2001年8月の読書感想


書名 悲劇の英国空母に捧ぐ
著者 田中嵯武朗
出版 日本図書刊行会(1996/11/10)
分野 その他

著者は旅順生まれ、中学生のころ旅順に英空母ハーミスが訪れ、伝馬船に乗って近づいて艦首にほお擦りしたことがある。そのときの体験を綴ったもの。 人生において一冊の本にできる想い出を得ることができた著者は幸せだなと思う。 まだ硝煙の匂いのしないころの長閑な一光景。いいなあ。 ただ戦史の資料としての価値はほとんどありません。ハーミズを愛してはいても、ハーミスについて調べた形跡はほとんどないです。 何しろハーミズが航空雷撃で沈んだと書いているくらいなので。

書名 地球連邦の興亡4
著者 佐藤大輔
出版 徳間書店(2000/01/31)
分野 その他

本来去年出版された時すぐ読むつもりだったんですが、その前に1〜3巻を再読しておこうと考えたのが運のつき、再読しようと考えるのは簡単でも、再読するのは極端に嫌いなんですね、私は。大体オースン・スコット・カードの「エンダーの子供たち」ですら、「ゼノサイド」の再読が終わってないので、読んでない。
そう、再読してから、などと考えていたら、一生読めないことは明かなんです。
結局再読はあきらめ読み始める、前巻までのあやふやなあらすじは覚えていても、詳細はきれいさっぱり忘れている。「この人って南郷少佐とどんな関わりがあった人だっけ?、再読してからならもっと面白かったろうな」などと考えつつも、忘れたところは、忘れたままで強引に最後まで読破。最後の方は壮絶なスペクタクルに余計なこと考える余裕はなかったです。
いやー感動しました。
救出船団に次々と加勢が加わってくるところなど、映画「キスカ」の撤退用の駆逐艦の増援がやってくる場面などと同じで、過剰な演出っていう気もしましたが。「許す、過剰な演出結構」などと思って、感動に胸を震わせていました。
どちらかといえば「物わかりの悪い上官」的役割のドュパイユ少佐が下し決行した最後の令のところも感動物でしたね、頭の固い人間なだけに、自らの信念を完遂する姿は偉大だ。結局利己的、自己保身的に立ちまわることはしなかったんですね、この人は。
3巻の感想ではどこか退屈感があったと書きましたが、前言撤回しなければなりませんね。退屈だった政治の話も話をこう持ってくるには必要だったんですね。
まあそれに政治の話は退屈だと連呼するのも恥ずかしい話で、ここの読書感想文の本のリストを一目見ればわかるとおり、第二次大戦関係の本をかなり読んでいるのですが、実際の戦時外交(戦前も含む)は、もっと複雑怪奇で「地球連邦の興亡」で描かれるような明快なものではありません、というかその本に書かれていることが真実かどうかもわかりません(欺瞞もかなり混じっているだろうし)、最近日本の開戦経緯についてちょっと調べてみたいと思っているのですが(きっと面白いだろう)、時間がないですね。その前に「ゼノサイド」とかリデル・ハートの「第一次世界大戦」とか優先順位の高いものがいくらでもあるし。
話が横にそれましたが、最後に早く続きを書いておくれ、それと「遥かなる星」も忘れずにね。


書名 スター・ハンドラー
著者 草上仁
出版 ソノラマ文庫(2001/07/31)
分野 SF

いやー楽しかったですよー、重量3トンの強暴な異星生物(外観を一言で言い表すなら「げろげろキメラ」)に「ポチ」って命名するんだもんなー、ポチはポチで判断基準が犬そのものだしねー。
こんなペットいらねーよなー、甘えてこられただけで、即死しそうだもんなー。


