2001年7月の読書感想


書名 兆治さん、わたしの直球 受け止めて。ーエースを支えた妻のホンネとラブコール
著者 村田淑子、村田兆治
出版 日本文芸社(1991/08/08)
分野 スポーツ・ノンフィクション

村田兆治さんは神である、この本は彼の奥さんが村田兆治選手が引退直後に執筆したものです。
神についての本を何故に今ごろ読んでいるかというと、出版当時内容をざっと眺めさして目新しいことが書いてあるわけでなさそうだったので購入しなかったのです。その後購入しなかった事をおおいに後悔することになったのですが。このたびインターネット書店で購入できた。やあ、めでたい。
グラウンド上での村田兆治選手の事については、最初に感じたとおりさほど目新しい事が書いてあるわけではなかった。この点については同じ著者の「明日ありて」を読んだ方がいいだろう。
(念のため説明しておくと村田兆治さんは、プロ野球チームのオリオンズのかつての大エースだった人です、この前テレビの中継で黒木投手について、村田投手以来の大エースになりつつあると言われていましたが、黒木投手をして、なりつつあると、解説されるほど、大エースの称号は偉大なのである)。
この本は夫婦としての村田夫妻についての本です。村田兆治さんは大変な旦那さんだったようですが。夫婦円満そうで善いですね。
一番印象に残ったのは主題の村田夫妻の事についてではなく、村田兆治さんの以下のような言葉でした、以下に引用しておきます
「私にとって野球は単なる職業のひとつではなく、何度も言うように人生と表裏一体のもの、いや、人生そのものといっても過言でないのである。」
言うはやすしですが、村田兆治さんの場合それを実践したうえでの言葉なので重みがあります。
ついでに、村田淑子さん、村田兆治さんの本書の結びの言葉を引用しておく。要約すればこういう本なのです。
「村田淑子四十三歳は、今、第二の青春のグラウンドを走りはじめたところです。」
「私もきみのこれからの生き方を見守っていくつもりである。だから、きみも私の人生を真剣に見守っていてほしいと思っている。」



書名 空飛び猫
原題 CATWINGS(1988)
著者 アーシュラ・K・ル=グイン
絵  S・D・シンドラー
出版 講談社文庫(1996/04/15)
分野 童話

背中に羽根が生えた4匹の兄弟子猫の物語
猫嫌いの私でも子猫ならかわいい。
起承転結の結が無いようなエンディングだが、昼寝したくなるような感触で悪くはない。
10分もあれば読めるので、興味を持った方は迷っているより、読んだ方早いです。

書名 光の帝国−常野物語−
著者 恩田陸
出版 集英社文庫(2000/09/25)
分野 ファンタジー

それぞれ異なる様々な特殊能力を持つ常野を出身とする人たちについての連作短編集。
最初の短編「大きな引き出し」を読んで、ああこれは、なかなかよさそうな短編集だから一気に読むのがもったいない、少しづつ読もうと、一旦本を閉じた、そしてそのとおり少しづつ読んでいった。
表題作の「光の帝国」はその冷たい時代背景が強く印象に残ったし。それを受けた、この短編集のトリを務める「国道を降りて・・・」でああよかったねとおもった。
読みやすいし、及第点が与えられる短編集だった。
がしかし、何か物足りなさを感じるのだ、それが何か考えてみると。
まず、かなり多くの謎が残されたままなのだ、つまり続編すら考えられる状態なのだがこの件だろうか、というと、これは違う、別に完結していないことには不満を感じてはいない。
SFを読む醍醐味が感じられないことだろうか、確かにこの本にはそれは無いのだが、別にそれが無いなら無いで、私の心をうってくれるような物語なら別段問題はない、私は人情話が好きなのだ(ただしSFやファンタジーに限る、水戸黄門ではだめなんだよ)。
で、この本が私を感動されてくれたかというと、感動してないんです、何か非常に醒めた感覚で読みました。物足りないと感じたのはこれですね。
哀しい場面では、ここは哀しい場面だから哀しもう、嬉しい場面(例えば「国道を降りて・・・」でよかったねと書いたところ)では、ここは、感動する場面だから感動してやろう。とか考えながら読んでいるようでは、自然に湧きあがってくる感動とは比べ物にはならないのです。


