2001年1月の読書感想


書名 世界戦史 −歴史を動かした7つの戦い−
著者 有坂純
出版 学研M文庫
分野 歴史

「カイロネイアの戦い」新興マケドニア、全ギリシアの制覇
「イッソスの戦い」アレクサンドロス大帝国を出現させた一大決戦
「カンナエ殲滅戦」ハンニバルが演出した大包囲戦の金字塔
「アレシアの戦い」カエサル「ガリア戦記」最大にして最後の死闘
「匈奴遠征記」衛青、霍去病、長途漠北を征す
「漢中争奪戦」三国鼎立を生んだ劉備会心の戦い
「襄樊包囲戦」南宋の死命を制したフビライの大戦略
古代戦の7つの事例について、簡潔にわかりやすく書いてあります。
「歴史群像」に掲載された記事をまとめて本にしたものです。 また同一著者の書いた「タクティクス」掲載された記事にもほぼ同一内容のものがある事もあるので、この両者のどちらかを読んでいて、それがさして興味深くなかった方は、あらためて買う必要はないかもしれません。
私は両者でいくつかを拾い読みしていたのですが、一冊にまとまった本が欲しかったので買いました。
ここで扱っている戦闘が含まれる小説を読む前に、この本を予習として読んでおくのもいいのではないかと思います。
戦略、作戦、戦術面について当時の事情をふまえながら、書いてあるので、小説を読む際に別の視点からの認識を感じながら読むことができるのではないかと思います。
もしくは小説を読んだ後で、この本で軍事的な観点からみた歴史を確認する読み方もできると思います。
難をいわせてもらえば、参考文献が記述していないことで、こういった本には必須だと思うんですがねえ、興味を持って参考文献を読んでみようかと思う人もいると思いますし。
私の場合海外の言語の場合アウトですけどね。
いい本です。

書名 レイテ決戦
著者 樋口晴彦
出版 光人社
分野 軍事

この本は出版前は結構期待していたんです。こんな宣伝文句が雑誌に掲載されていたのでは期待するのは自分としては当然の流れなんですが。
「太平洋戦争の天王山−最後の日米決戦となった史上最大の海空戦を豊富な資料を駆使して分析する”日米激突”の全貌 なせ日本陸海軍は惨敗し、崩壊したのか。硬直した組織運営のために拙劣なミスを重ねていった状況を明らかにし、「指揮の失敗」を徹底研究。新視点で捉えた太平洋戦争」
これが宣伝文です。
結論としては別段新しい視点というものはこれっぽっちも見うけられませんでした。
巻末の参考文献をみれば予測できたんですが(参考文献がいけないというわけではなく一般的な基本図書ばかりなので新しい新事実などはあまり発見できないだろうという意味です、それに豊富な参考文献というのは過大広告だ)。
それでも読んでしまったのは、文章量が少ないので読み始めるための敷居が低かったとうまくまとめられているためでした。
戦記関係の本は読者層の厚い分野はそこそこ多数の本が出版されていて、読者が得られそうもない分野は全然出版されていないという偏りの激しい出版事情なんですが。
私が同じ事柄を扱った本を複数読むのも結局は「新しい新事実が見つからないか」と、そのためだけなんですが、(そうでなければ、こんな苦行やってられません)
この本に関してはただの苦行に終わってしまいました。
ただ、この本自体は読みやすいし、わかりやすく書いてあるので、「レイテ作戦」について概略を知るには良い本だと思います。
この本で予習してから、大岡昇平の『レイテ戦記』に進むのがいいのではないかとおもいます。
どちらか一冊をとれというなら、文句無しに『レイテ戦記』になりますけどね、内容面でも価格面でも。

書名 御先祖様はアトランティス人 −ユーモアと風刺あふれるアメリカSF−
著者 ヘンリー・カットナー
出版 ソノラマ文庫
分野 SF

短編5篇を収録
副題にユーモアと風刺あふれるアメリカSFとありますが、風刺のところは何を風刺しているのかさっぱりわかりませんでした。
今回は「地の底に棲む鬼」を除く4篇を読みましたが、全部ユーモアSFです、4篇ともユーモアSFとして楽しめましたから、及第点をあげられる短編集だと思いました。
夢中になったり、しみじみとした感慨を得られるわけではないですが、そういったのは、他の本を読んで得られればいいんですし。

「御先祖アトランティス人」
ご先祖様がアトランティス人だと、どうなるかと言うと、超能力が使えるようになるわけで、それに関するちょっとしたトラブルと、解決策。

「銀河世界の大ペテン師」
著者がラスト付近で「最低の知能の持ち主(注 科学的な-初歩的なものであるが-個所をすべて飛ばし読みにした読者を指す)にも当然もうわかったに違いないが」と、揶揄してくれます、そうならないように注意して読みましょう、私は笑われました。

「ジュークボックスのお告げ」
無一文で窮地に陥っている男が、予期せぬ幸運で成功して行くさまを読むのは、やっぱり楽しいし、もちろんそれだけでは終わりません。一応この短編集中では一番楽しめました。

