ページ数の少なさから海戦カタログ的な感じですが、仕方ないところでしょう。
第3部のそれぞれの海戦では主要な海戦ではないものの、目だった特徴を持つトピックが解説されている。
その中で、潜水艦戦の紹介の部分が、この海戦史の中で一番重要な所でしょうが、規模が大きすぎるためでしょう、有名な2隻の潜水艦の活躍を紹介した「U9の衝撃」と「U21戦いの軌跡」を軸にしてあとは潜水艦戦の戦果と損失を表にして結果がどうなったかを紹介する「潜水艦による通商破壊戦」のみで終わっています。通商破壊戦は水上艦によっても行われています、それを紹介するのが「軽巡エムデン戦いの軌跡」「軽巡ケーニヒスベルクの戦い」「ゼーアドラーの戦い」「仮装巡洋艦による通商破壊」の4篇。他には「ゲーベン追跡戦」「アドリア海の戦い」「フランダースのドイツ基地への攻撃」「水上機母艦の登場」「バルト海の戦い」「黒海におけるトルコ・ロシア両海軍の戦い」「バルト海におけるソ連とイギリスの戦闘」「ドイツ革命と休戦、大海艦隊の最後」「火災と事故による大型艦の損失」が紹介されています。
第4部の側役の海軍の戦いは、英独海軍以外の国の海軍の活動を国ごとに紹介しています。
第5部の海戦の結果がのちの軍艦に及ぼした影響では大戦後の艦種別の評価が説明されています。
最後にあるのが戦没艦船のリストです。
類書が入手困難がためにこの本に価値があるのは既に述べたとおりです、ですが同じく第1次世界大戦の航空戦史についても現在入手が容易な本はありません、今度はこの件について扱った本の出版を著者に望みたいと思います。


書名 ストームブリンガー
原題 STORMBRINGER(1963)
著者 マイクル・ムアコック
訳者 井辻朱美
出版 ハヤカワ文庫SF(1985/08/31)
分野 ヒロイック・ファンタジー

名作ですなあ、ハワードのコナンシリーズと並んでヒロイック・ファンタジーの金字塔だというのは過言ではないですね。
古書店でありふれているほど良く読まれているのも納得いきますね。
とりあえず、前巻の感想で有名すぎてエルリックがどうなるのかおぼろげながら耳に入ってきているのが残念だと書いたのは杞憂でした、関係なかったです、この展開ならエルリックがああなるのは必然だったし、わかっていても十二分に凄かった。
ストームブリンガーを都合の良いときだけ利用して、厄介になったら邪魔者扱いと書いたのもこの巻では見当はずれな感想となった、承知のうえでストームブリンガーと行動を共にしたんですね。


書名 ルナティカン
著者 神林長平
出版 光文社文庫(1988/05/20)
分野 SF

「月には多数の人々が住むようになっていた、初期の住居であった地中から地表に出て軟質ドームの中街を造り生活していた、空調施設となった地中に、住民登録もないまま住みついた少数の人達はルナティカンと蔑称され人間扱いされなかった。
アンドロイドメーカーのLAPはルナティカンの赤ん坊を入手し、アンドロイドの両親の元育てる実験を行っていた、ポールと名づけられたその子供は11歳に成長していた。
作家のリビーはその実験の取材のため月にやってきたがLAPからは取材拒否を受けてしまう。ポールの人権問題について騒がれるのはLAPにとって困るのだ。
ルナティカンであることを隠し月の地表でポールのボディガードをしながら暮すリックの接触を受け、ポールの叔父でもあるリックよりポールの出生事情を知ったリビーは、なんとかその事実をポールに知らせようと決心するのだが、アンドロイドの両親とはいえ幸せに育てられてきたポールに真実を伝えるのは最善のことといえるのだろうか」

たぶんSFを読み慣れてない人でも抵抗なく読めるんじゃないかと思う、 「敵は海賊」シリーズや、この本のような読む人を限定しない本が書ける神林長平が、一般にさして普及していないのがもたいないなと思う。