書名 欧州戦線爆撃隊
著者 タスクフォースI
出版 光文社文庫(1993/08/20)
分野 軍事

欧州戦線でB17は291508回の出撃で640036トンの爆弾を投下し、その間戦闘で撃墜された機数は4688機。
B24の場合は3626機が撃墜されたと書いてある。
凄い数字ですね。
他の本にはどんな事が書いてあるか注目していよう。

書名 本土決戦
出版 光人社NF文庫(2001/05/13)
分野 軍事

太平洋戦争において、九州、本州における陸上戦闘は生起しなかったのだが。両軍ともその準備は行われいた、本書はこの件について扱っている。
海軍の本土決戦準備、陸軍の本土決戦準備、米軍の対日侵攻計画、本土決戦の実状の4章に別れて、6人の著者による6編が収録されている。
15センチ高射砲装備部隊に所属していた高橋一雄氏の手記が興味深かった。
唯一対空射撃を行った際に電探射撃で2機を撃墜したと報じられていたと記憶していたが、電探よりの緒元が入らなかったため目視による射撃だったことや、2機撃墜でなく、3機に白煙を吐かせたことなど、伝えられていることと相違があった。しかし落ちてませんね、たぶん、白煙を吐かせただけじゃ。
もしかすると飛行機雲かもしれないし。記憶モードですが、米軍の記録にも損失はなかったような気がする。
どちらにても、この文章を読むと射撃機会は僅かな時間だったことがわかる、その機会に有効弾を送り得ていたのだから、たいしたものだと思う。

書名 メッサーシュミットBf109D/Eのエース1939−1941
著者 ジョン・ウィール
出版 大日本絵画(2001/07/08)
分野 軍事

書名の通りの本です、シュペヒトが隻眼になった原因とか、ボリスの撃墜機数とか、情報満載の本ですが、欲をいえば後10倍くらいページ数があればいいのに。

書名 海軍航空予備学生
著者 碇義朗
出版 光人社(2000/12/02)
分野 軍事

著者の前書きから抜粋します、「この本はその中の六期航空予備学生を軸に、学鷲たちが羽ばたいて行く過程と、その後に起きた太平洋戦争中の活躍について書き綴ったものである。」
こういう本です。
本書の主人公、六期航空予備学生達は海兵六五期のコレス(同期相当のこと)なんですが、海兵六五期の人達とは円満な人間関係を築いていたようです。
それと山本長官機が撃墜された際の護衛戦闘機編隊の指揮官森崎武中尉ですが、七期航空予備学生ということは、当時の204空の飛行隊長宮野大尉(海兵65期)の1期下級相当で、飛行経験としては相当の経験を持っていたことに気付きました。
予備士官と海兵卒の士官との間はうまくいってなかったイメージがあったのですが、どうも戦争末期の双方大量の人員が採用されるようになってから関係がギクシャクしはじめたようで、多くの人の中には乱暴な人も混じっているということか、それとも緊迫した戦局のなせることなのか。

六期航空予備学生は全員水上機に配属されました、そのせいだと思いますが、任官した23名中戦死者は5名と他の期と比べれば、少ない戦死者で済んではいますが、その5名の遺族にとっては思いでしか残らない事には変りなく、例えば六航空予備学生の戦死者の一人の奥さんは、ふとした事で垣間見せられた荒い気性(それは苛烈な戦地を経験したがゆえでしょうか?)に涙を流したのですが、そんな経験すらも大切な思いでになっていったのでしょうね。