「金星サバイバル」
どっさり宝物をつんだ宇宙船に乗って金星に行ってみれば、そこは文化が完全にうまく機能しているがゆえに、変化を拒絶する金星人が棲んでいた。そこは鉄本位制であるがゆえに、宇宙船に積んであった金を代表とする財宝は交易の役に立たず、金星人と出会ったに食料を気前良く振舞ってしまったために、今度は自分達が食糧難に陥ってしまった。
あの手この手を使って何とか金星人から食料を得ようとするが、変化を拒絶する金星人社会の制度の前に、次々と失敗してゆく。

変化を拒絶する金星人社会はキリンヤガ、というたとえは、ダメですね、書いたそばから自分でもダメだと思いました。(←なら書くな)。 安定した社会は停滞につながって、やがて衰退して行くのだろうとはおもいますが、食料を得るためにうまく機能している社会制度を壊される金星人の方は良い迷惑じゃないかと思ったりしたんですが、そういう読み方する話じゃないですね、とんち話を楽しめばいいのです。

「地の底に棲む鬼」
既読なので読まず

書名 ジェノサイダー −滅びの戦士たち−
著者 梶尾真治
出版 ソノラマ文庫
分野 SF

「有人火星探査船エターナル」が消息を絶ってしばらくして、乗組員の一人佐伯一朗の弟佐伯願は兄から呼び出しを受けた。約束の場所に赴いた願は腕の関節が多数になるなど変貌をとげた兄によって手の甲に何かを注入され、こう頼まれた「奴ら・・・・・・だ。人類を・・・・・・滅ぼそうとする・・・・・・奴らだ、奴らには目的は一つしかない。この地球に・・・・・・もたらすこと。奴らはジェノサイダーだ。完璧な滅びを・・・・・・」「願だけは対抗できる今注入した。徐々に・・・・・・効果が現れる」。
願は”メタモル”して地球に戻ってきたエターナルの乗り組み員たちを倒さねばならなくなったのだ、同じく”メタモル”が不完全だったマッテオ・スクーロより能力を授けられた少女アンジェリナと共に。標的はアンデルス・ワルケンティン、マッテオ・スクーロ、イヴォンヌ・ステーリン、ジョン・ブッファ、、アリス・ゴダート、ディヴェル・A・カウラードの6人」

標的が複数いて順に倒して行く構成などは、ヴァンスの魔王子シリーズ(読んでません)を連想させますが。あちらが一人一冊なのに対して、こちらは6人一冊なので、物語世界を把握しやすかった事もあいまって、夢中になって読み進むうち、はっと気づけば、読み終わってました。
敵役一人一人個性的な能力で攻撃してくるし、周囲の人間は容赦なく死んでゆくし、はらはらさせられます。まあ最後の敵に出会うまでは最後に勝つのは主人公だと、心の片隅では安心してましたけど・・・。一時は、ヒロインのアンジェリナまで、あっさり死ぬのかとヒヤリとしました、同時に、おお、ヒロインさえもあっさり殺してしまったら、それはそれで凄いぞと、少し期待してしまった自分が恐い。(←期待するな、そういう人は山田正紀を読んでなさい)
結局梶尾真治はそんな心配など些細なものとするドライな結末を用意して読者をもてなしてくれます。
これだけ楽しませてくれたら文句無しです。
問題は梶尾真治の執筆ペースよりこちらの読むペースの方が早いっていうことなんだよな。
もっと読みたいよ梶尾真治の本

書名 スターウィルス
著者 バリントン・ベイリー
出版 創元SF文庫
分野 SF

「急速に宇宙に進出を始めた人類と、はるか昔より宇宙に進出していたストリールの2種族しか星間種族のいない銀河系で、海賊ロドロン・チャンは通商情報の不正入手中、ストリールが追いかけている積荷がある事を知る。輸送中の宇宙船より積荷を奪取、追撃してきたストリール船−なんとそれは、主力艦だった−より逃れ(この追撃のかわし方が凄いのです、超光速で彗星を正面から突っ切るんですよ)、積荷を確かめてみると、それは様々な光景を見せてくれるレンズだった、後ほどストリールは20の恒星系からなる星団と交換を持ちかけてくるのだが、そこまでしてストリールが欲しがるこのレンズは一体何なのか?」

最初から最後まで、だれることなく凄く面白いです。「スターウィルスって何処に出てくるの?ってたまに考えるのですが、それも最後にわかります。これだけの話がたったこれだけのページに収まっているのが信じられないくらい、話の密度が高いです。
何しろ、レンズの謎への興味や、追い詰めてくるストリールの手管をからめ次々と展開が変ってゆくのですから。
ちょうどこの本の前に読んだ梶尾真治の『ジェノサイダー』と人類に対して同じ考え方をしているのが印象深かったです、登場人物に容赦がないのも共通なら、規模は違えどラストもある程度似ていると思います。