書名 野球術 上
著者 ジョージ・F・ウィル
訳者 柴山幹郎
出版 文春文庫(2001/08/10)
分野 スポーツノンフィクション

単行本で出版されていて目をつけていたのですが、5000円ばかりするので、手を出しかねていた、今回文庫化されて1400円ばかりで入手できるようになった、これなら手が出せるぞ、やあめでたい。
原書の出版は1990年、監督選手へのインタビューを元に野球術を紹介してゆくので、大体1987〜1989年あたりが主に扱う年代となっている。
それから10年以上経過し野球も進歩しているはずだが、それでもこの本に紹介されている内容は私には新鮮だ(革新的というわけでないにせよ)。
第一章は監督術
主にアスレチックスの監督のラルーサへのインタビューを基本に組み立てられている。
ラルーサは言う、常に主軸打者といえどもバントの構えをみせ、野手を前進させなければならない、そうでなければ相手は易々と深い守備隊形をとりヒットをアウトにするだろう。また簡単にバントはしてはならない、3本安打が連続する可能性はとても低いためヒットが出るのを待っていてもならない、相手を観察し常に足を使うことを心がけよ。 ラルーサの語るアスレチックス像は従来持っていたイメージ「マクガイア、カンセコを主軸にした豪打のチーム」とはかなり異なるものでした。
マクガイアのイメージもかなり異なるなあ、今は引っ張り一辺倒の打撃のようだが、このころは反対方向に打つのがうまい打者だったようだ。
またDH制の是非にも触れられています。DH制は頭を使わないというが、たかだか代打を使って投手を交代させる程度のことに頭悩ませることがどれほどのものなのか。
との主張は、勝利するための様々な努力を紹介されてきた後だけに説得力があります。

第二章は投球術
ドジャースの投手ハーシュハイザーのインタビューを基本に組み立てられている。
第一章の中心人物ラルーサ率いるアスレチックスは1988年ハーシュハイザーの所属するドジャースにワールドシリーズで対戦して敗れ去った。
ハーシュハイザーは幸運だった。だがその幸運は転がり込んできたのではなく、頭を使って引き寄せたのだと著者は説明する。
内角球を使い打者に踏み込ませるな、そして外角球で討ち取れ。
投手に大事なのは何よりコントロールである、早いカウントでストライクを取りにゆくのを恐れるな、カウントが悪くなって甘いところに投げざるを得なくなるよりはるかに良い、この辺は基本だなあ。
キャッチャーを盗み見てサインを知ろうとする打者は許すな、それを察知したら、ボールをぶつけて思い知らせてやれ。
これは常識なのか?、恐いぜ大リーグ。
味方がわざとデッドボールをくらったら、同等相手の打者にぶつけかえせ。
ということは主力打者ってのはつらいですね、第三章での主役であるグウィンも、こうした報復のターゲットにされていた。
第一章と比べて過去に言及することが多い、野球という競技がバランス(攻撃と守備の関係)を保つために変化を重ねてきた競技だということがわかる。
ふと思ったのがベイスターズの(と書かねばならんのはつらいねぇ)小宮山にインタビューしてよ、ってことで、著書が日本の投手の投球術とアメリカの投手の投球術のどこが違うと感じるか興味がある。というか昔小宮山のインタビュー記事を読んだ時の方が大きな衝撃を受けた覚えがある。

それにしても良い本だよこれは。読もう野球好きな人は、ぜひとも。

ちょっとこの本とは関係ないけど、野球つながりでここに書いておく、かつて大リーグでプレイしていたことがある村上氏がこのまえ、テレビの解説の途中で「打者としてサンデー・コーファックスと対戦したことがある」と語っていました。ちょっと痺れるような感覚に浸りました、言うことが違うなー、「サンディ・コーファックスと対戦した」なんて他の日本人は言えないもんなー。さすがだよ。


書名 日本陸軍航空秘話
編者 田中耕二、河内山譲、生田淳
出版 原書房(1981/09/20)
分野 軍事

題名から裏話的な小話が掲載されている本かと思ってあまり期待していなかったのですが、陸軍航空の関係者たちの座談会を行って、陸軍航空の歴史がわかるように構成されたもので、はっきり言ってこれはいい本です。一通り読んだ後は、参照用として手元に置いておきたいと思います。残念ながら私は所有してませんけれども。
対談中陸軍航空が海軍航空に劣っていたと感じている方が何人かいらっしゃるのは意外でした、それぞれ長所もあれば短所もあるので、総合すれば同格の実力だと思うのですが、謙虚ですね。
それと、陸軍航空は対ソ戦を対象に編成されたため、対米戦には不適格だった、と語る方がおりました、それは納得できるのですが、だからといって、対米戦が始まった以降もそれを主張し続け、南方の資源地帯を獲得した以降は、航空部隊を引き上げ、対ソ戦用に部隊を準備するつもりだったと主張する方がいらっしゃったのは、納得できませんでした。
対米戦に適応してなかったのは仕方ないにしても、始まってしまったしまった以上は、いつまでも対ソ戦に固執せず、対米戦に全力を尽くすべきではなかったのかと考えてしまいます。


