2001年4月の読書感想


書名 ノモンハンの空
著者 鈴木五郎
出版 光人社(1998/09/30)
分野 その他

飛行機に憧れる架空の登場人物である主人公を通してノモンハン事変の航空戦までの日本航空史が描かれる。
飛行機に憧れる主人公が夢をかなえてゆく物語となれば、面白そうだが、実際には、さほど面白くなかった、淡々と発生する物事が説明されてゆくだけで進んでゆくだけで、物語自体に夢中になれる取っ掛かりがなかった。
筆者の狙いは架空の人物を主人公に据え小説の形で、日本の初期の航空史を書きたかったのだと思うのだが、いっそのこと、小説の形をやめ、ノンフィクションとして書いてもらった方が良いと思った。
筆者は航空関係の研究家なのでそちらの方では博識なので、背景の説明はけっこう興味深かったので。


書名 ベルリン1945ーラスト・ブリッツ−
著者 梅本弘
出版 学研(2001/04/14)
分野 その他

マニアックに過ぎて、興味の無い者が読むと気絶してしまうとの評判の著者のかつて売れなかった小説の新書版落ち。
1945年のドイツの敗北間近、15歳の日本人少年トール・キタミュラー(北村透)は志願兵として同級生達と共に最前線に向かうことになる。
透少年が直面したのは死だった、それも自分ではなく、同級生達、先生、古兵、新兵、民間人、そしてソ連兵、みな次々と死んで行く。あまりの数の多さに神経が麻痺しそうになるほどだ。本当の主人公はこのあっけなく死んでいった人々だろう。
たぶん実際の1945年のドイツ本土の状況もこんな感じだったのだろうと思わせるほど、リアリティを感じさせる。それを支えるのは、1945年のベルリンを実感するために現代のベルリンまで足を運んだという著者の行動力と取材力だろう。
(注意、私は戦場を知らないので、ここでリアリティがあると書いていても、本当にリアリティがあるかどうかは不明です、あくまでも、戦争小説としてのリアリティがあるということです)。
戦車が好きな人は緻密な戦車の描写に感動することでしょう。
しかし、私の感動したのは次のくだりです。
「市民たちは、祈るような眼差しでかれらを見送った。抱いていた幼児を差し上げて見せる若い母親もいた。老人たちは跪き、胸で十字を切った。南下するドイツ軍戦車が、自分たちの脱出の時間を稼ぐための犠牲になることを知っているのだ。」
攻めてくるソ連軍より逃れ西側連合軍の占領地まで逃れようとする民間人のための時間稼ぎをするため最後の戦場に向かうドイツ兵たち。
戦争という行為は悲惨をとおり越して虚しさを感じさせる。
それは、この小説に出てくる人々の姿、あるいは避難民の死体が散乱する村を見た古兵の「戦争では、負けた奴は死ぬ・・・・・・。あの村で見たようにな・・・・・・、俺はロシアでもあんな村を見たよ・・・・・・」といったセリフから感じとれる。
しかしこの最後の局面で民間人を守るために、死地に赴く軍人たちの姿をみて感動してしまった。感動したと書くのにうしろめたさはある、この文章を読んで人間同士の殺し合いに感動するとは何事かと思う人もいるだろうと思うからだ。
しかし感動してしまったものは仕方ないだろう。
そして最後の「「どんな冬にも春は来る・・・・・・」そして、兵隊は、ただの人に戻った」というセリフで訪れた平和にホット一息つける、平和はいいなあと。
読書感想としては、ここら辺が区切りの良いところだろうが、ちょっと1945年の沖縄や満州のことを思いおこしてみた、沖縄や満州では数多くの日本人の民間人が犠牲になった。もちろん民間人を守るため行動した日本兵たちもいただろうが、例えば洞窟に逃れた民間人を追い出して、代わりに自分が洞窟に隠れた兵隊の話も伝え聞く。もちろん私にはその兵隊の行為を非難することはできない、誰だって自分の命は惜しいのだ。
立派に行動するのも人間、あさましく行動するのも人間だ。
読み終わった直後は感動していたのだが、少し間を置いてみると、この小説少し立派な人達ばかりだったかもしれないなとも感じる。
それでも現実の1945年の断末魔のドイツ本土でも(それに沖縄や満州でも)民間人を守るため戦い死んでいった兵隊たちも当然数多くいただろう、そういった人たちに声をかけておきたい、ありがとうと。