書名 20世紀SF2 1950年代「初めの終わり」
編者 中村融&山岸真
出版 河出書房新社
分野 SF

このアンソロジーシリーズですが、ラインナップを見てなんかぱっとしないなと思っていたんです。そりゃ名作ばかり並べれば良いアンソロジーが組めるかもしれないけど、既に翻訳があるものがほとんどで、私としてはもうちょっと初訳の作品を混ぜてほしいなと思っていました。
まあ名作中の名作は、ほとんど翻訳されているだろうけど、それに準ずる水準の作品はまだまだあるでしょうし、それがために多少アンソロジーの水準が落ちてもいいと思っていたんです。
全部未翻訳の作品にしろといってるんじゃないよ、もうちょっと増やして欲しかったといっているんです。
ゴードン・R・ディクスンの「ブラック・チャーリー」(SFマガジン1986/3月号)が翻訳された際に訳者の伊藤典夫氏は「こんないい話が今まで埋もれていたなんて」とコメントしているではないですか。
まだまだ埋もれた名作はあると思うのです。
贅沢な希望ですか?、贅沢ですよ私は、ただし受身ですが。
なにはともあれ、1巻の40年代は期待に背いて十分面白いけど、もうあと何かが欲しい感があったのに対し、この2巻50年代は名アンソロジーといってもいいと思います。(全巻そろっての評価は全部読んでから)
文句言っていたって、大半は初めて読む作品だし、何より内容が素晴らしい。
この本を読む前に読みかけだった、イーガンの『祈りの海』を読んで、だめだだめだ古いSFなんてだめだ、現代のSFこそが常に素晴らしいんだー。と思いかけていたところを、古かろうが新しかろうがいいSFはいいんだよといった従来の考え方に戻してくれたのもこの本だったですしね。

[初めの終わり」レイ・ブラッドベリ
強く心に残ることはないかもしれませんが、読むのが心地よかった一品。

「ひる」ロバート・シェクリイ
軍人さんへの風刺が入ったコメディSF?、いや執筆当時はそうじゃなかったかもしれないけど、今となっては、やっぱりコメディだよね・・・(ちょっと自信なし)
ひる自体より愚かな軍人さんの方が恐かった。

「父さんもどき」フィリップ・K・ディック
既読なので読まず。

「終わりの日」リチャード・マシスン
福島正実氏の書いたSF紹介本でさわりの部分だけは紹介されているのを読んでいたんですが、全部読んでの印象がなんと違うことよ、涙ぐんでしまった。
読む時期によっては号泣していたかもしれない、・・・いや号泣はしないな、でも静かに涙があふれ出てとまらなかったろうな。
これが読めただけで、このアンソロジーシリーズすべて駄作でも許す。
まあこの本だけでも他に名作は目白押しなんですけどね。

「なんでも箱」ゼナ・ヘンダースン
既読なので読まず。

「隣人」クリフォード・D・シマック
シマックに関してはどうしても甘くなるので・・・。好きですよこんな話。

「幻影の街」フレデリック・ポール
起承転結の次に転がきてまた転がきて、とどめに転がくる、さすがフレデリック・ポール。だからすきなんだよ。

「真夜中の祭壇」C・M・コーンブルース
既読なので読まず。

「証言」エリック・フランク・ラッセル
この人の作品は以前『宇宙のウィリーズ』のあまりのご都合主義に印象悪くしていたんですが、この本の作者紹介では、いろいろなレパートリを持つ作家だそうで、『宇宙のウィリーズ』とはまた別の面を見せてもらいました、おみそれしました。

「消失トリック」アルフレッド・ベスター
ここ数年読んだベスターの短編ははずれがない、これまた良いできの、短編でした。

「芸術作品」ジェイムズ・ブリッシュ
色々と複雑な読後感が得られる良い話、『宇宙播種計画』といい、この作家は追いかける価値があるなあ、一体何に掲載されていたのか調べてみたら、「奇想天外」誌かあ、このアンソロジーに収録されてなかったら読む機会は得られ得なかったなあ、うーん。

「燃える脳」コードウェイナー・スミス
たぶん読んでるはずなんだけどなあと、首をかしげつつも話に全然記憶がないので最後まで読んでしまった。読み終わって思ったのですが、たぶん前回読んだときもピンとこなかったので、記憶に残らなかったんじゃないかなあと推定しました。
ピンとこなくても、これが凄いSFだという事はわかるんです、なんかこう非人間的というか、えーっと、とにかく凄いですね。

[たとえ世界を失っても」シオドア・スタージョン
これは時が過ぎてユーモアSFになってしまったのか、それとも最初からユーモアSFだったのでしょうか?。
とりあえず、船長さんがかわいそうですね。