書名 駆逐艦天津風精神は今
著者 青山春利
出版 丸善名古屋出版サービスセンター(1002/02/21)
分野 軍事

著者の生涯を振り返ったもの、生い立ちから、海軍生活、そして戦後の八百屋さん業について書かれています。今回はこの本の約半分を占める海軍生活の部分だけを読みました。著者の方には失礼な読み方ですが、こうでもしないと未読の本が多すぎて大変です。
海軍は自らより経験の浅い兵隊さんを殴るなどして、仕事ができるように教育するのですが、それに涙していた新兵さんも、経験を重ねれば、若い兵隊さんがまどろっこしかったら、殴って教育してしまうんだなあと思いました。
中には殴らずに教育する人もいて、著者は感謝しているのですが。


書名 闇の世界
著者 フリッツ・ライバー
出版 ソノラマ文庫(1985/05/31)
分野 SF、ファンタジー

「鏡の世界の午前0時」
「指人形の魔力」
「神々の最後」
「真夜中の出帆」
「人知れぬ歌」
「歴戦の勇士」
「マクベスおばあちゃん」MBR> 「緑の月」
「幻影の蜘蛛」
「過去ふたたび」
「闇の世界」

ライバーはホラーからファンタジー、SFからヒロイックファンタジーまで 幅広い著作物があります。
私は最初のうち読んだライバーの著書が自分に合わず長年敬遠していたので、ライバーがどんな作家なのか把握していません。
この短編集はホラー、ファンタジー系統の作品が多く収録されていました。
その中でSF色の強かったのは、核戦争を核シェルターの中で生き延びたものの、狭いシェルター内で生活してゆくうちに、外の世界にあこがれ協調生活ができなくなった女性と、放射能への恐怖が念頭を去らない彼女の夫の精神状態を描いた「緑の月」と種としてのバイタリティを失った人類と人類の後を継ぐことになった機械(人類の創造物)とのラストコンタクトを描いた「神々の最後」でした。
両者とも似たような設定の話は多々あるような気はしますが、ライバー版の料理方法として愉しめました 。
ホラー色の強いものの中では。怪奇現象が次々と理由付けがなされて、怪奇現象でなくなってゆく時代のなか。本当の怪奇現象に出会ってしまう「闇の世界」など特に印象強かったです。


書名 飛行第五十五戦隊の記録
著者 増田雅久
出版 五五会事務局(1988/05/05)
分野 軍事

飛行第五十五戦隊は三式戦闘機を装備し比島および本土で戦った。
比島で戦死した岩橋戦隊長の夫人の歌が多く掲載されている、父のことを尋ねる子の様子が戦争のもつ暴力性を痛感させる。
出版日は戦隊名に合わせてあるんですね。


書名 クリスタルサイレンス
著者 藤崎慎吾
出版 朝日ソノラマ(1999/10/30)
分野 SF

2段組の単行本で500ページ近くある、もうちょっとシェイプアップしてよと悲鳴をあげたくなるが、読み始めると案外気にならない、世界を描写するのにこれぐらいの分量は必要なのかもしれない、いやでもいらないエピソードを削ればもうちょっと短くできたろうなあ、思いつく限りのギミックを全てぶち込んでしまった感がある、まあそれがこの本の魅力のうちなのですが。
舞台と主役は、通信ネットワーク上の環境とその中の情報です。ギブスンの「ニューロマンサー」から15年以上経過し、サイバースペースも、もう当たり前のギミックになってきているようです。なんというか「クリスタルサイレンス」世界のサイバースペースを詳細に描写されても、もういいから早く次進んでくれよと思ってしまうのは、いけない読み方なんだろうなあ。
もう一つの舞台、「植民が進みつつある火星」は人間を補助する機器類がかなり進歩している世界なので、火星の環境の厳しさがあまり感じられず、生活そのものは地球とかわんないねという印象でした。火星植民そのものが主題ではないので、火星植民の厳しさを感じさせてくれというのは、いいがかりになってしまいますね。
それにしてもデジタルな描写でなくアナログな描写に感動してしまうのはなぜなんでしょうね。火星に降る雨のイメージの美しさよ。