書名 月をめざした二人の科学者ーアポロとスプトーニクの軌跡
著者 的川泰宣
出版 中公新書(2000/12/20)
分野 ノンフィクション

「1969年の月着陸に至るまでの米ソの宇宙開発競争をその科学的指導者ウェルナー・フォン・ブラウンとセルゲーイ・パーヴロヴィッチ・コロリョフの伝記として描くノンフィクション。」
アメリカの月着陸というのは、ライバルのソ連があってこそ、ああいった形で結実したんだなあと思いました。
両者共先行するために暴挙をいとわず実行を重ねてゆくことが、成功への原動力となってゆく。
しかし、それが焦りに変わった時には何ももたらさなくなる。
コロリョフを失った後のソ連が、アメリカの月の人類到達を目前に控えて行った月への無人機往復の試みは、墜落という形でアメリカの月着陸チームの地震計に記録されます。諸行無情を感じてもの悲しかったです。
そういった暴走しがちな計画を抑えて見事に導いていったのが本書の2人の主人公です。ライバルあってこその宇宙開発と書きましたが、宇宙進出に夢を抱いてその目的に対して行動するこの2人がいなければ、歴史はやはり変わっていたでしょう。
彼らの人生は人類が月に至るプロセスそのものといってもよいかもしれません。
本書の主人公2人を失ってから現在に至るまで、宇宙開発は失速したかのような印象を受けます。経済的な理由によるのでしょうが、月への競争に破れたソ連が宇宙開発に情熱を失い、ライバルがいなくなったのが大きかったのではないかと、思えてなりません。

読み物形式で読みやすかったです、実質3時間で読み終えることができました。
SF小説もいいが、ノンフィクションもいいなあと痛感しました。
著者の他の著作も読んでみたいですよ、本当に。

一番印象に残ったエピソード
宇宙服を着た搭乗員を三人もヴォスホートに収容することなどまったく不可能だった。「それならば、宇宙服を外してしまえ!」その結果、宇宙飛行士は宇宙服を着用せずに搭乗した。脱出用の射出ハッチを三個も設けることも不可能であった。「それならば射出装置も降ろしてしまえ!危険きわまりないことに、打上げ直後も着陸寸前も、ヴォスホートの搭乗員には、緊急時の脱出手段がまったく用意されていなかったのである。」
いやです、こんな宇宙船乗りたくありません、よく搭乗したな。


書名 ビッグファイト、ビッグマネー
著者 ホセ・トーレス
訳者 山際淳司
出版 竹書房(1990/9)
分野 スポーツノンフィクション

ボクサー、マイク・タイソンの伝記。
著者は元ボクシング世界チャンピオンで、マイク・タイソンの才能を見つけ出したコーチ、カス・ダマトのコーチングを受けた者であり、カス・ダマトの元でのマイク・タイソンを最初から見てきた人物。
マイク・タイソンの伝記を書くのに最適の人物だろう。
面白かったのは前半、マイク・タイソンが王座に昇るまでだった。
後半はスキャンダル話ばかりでうんざりした。
この本の刊行後マイク・タイソンはKOされて王座から降りることになるのだが。
既にその前の試合からタイソンからは、全盛時の輝きは失われていたようである。
見る人にはちゃんと見えているんだなと感心した。

書名 宇宙の侵略者
著者 ジャック・ウィリアムスン
訳者 福島正実
出版 国土社(1995.11)
分野 SF

ジャック・ウィリアムスンの『ヒューマノイド』をジュブナイルとして抄訳したものだと思うのですが、原題の表記が無いのではっきりしない。
ヒューマノイドが量産され、平和と平穏がやってきた代わりにヒューマノイドに人間が管理されるようになった星があり、その星の住人がヒューマノイドが地球にやって来るぞと警告しに来た話。
抄訳のせいか、それで納得してよいのか君達はという終わり方だった。
抄訳でない『ヒューマノイド』を読んで納得できるかどうかですが、読んで確かめる気にはならない、それに持ってないし。
ジャック・ウィリアムスンは古い作家ではあってもSFに真摯な態度で取り組む姿勢が見うけられ好感を持っているのだが、この本に関してはだめだなあ。

書名 液体インベーダー
著者 R・M・ファーリイ
訳者 福島正実
出版 国土社(1995.11)
分野 SF

どんな生物でも溶かしてしまう液体がある場所の池に現われ、研究屋に持ちこまれた液体の一部を調査したら、それは知性を持っていたという話。
ジュブナイル用の抄訳だが、原題が書いてないのでオリジナルが何かはわからない。
液体の心境の変化が唐突で理解しがたいとか悪口書いてはいかんのだろうなあ。

読書感想目次に戻る 表紙に戻る