「サム・ホール」ポール・アンダースン
ごめんなさい、あまり深く印象に残りませんでした。
しかし、他の短編の品質を考えると私の読解力に問題があるんでしょう。

書名 幻獣の森
著者 トマス・バーネット・スワン
出版 ハヤカワ文庫FT
分野 ファンタジー

「ユニコーンの谷」でピンときて、『薔薇の荘園』で、「だめだ、オレはこんな話に弱いんだよー」と叫びたくなった(実際には叫びません)この作家の本も翻訳はあとこの本を含めて2冊にのみ、数冊出版されている作家の本はたいていの場合一冊くらいは読まずにとっておく習性のある私ですが、もう一冊の『ミノタウロスの森』は近いうちに読むことでしょう、仕方ないでしょう続き物なんだから。

出版されたのは『ミノタウスの森』『幻獣の森』ですが、物語の流れとしては『幻獣の森』『ミノタウスの森』の順になっているこの2冊、どちらから読もうと自由なんでしょうが、『幻獣の森』から読む人は作者後書きと、『ミノタウロスの森』の背表紙のあらすじは読んではいけません、ネタバレしてます、作者後書きについては『ミノタウロスの森』を読み終わるまで読んではいけないと思います。

読書感想が未だでしたね。「火の鳥はどこに」のロムルスが悪逆非道の人とみえて、彼もまた心優しき人物だったので。
『幻獣の森』の場合も又それぞれ優しき人々ながら、うまくゆかず、悲劇に至ってしまうんじゃないだろうかと思いつつ、王子様がいい人ながらも立場ゆえに我が道をいってしまったのは意外でした、その際色々苦悩をみせるわけでもなく・・・。
でもいい人なんだよな、この人も・・・たぶん。
寂しいんだか、悲しいんだか、まだまだこれからなんだかな、なんと表現したら良いのかわからない、ラストでした。
個人的には満足でしたが、人情話を読んだがゆえの満足だったような気がします。
ファンタジーをほとんど読まない私が言うのもなんですが、ファンタジ ーを読むがゆえの喜びはなかったと思う。
世界がね、薔薇の荘園収録の諸作を読んだときは幻想的な感覚があったんですが、『幻森の森』の世界は何か箱庭的っていうか作り物的な感じがしたのです(ファンタジーほとんど読まないので自信なし)

書名 破滅の日 −海外SF傑作選−
編者 福島正実
出版 講談社文庫
分野 SF

最近読んだ20世紀SF2 1950年代「初めの終わり」と2篇が重複しています、それゆえに読んでみました。

「太陽系最後の日」アーサー・C・クラーク
既読なので読まず。

「ロト」ウォード・ムーア
初めての作家かなと思ったらC・L・ムーアの事でした。
主人公が作中で受けるストレスを、読んでいるこちらも受けて、そんなやつらはXXしてしまえーと、考えていたら、最後に主人公は本当にそうしてしましました、だめです、思っていても実際にそんなことしたら。
まあ主人公はスッキリしたことでしょう、読んでるこちらは心配始めましたが。

「大当たりの年」ロバート・A・ハインライン
既読なので読まず

「終わりの日」リチャード・マティスン
最後の方だけ読んでみましたが、これは「20世紀SF2 1950年代「初めの終わり」」に掲載されている方の訳の方がだいぶいいなと私は思いました。
たぶんこちらの訳だとあれほどに感動しなかったろう
「20世紀SF」掲載の短編は既に読んでいるからといって、読まないのはもったいないらしいな。

「夏は終りぬ」アルフレッド・コッペル
人間の心の汚いところ、きれいだけど利己的なところなど全部出てきて、読後感はいいんだか、悪いんだか
太陽がおとなしくしていてくれる事を切に願います。

「ひる」ロバート・シェクリイ
これまた、最後だけ読んでみたんですが、最後の数字がこちらの本は何百万「20世紀SF」掲載の方は、何十億、・・・えらい違いなんですけど。

「豚の飼育と失敗について」レックス・ジャトコ
伝染病で人の数が減ると、人間の生殖も豚の飼育と同じとなってくる
まじめに書いてあるんですが、ユーモアSFとして書いた方がよかったんではと思いました。

書名 天の筏
著者 スティーヴン・バクスター
出版 ハヤカワ文庫SF
分野 SF

あらすじ書くのが難しいので省略。冒険心と好奇心の強い少年リースの冒険。
やがて、それが人類の前途を開くことになる

バクスターは小説が下手だと聞いていたので、今まで敬遠していたのですが、何だ面白いじゃないかっていう気分です。
私自身は文学にはうといので、文学的にみればどうかはわからないのですが、これだけ物語が波乱万丈なら文句無しです。
物語の締めにさしかかる部分でのリース君たちの選択には、不快感を感じる人がいるかもしれないと思いましたが、私としては大賛成。(私自身は残される方になるんじゃないかとおもいますが、)リース君達の前途に祝福を送りたいと思います。
さて次は『タイムシップ』へゆくか、『ジーリー』シリーズに進むか。どうしようかな