アンドロイドだろうと親には変わりないだろうと思って読み始めたんだけど・・・、そうだよな、これはこの本が語っているとおりだよなあ。



書名 2061年宇宙の旅
原題 2061:odyssey three(1987)
著者 アーサー・C・クラーク
訳者 山高昭
出版 早川文庫SF(1995/03/15)
分野 SF

いつ読んだかわからなくなったのでここに書いておく。
なんにも謎は解けてません、一番感動したのが2010年宇宙の旅からの引用である 「エウロパには生命が存在する」だったくらいで前作の方が面白かったし。
とりあえず、これでシリーズ最終巻を読むことができるようになった。


書名 3001年終局への旅
原題 3001: The Final Odyssey (1997)
著者 アーサー・C・クラーク
訳者 伊藤典夫
出版 早川書房(1997/07/31)
分野 SF

「2001年宇宙の旅」が人類の次の種への進化を暗示させて終わったのに対して、おそらくシリーズ最終巻になるであろうこの「3001年終局の旅」は人類の変化を描くのではなく、アーサー・C・クラークによる未来予測の物語だった。
2001年、2010年、2061年と近未来を舞台としてきた一連のシリーズに続いて今回は気の遠くなりそうな時の隔たりがある、これだけ未来の話ならば、想像力の働くまま自由自在に奇想天外な未来社会を構築してもよいのですが、クラークはそうはしません、何が実現可能かしっかりと考証された未来社会がそこにあります。
「充分に進歩した科学は魔法と変らない」というクラーク自身の言葉が登場人物の口から出てきますが、これもあえて困難な道を選んで在り得る未来社会を構築したというクラークの自負心から出てきたものではないでしょうか。
1000年の時は人間を外見的にも内面的にもさほど変化していません。
これはクラークが後書きで書いているように、生化学に力を入れればもっと変化している可能性も予期しつつも、この世界では変化しない設定を選んでいます。
(グレッグ・ベアはこの考え方には同意しないだろうなあ)。
技術面でも魔法と変らぬとも思える技術が出てきます、しかしそれはクラークが現在の技術予測の裏付けにより、実現可能かもしれないと考えたものなのです。
そのため軌道エレベーターなどの今までクラークの著作物に出てきた技術も登場しておりクラークの熱心な読者にはかえって新味はないかもしれません。
老いても駄馬とはならぬクラークは偉大でした。読んでよかったと思います
しかし先に書いたようにこの本はクラークの未来予測の本です。
モノリスの製作者についての興味はクラークはあまり持っていないようなのです。
エウロパに近寄っちゃいけなかった成果があまり現れてないんで、そこのところだけは、なんか不満が残るなあ


書名 ゼロ戦ラバウルに在り
著者 川戸 正治郎
出版 今日の話題社(1956/06/01)
分野 軍事

薄っぺらい小冊子です。
小学2年生の時初めて読んだ軍事関係の本「ゼロ戦と戦艦大和」にこの人の回想記が掲載されていた、もちろん初めて覚えた戦闘機搭乗員の名前だった。
子供でもわかりやすく変えた以外はほぼ忠実に掲載されていたらしく、大体記憶のままで懐かしかった。1943年後半以降の二五三空の搭乗員の手記はほとんど書かれておらず、もうちょっと詳しく書かれていればなあと思う。鴛淵大尉、西沢上飛曹と二五一空から吸収された搭乗員の名が出てくるだけになおさらだ。
軽巡夕張が撃沈されたと書いてあるので、子供の頃は夕張がラボールで沈んだと信じていた。まあ記憶違いは誰にもあることです。
それにしても猛烈な闘魂の持ち主で戦闘機搭乗員にぴったりな性格の持ち主だなあと思う。



書名 昭和史の論点
著者 坂本多加雄、秦郁彦、半藤一利、保坂正康
出版 文芸春秋(2000/03/20)
分野 軍事

著者4人による対談。
半藤氏の語る開戦の「天皇が開戦反対であるならば、大権も天皇大権ですから、陸海軍が何をいおうが、天皇の意見をきくという手があった」という発言がとても気になる、本当になんとかして開戦回避の道はなかったものか。


読書感想目次に戻る 表紙に戻る