書名 ヴァーミリオン・サンズ
著者 J・G・バラード
出版 ハヤカワ文庫SF(1986/11/15)
分野 SF

バラードの短編集としてはわかりやすいストーリーだった。
バラードの入門として良いのではと思うのだが、その本が入手難なのが困りものです。
ヴァーミリオンサンズというリゾートに住む芸術家たちの物語、雲に彫刻するもの、歌う植物、植物の衣装、プログラムで詩を作る詩人たち。住む人の感情を吸収し放射する家、歌う芸術作品。
バラードの作品には「廃墟」のイメージがあるのだが、この短編集では「退廃」のイメージがつきまとう。そのヴァーミリオンサンズも巻末の短編では廃墟と化している。
そして、その廃墟に居付いてしまうのが、バラードの世界の人間達なんですね。


書名 日独最終戦争1948[熱砂編]B2
著者 桂令夫
原案 タイ ボンバ
出版 学研(2000/11/09)
分野 仮想戦記

日本とドイツが北米でスターリングラードを行うタイ・ボンバ作シミュレーションゲーム「ミシシッピバンザイ」のノベライズ。
ある人によると山下将軍がサイコロ振ってダーとテーブルをひっくり返すそうだ(意味不明)。
前巻で航空戦の描写にゲンナリして大幅減点だったが、続きを読ませるだけの内容はあったので、古書店に出回るのを待っていた。
さてこの著者ですが、他の仮想戦記とはかなり感触の異なる書き方をします。
一般的な仮想戦記が年表にエピソードを追加していって作品を構築してゆくような感じなのに対して、この作家は物語に年表を付加して作品を構築してゆくような感がある。
分かりにくいので言い方を変えると、多くの仮想戦記が年表すなわちシナリオを書いているに対して、一応小説の形になっているのです。
この本の主人公ヤン・イレシュの回想部分がぎくしゃくしているのも、意図的にそうしているのだろう。
仮想戦記を読む人々は小説になっていようが、なっていまいが関係ないだろう、小説読みたきゃ他ジャンルの本でもよんどれとおっしゃるでしょうし、実際そういうことなんでしょうから。小説になっている、すなわちこの本が優れているということにはならないのでしょうけれども。
エルウィン・ロンメルについて書いておくのですが、仮想戦記において彼は後先考えない猪突猛進型の愚将として表現されている事がほとんどなんですが、本当にそうでしょうか?。確かに補給に関して無頓着な点があり北アフリカにおいても無茶な突進を行ってみせていますが、彼ほど臨機応変に指揮がとれる指揮官もいないはずです、上層部の拘束がなければ彼はエルアラメイン敵の攻撃を座して待つことなどしなかったはずです。ロンメルが私にはこの作品のように袋小路に追い込まれるまで一つの行動に執着するとは思えないのです。おそらく戦力を保持したまま戦略的撤退をしていたでしょうね。
それと舞台が北米なんですが、これは太平洋戦争を舞台とした仮想戦記よりも地理感の掴みにくさという点で同じシリーズのほかの著者たちよし難しい仕事をこなしているんではないかと思う。
続巻を読ませる力は充分にありましたね。


書名 軍閥興亡史1
著者 伊藤正徳
出版 光人社(1998/06/15)
分野 軍事

著者は「連合艦隊の最後」の著書が有名な人、その「連合艦隊の最後」を書いた後、「軍閥興亡史」、「日本陸軍の最後」と続く日本陸軍を紹介する本を書いた、これらの本は、戦後日本陸海軍を紹介する最も早い書物の一つだった。
その「軍閥興亡史」の1巻は明治維新から日露戦争までの日本陸軍史を扱っている、もちろんたった一冊の本でこれだけの分量を扱うのは無理がある。この本は重要なトピックだけ抜き出してある程度詳述し、その他の部分は割愛する方法をとっている。
一般の人を対象に読み物形式で書かれているので、日本陸軍の歴史の概略を軽く勉強するにはいいのではないでしょうか。

読書感想目次に戻る 表紙に戻る