書名 まっぷたつの子爵
著者 イタロ・カルヴィーノ
出版 晶文社
分野 幻想文学

「メダルド子爵は戦争でまっぷたつになって、半身のみになって故郷に帰ってきた、しかし彼の心根はすっかり邪悪になっていたのだ」

まず、解説は先に読まない方がいいと思います。
私はまた先に読んで失敗しました。
解説読むのが好きだから、同じ失敗を何度も繰り返すんだよな。
その解説に書いてあったのが「おもしろさの背景に塗りこめた暗い影」なんですが。
この作者に深い影響を与えているのが、第二次世界大戦がイタリアに与えた深い傷跡らしいのですが、今回はさほど強く感じませんでした、『魔法の庭』では直接描写されているので、ひしひしとそれを感じましたが、間接的な表現だと感じないあたり鈍感だな私は
面白くありますが、『魔法の庭』で感じたような文章を読む楽しみといった感覚はありませんでした。
寓話だそうなので、この物語の裏に隠された意味合いを感じ取れる人向けなんでしょう。
私は、直接表現してくれる方が気苦労がなくていいな。

書名 死守命令
著者 田中稔
出版 光人社NF文庫
分野 軍事

前線で苦労なさった方も回想記を面白いと表現するのもなんですが。
小隊〜中隊規模の指揮官の回想なので、日本歩兵の戦術レベルでの戦闘方法が興味深かったです。
考えてみれば、小隊規模の指揮官の回想記を読むのは初めてだった。
回想記に関しては、存在する事だけでも価値がありますし、書いてある事もいちいちごもっともでした。
思わぬ拾い物をした気分です。

書名 ラグビー・クライシス
著者 日本ラグビー狂会
出版 双葉社
分野 スポーツ・ノンフィクション

ラグビーの本を読む人にはお馴染みじゃないかと思う「ラグビー狂会」の本の最新刊
今回は題名どおり危機的状況にある日本ラグビー界についての内容です。
どんな危機的状況にあるかといえば、まず日本代表が世界で通用しないがゆえの国内での人気低迷、不況をきっかけとした、社会人ラグビー部の廃止にともなう衰退、少子化とスポーツの多様化に伴うプレイヤー数の減少、そしてそれに危機感をもたずに安穏としているようにみえる日本ラグビー協会を批判している。
この著者グループの従来の本では、批判はもちろんのこと、日本ラグビーを強くするための提案が、すいぶん書かれていたと記憶しているのだが、今回は提案面がやや弱い気がする。それだけラグビー界が危機的状況にあるのだと感じる。
複数の人から出てきていた意見としては、公式戦の数が足りなすぎる件があった。
これぐらいは、なんとかならないのかなと思ったのですが、私はただのTV観戦者にすぎないので、無責任なことは何も言えないですね。
この本を読んで嬉しかった事もありました。一つは大学生代表チームの河瀬泰治監督の事、私は誰か一人好きなラグビー選手をあげろと言われたら、迷うことなく、河瀬泰治の名前をあげるので、監督としての活躍を聞くのは、素直に嬉しいです。このままキャリアを積んで、いずれは日本代表の監督として活躍するのを願いつつ、これからも、応援しつづけることでしょう。
もう一つは、吉田義人選手の消息です、元気にプレーし続けていらっしゃることが、わかって、ほっと一安心しました、もうベテラン選手ですが、悔いの残らない選手生活を送られるよう、お祈りします。
そしてもう一度活躍する姿がTVで見られますように(私はTV観戦オンリーなので)。
河瀬監督や吉田選手のことなどは、まめにラグビーを追っていれば、常識なんでしょうが私は熱心なラグビーファンではないので、全然知らなかったですよ。

書名 日本海軍に捧ぐ
著者 阿川弘之
出版 PHP文庫(2001/01/19)
分野 軍事など

「私記キスカ撤退」「水蟲軍艦」などエッセイを中心に17篇が収録されている。
大半は昭和40年代に執筆されたものです。
読むつもりはなかったのだが、拾い読みしてみた「水蟲軍艦」がとても楽しかったのでつられるように、全部読んでしまった。
「水蟲軍艦」水蟲と揶揄するように呼ばれていた男が、著者の元へやってきて、軍艦の写真集を作りたいから協力してくれと言った。何でも豪華版の軍艦の写真集を作ればきっと売れるはずだからそれを作りたいのだそうだ。
この男がどれほど軍艦を知っているのかと試してみると、大和、武蔵の名前は知っていても3号艦は知らなかった。
こういった仕事には、第一に軍艦に対する愛情が必要で、これではダメだとがっかりしながら、福井静夫という男がいるんだがね、と水を向けてみるとその名さえも知らないという、ぜひ紹介してくれと、くらいついてくるので、紹介してみたが、その後水蟲はやはり断られたと帰ってきた。
しかし水蟲はかえって軍艦写真集づくりに情熱を燃やしはじめた。