書名 彼方の山へ
著者 谷甲州
出版 中公文庫(2000/06/10)
分野 ノンフィクション

SF,仮想戦記、山岳小説などを執筆している作家谷甲州の自らの山に対する経験を綴ったノンフィクションです。
20代前半までは国内での冬山登山、後半は青年海外協力隊でのネパールでの生活、それが終わった直後のヒマラヤ登頂を中心に語られています。
「本書は私の青春そのものだといえる。(中略)そんな時代の記録を、一冊に凝縮すること自体が無理なのかもしれない」と語っています。
そう語っているとおり、著者の経験のごく僅かな部分を抽出して紹介しているだけだとしても、十二分に面白いです。
7000メートル級の山に登頂して冒険していない、などと語っていますが、謙遜のしすぎです、遭難しかけているのですから、大変な冒険です。
その際にリーダーである松本氏の死を覚悟して、そのことを家族に報告せねばならないことを思って出てきた言葉「針の筵ですね」はインパクトがあります。
村上もとかの山岳マンガ「クライマー列伝」にも同様の状況でのセリフが出てきますが、谷甲州は現実に経験したことですからね。どんな心境だったのか想像だにできません、


書名 ムーミン谷の彗星
原題 KOMETEN KOMMER(1968)
著者 トーベ・ヤンソン
出版 講談社文庫(1978/10/15)
分野 童話

子供のころ読む、もしくは子供のころ読んで成人してから読み返すならともかく、おじさんになっていきなり読むのは良い読み方ではないですね。登場人物達全員幼なく感じられていけません。

今は猛暑だからムーミン谷へ避暑に行きたいよ。


書名 遙かなる旅人
原題 THE FAR TRAVELLER(1977)
著者 A・バートラム・チャンドラー
出版 ハヤカワ文庫SF(1977/07/15)
分野 SF

グライムズもついに銀河連邦監察宇宙軍を退職することになりました。
これがグライムズにとって吉と出るか凶と出るか。きっと吉と出るのでしょう
宇宙港(といってもただのクリケット場の転用です)の管理者の職についていたグライムズですが、やってきた宇宙船<ファー・トラベラー>の雇われ船長として惑星を出ることになります。それまでの船長は、わがままなオーナー(まあオーナーなんだから当然ですね)と自らで全てを管理してしまう船の管理コンピューター「ビッグ・シスター」に嫌気がさして(仕事ないもんな)、この惑星に残ることを選びました。グライムズは「船長がいないと船に保険がかけられいため」のお飾りとしての船長として雇われたのです。
この話のヒロイン候補は金持ちのお嬢さんである船のオーナーなんですが、珍しくグライムズとはうまく行きませんでした。ここ数年グライムズは関わり合う女性全てと関係を持ってしまう人という印象を持っていたので意外でした、まあたまにはこんなことがなければマンネリになってしまいますしね。
それでこの話の本当のヒロインは<ビッグ・シスター>最初はやたらとプログラムどおりな反応を示す<ビッグ・シスター>ですが、
そのうち感情を持ち始めるんですね。「2010年宇宙の旅」において最後に感情を発露したHALというコンピューターがいましたが。
感情を得た<ビッグ・シスター>もまた魅力的な人格です。


書名 日本ダービー十番勝負
出版 小学館文庫(1998/06)
分野 スポーツ・ノンフィクション

競馬雑誌に掲載された観戦記を10選び出し、ダービー後のその馬のたどった道を紹介する文章がそれぞれに付加されている。
観戦記は10篇それぞれ異なる著者が書いており、著者の競馬による接し方、感じ方も異なり、各編多様です。
そんな中で最も古いシンザンの章は、ライターに執筆を頼む習慣になっておらず、競馬協会の人物が執筆しているが。客観的かつ没個性にかかれたこの文章が、レースの分析という観点からみれば最も秀でた文章になっているのは面白い。