多分実話で水蟲の出版社も軍艦が好きな人ならわかるだろう。
この出版社と福井さんのつながりが、ここでできたんだなと思うと共に、水蟲の一途な実行力に関心した。
出版の話なので、軍事関係の話に興味のない人でも楽しく読めるだろうと思う
「私記キスカ撤退」は駆逐艦島風がまず北方に配備された理由が、島風の装備する新型のレーダーがキスカ撤退作戦で必要とされたためだという件が目を引いた。
なぜかというと、最近見つけた軍事関係の書評HPでこの件にふれた文章をみて、よく調べているなと関心していたためで、実はこの「私記キスカ撤退」は再読なので、注意深く読んでいれば、この件に関しても知識として持っていてもおかしくなかったんだな、と思ったからです。
それでこの「私記キスカ撤退」を注意深く再読したかといえば、またしても流し読みしてしまいました。(←ダメだろ)どうも、ここ数年注意力散漫で困っているんだよな。

書名 仰天・平成元年のカラテチョップ
著者 夢枕獏
出版 集英社文庫(1996/10/25)
分野 その他

冷凍睡眠で眠っていた力道山が前田日明と試合するというプロレス小説。
最近夢枕獏の本で読みたい本ができたので、探していたら、替わりにこれが見つかったので、感動的だという風のうわさのもとに読んでみた。
平成元年の時点でのアントニオ・猪木とジャイアント馬場が試合するんですが。その中にこんな文章がありました。
「寛ちゃん、きみは真剣のプロレスをやろうとしてるんだな。受けて、受けて受けまくって、しかもその後に−。”寛ちゃんは、おれに勝つ気でいる"」「ようし、寛ちゃん、受けてみろ、おれの技を。さあ、起きあがってこい寛ちゃん。それだけでくたばってもらっちゃ困る。まだ、おれは、あれを出してないんだからな。」
たぶんプロレスファンの人はこの文章で胸の奥から湧き上がるような感動を得るんだろうなと、プロレスファンでない私は想像します。
だってこの文章はプロレスの心を表しているようなものじゃないですか。
確かに感動的だったのですが、物足りなさを感じたのも事実で、(たぶん私がプロレスファンではないがゆえだと思います)それがなぜかというと、試合場面が抽象的で、何か読んでいて燃え上がるものがなかったからです。
プロレスを小説にするのは難しいのかなあ。まあ、燃えたきゃ「プロレス」の試合を見ろといった、正論もあるんでしょうが、プロレス小説にはプロレス小説なりの良さが持てるはずだと思うのです。
素晴らしい題材を得ているだけに、惜しいなあと感じます
あとこの猪木、馬場戦ですが、馬場がこんなに強いわけないだろっていうのは置いといてこんな決着がつくはずは絶対にないですね、あの非常識の塊のような(だからこそカリスマを持つ)アントニオ猪木というレスラーが馬場をぼこぼこにする機会を逃すわけがないじゃないか。
それから、この小説は猪木・馬場戦のほかに、力道山・前田がおまけについてます。

書名 最悪の戦場 独立小隊奮戦す −沈黙五十年、平成日本への遺書−
著者 緩詰修二
出版 光人社NF文庫(1999/11/15,単行本1993/5)
分野 軍事

1944年のビルマ方面に従軍した著者による著作、機動砲小隊の指揮官を中心として機動砲小隊の戦いを描写している。
他の回想記と異なり三人称で記述してあるので、著者がどの人物にあたるのかよくわからない、多分この小隊に所属していたのだとは思うのですが・・・。
著者が所属するのは53師団、最近読んだ『死守命令』の著者は18師団で戦った戦区は隣接していて、執筆対象となる期間もほぼ同じなので、えーとこの場合なんと表現したらいいのかな、親近感がわくというのも違うし、興味深いといえばいいのか。
機動砲小隊といいながら、牽引車で移動するのはまれで、大隊人力で移動させてます。
最初のうちなどは、機動砲を後方に残置して、輜重兵、歩兵として便利屋的に使われています。
機動砲の事を分解してかついで運べない異端児的な表現がしてあったのは印象深かったです。
後半になって対戦車戦闘になり、百発百中状態で(実際には違うのでしょうが、そう観察されたのでしょうね)、ガコンガコン跳ね返されています。
そんななかまれに有効弾があるのですが、歩兵連隊の中で対戦車砲がこれだけでは、いかんともしようがありません。
はなから勝負にならないというか、やってられませんといいますか。
「 『死守命令』とこの本を読んで感じたのは、もしかすると日本の歩兵はものすごく優秀ではないかということですが、持たされる兵器が問題外では、どうしようもなくて、大変歯がゆいです。
あと『ビルマ 遠い戦場』を読んで以来、ずっと感じているのが、迫撃砲の有効性で、重擲弾筒でなく、迫撃砲を持たされていたなら、もっと何とかなったのではないかと思わされました。

書名 祈りの海
著者 グレッグ・イーガン
編訳者 山岸真
出版 ハヤカワ文庫SF(2000/12/31)
分野 SF

現代SFの凄さを身にしみて味あわせてもらいました。基本的には再読はほとんどしないのですが、今回は全部読もうとする気構えで挑んでみました。
再読でも楽しめるのはたいしたものだとおもいます。

「貸金庫」
私はこの短編でグレッグ・イーガンの名前を覚えたんですが、名前を覚えるだけのインパクトのある作品だと思います、バズビィの「ここがウィトネカならきみはジュディ」みたいな始まり方をしますが、アイデアもストーリーも全然違う方向に向かいます。
前向きな姿勢でエンディングを迎えますが、その姿勢が今後に不安感を感じさせます。

「キューティ」
これも強烈な読後感を与えてくれます、残酷な話だなあ。

「ぼくになることを」
読んでいてぞわっなるといいますか、SF読んでいると何度かこれに似た主題(意識とは何か)の話に出会いますが、やっぱりこういった短編にはいくつものバリエーションでもって出会いたいものです、「ぼくになることを」はその中でも特級の出来映えの作品ですね。
あと生きている脳は30代にさしかかるまでに衰退をはじめるので代替して機会にとかいう話なので、今回は読んでいて複雑な心境(というか愕然に近いかも)でした。最近集中力の衰退が深刻なので、老化したなと、初めて読んだ5年前はこんなこと考えもしなかったなあ。

「繭」
どんな話だったっけ?。読んだそばから忘れてゆく自分の記憶力がなさくなくなると共に、もう忘れているような話なら、私にとってはどうでもいい短編だったんでしょう。
(本当か?、それにしても記憶力なさすぎ)

「百光年ダイアリー」
未来の情報が得られる話、詳細は実際に読んでもらうとして、読みながら比べていたのがデーモン・ナイトの「むかしをいまに」でこれは現象が逆行する世界の様子を逆に描写するだけの短編なんですが、けっこう楽しませてもらったんです、ですが「むかしをいまに」が何の説明もなしにそういった世界が存在するとしているところを「百光年ダイアリー」は納得いくようないかないような、良くわからないけれど、何か凄い説明で話が進んでゆくので、「むかしをいまに」のアラが見えてきたというか、「ダメダ!古いSFはダメ、新しいSFじゃないとダメなのよ」とそんな気分にさせられました、「20世紀SF」の2巻を読んですぐに直りましたけど。
読んでいる時は「むかしをいまに」を連想していたけれど、今になってみるとむしろ堀晃の猫の話や、谷甲州の『終わりなき索敵』を連想すべきでしたね、未来の情報というなら。
ホーガンの『未来からのホットライン』もそうか。

「誘拐」
この短編、主人公のとる行動が何か納得 できないんだよな、それゆえに何かもやもやした気分が残る。

「放浪者の軌道」
どうもこの短編は苦手で、途中で放り出してしまった。
一回読んであるので無理して読まなくてもいいや

「ミトコンドリア・イヴ」
全部読むとする気構えも はや崩壊し、読まず、かなり詳細に覚えているので読まなかったということもある。
記憶に残るほどの話だとはいえるかも。

「無限の暗殺者」
私の読書感想文を読んでくださった方は気付くとは思いますが、私は自然科学関係のノンフィクションをほとんど読みません。
そんなんでSF読めるのかといわれると、読めるわけないわけで、わかったような気になっているだけなんですが、まあ、必要最低限の知識はSFマガジンを読むことから得ています。
そんなわけでこれは最後の所がどうしてこうなったのかさっぱり理解できませんでした、理解できなくともお話自体は楽しめますし、どんな話かもわかりはしますが、少しは勉強しないと、SFを存分に楽しめなくて損だといった気にはなりますが・・・。
しかし、私は苦行(軍事関係の本を読むこと)をしなければならないんだ、自然科学のノンフィクションを読んでいるひまはないぞ。

「イェユーカ」
わかりやすい話で、面白くはありますが、これだったら、他の作家でも書けるんじゃないか、(私自身は)好きじゃなくとも「放浪者の軌道」みたいな話をもっと書いて欲しいぞと思うのは贅沢でしょうか。
いやこんな事書いてはいけない。こんな感触の違う話も読める事を喜ぶべきなんだ。
悪口書いたようですが、良くできたいい話です、本当に。

「祈りの海」
この良さを何と表現すればいいのか、自分の表現力のつたなさよ。
主人公の気持ちを私が本当に理解するには、同じ目に遭ってみないとわからないだろうなあ。

書名 証言・真珠湾攻撃 −私は歴史的瞬間をこの眼で見た!−
出版 光人社NF文庫(1999/11/15,単行本1991/12)
分野 軍事

雑誌丸に掲載された記事の中で、太平洋戦争の開戦に関係ある記事をまとめたもの
基本的には個人の回想記ばかりなので、貴重なものであることは言うまでもない。

書名 あいどる
原題 IDORU(1996) 著者 ウィリアム・ギブスン 訳者 浅倉久志
出版 角川文庫(2000/05/25,単行本1997)
分野 SF

今回は日本が舞台なので、日本人が山のように出てきます、私のHPの海外SFに登場する日本人用のネタ探しのために読んだのは、言うまでもありません
実は退屈していたんです、途中までは・・・。
でも後半面白くなりました。
ギブスンの書いた本だなあと思いました。そんな匂いがそこかしこから感じられたのです。
ですが「ニューロマンサー」読んだときみたいに後半退屈で放り出したくなるといったことはありませんでした。