書名 ダーシェンカ
著者 カレルチャペック
監訳 伴田良輔
出版 新潮文庫(1998/10/01)
分野 童話

著者が飼っている犬から生まれた子犬の名前がダーシェンカ。そのダーシェンカが人にもらわれてゆくまでの、成長の記録を写真と御伽噺と絵をまじえて絵本にしたもの。
ダーシェンカはかわいいですね、著者が飼っている子犬の絵本を創った気持ちもなんとなくわかる。
そして、ダーシェンカはもらわれていったの一文で終わるんですが、チャペックも寂しかったろうな。
とりあえず。犬を飼う予定は全然ないので、この本で犬を飼ったつもりになっておこう。


書名 イギリス潜水艦隊の死闘
著者 ジョン・ウィンゲート
訳者 秋山信雄
出版 早川書房(1994/06/20)

第二次世界大戦において主にマルタ島を根拠地にして地中海で作戦行動を行ったイギリスの第10潜水戦隊の戦史。
実をいうと今読んだのは最後の30ページほどで、その30ページを残して既に2〜3年ぐらい前に読み終わっていたので、今読んだ本という感覚はほとんどないです。
30ページ残っていたのは、なんとなくであって、つまらなかったわけではありません。
イギリス潜水艦の戦史など他にないので読むこと全ては目新しい事ばかりでよくぞ翻訳出版してくましたと思います。
興味の有る方は読みましょう、というかもう読んでるでしょうね。


書名 時間衝突
原題 COLLISION WITH CHRONOS(1973)
著者 バリントン・ベイリー
訳者 大森望
出版 創元SF文庫(1989/12/22)

異星人の戦争行為のため人類は遺伝子的に壊滅状態に陥り、種々のサブタイプに分化して進化していた。
その中で自らを遺伝的に元の人類に近いと考えていた真人と名乗る白色人達は、遺伝的に異なる他の人種達に対して絶滅戦争をしかけていた。そのような状況の中タイムマシン(異星人の技術を複製したもの)による異星人のものと思われる遺跡の調査の結果、遺跡は過去にゆくに従って老朽化していることが判明した。
現代において調査している考古学者ヘシュケがつけた識別記号が300年過去の遺跡でも確認できたのだ。ヘシュケと物理学者アスカーは遺跡の未来へ向かった。

時間を自由に制御し、宇宙を旅する都市レトルト・シティは生産レトルトの住人と、娯楽レトルトの住人からなっており。それぞれ別の地区に住み交流することはなかった。不公平のないよう娯楽レトルトの親(B)の子(C)は生産レトルトの住人となり25年前の祖父(A)の元に送られる、(C)が約25年して孫(D)を為したときは、孫は祖父(B)の元へ送られ、Bは子供(C)を送り出したほぼ同じ時期に孫(D)を受け取り育てることになる。そういった社会システムの中娯楽レトルトの権力者甫梢は子の甫蘇夢を生産レトルトに送るに忍びず孫として育てるが発覚して冷凍される、甫蘇夢は生産レトルトに送られるが、娯楽レトルトでの生活を知ってしまった彼は生産レトルトの立場にとうてい我慢できない。

題名のとおり時間が衝突する奇想SFです。
奇想SFとしても、活劇SFとしても満足できる内容でした、分厚くないし、はっと気付けば読み終わっていました。


書名 日本潜水艦物語 −福井静夫著作集9−
著者 福井静夫
出版 光人社(1994/12/21)
分野 軍事

生涯を通じて日本の船を愛し、戦後は紹介を続けてきた著者の著作集の9巻、各所で執筆された記事を編集して掲載しているためまとまりがない感はあるし、日本の船が大好きな人だから、日本の船をかなり贔屓目に書いてあることは念頭に置かねばならないと思いますが、基礎知識として読んでおきたい本です。(これを基礎知識として必要な人はあまりいないでしょうが)
海大型が日本独自に設計された潜水艦の系統で、巡潜型が第一次世界大戦で戦利艦として得たドイツの大型潜水艦を元に設計されたもの、甲型、乙型、丙型がその両者より発展したものだと初めて知りました。こんなことも知らなかったんですよ自分って。


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