書名 ラグビー特別便
著者 藤島大
出版 スキージャーナル(1996/12/30)
分野 スポーツ・ノンフィクション

著者が執筆したいろいろなラグビー記事をまとめたもの。
発行が数年前だけに、扱っている記事もある程度古いんですが。
承知のうえで読んだので問題なしです。
著者のようなラグビーを見る眼を持つ人がうらやましく思いましたが。
ラグビー眼を高める努力をしていない私がそんなこと言う権利はないですね。
とにかくこの本を読んで、猛烈にラグビーが見たくなったのでした。


書名 子供たちの午後
原題 Among The Hainky Earthman 著者 R・A・ラファティ
訳者 井上央
出版 青心社(1982/02/10)
分野 SF

「アダムは三人の兄弟がいた」
「氷河来たる」
「究極の被造物」
「パニの星」
「子供たちの午後」
「トライ・トゥ・リメンバー」
「プディ・ブンディアの礼儀正しい人々」
「マクグルダーの奇蹟」
「この世で一番忌まわしい世界」
「奪われし者にこの地を返さん」
「彼岸の影」
短編集、一冊の本をトータルしてみると、いつものラファティスタンダードといった感じでした。
長めでかつわかりやすい傾向はあるかもしれません。
「氷河来たる」「パニの星」や「マクグルダーの奇蹟」がとりわけ良かったかな、感想は書きにくいのでこれで終わります。
感想書いてないからといって、つまらなかったんだろうと誤解なさらぬようにお願いします。
あと解説でラファティの全長編の紹介がしてあったのは、よかったです、ラファティの長編を読む機会なぞ、ほとんどなさそうなので。


書名 星々の轟き
著者 エドモンド・ハミルトン
編訳者 安田均
出版 青心社(1982/07/20)
分野 SF

私の感性にしっくりくる短編集だった。いい本だ、いい本だと10回ぐらい叫びたい。
こういった本を読み終わったあとは、心地が良い。
同一著者の短編集『フェッセンデンの宇宙』も読みたくなったんですが、こちらは図書館に置いてないんだよな。

「進化した男」
「進化の秘密をつきとめた科学者が自らを実験台にする、どれだけ進化しても変わらなかったのは好奇心だった。」
オチは別にありますが、書くわけにはいきませんし、もっとも強く感じたのはここのところだったので。

「星々の轟き」
「生存に適さなくなった太陽系から人類が脱出する、どうやって脱出するかといえば、太陽系のすべての惑星と衛星を動かして、他の太陽系へ移るというもの。」
物凄く豪快な話で、「銀河大戦」を思い浮かべていたのですが、巻末の解説でも同様のことが書かれていました。

「呪われた銀河」
「落下してきた隕石を探しにいって見つけたのは隕石ではなく人造物らしき物体だった。」
アンソロジーの『冷たい方程式』にこんな感じの話が入っている、ハミルトンにもまた同じようなオチの有名な短編があるのだが、こちらの方が好きかな。
キーワードは「エネルギー生物」「生命」「病気」です。
ただし私としてのキーワードは「進化した男」にも現れた「好奇心」です。

「漂流者」
「作家のポーと彼の作品を背景に執筆された短編」 一回読んで、どうって事ない、つまらない話だと思ったんですが、図書館に返しに行く前にもう一度読んでおこうと、読み返したら、とても良い感じの話だった
短い話だが、じっくり読むべき短編。

「異星からの種」
「とある丘に隕石が落下し、そこから一組の男女の形をした植物が生えてきた。」
姿だけでなく、やたらと人間的な反応を示す植物ですが、まあいいではないですか、私は好きですよ、こんな話。

「レクイエム」
「地球ははるか過去に居住に適さなくなって、人類は銀河に散らばっていた、そしていよいよ地球が太陽に呑み込まれようとする時、それをショウとして報道するため一隻の宇宙船が地球に戻ってきた」
題名のとおり感傷的ないい話、いい話だ、いい話だ、じーんとくる。

「異境の大地」
「インドシナのジャングルでハナチ憑きと呼ばれる死体を見つけた、しかしそれは死体ではなく新陳代謝を極端に遅くした人間だった」
これは凄いです、新陳代謝の遅くなった人間から見た植物、つまり相対的にみてダイナミックに動く植物の描写が圧巻です。
これと「レクイエム」がこの短編集の私のベストです。

「プロ」
「数々のスペースオペラにて宇宙船を飛ばしてきたSF作家の息子が最初の月ロケットで飛び立つとき」
これだけは読むことができていた。のですが今の今までチャンドラーが書いていたものばかりと勘違いしていました。
子供を心配する親として、本当のプロが誰かを実感させられた人として、複雑に揺れ動くSF作家(ハミルトン自身が投影されているんでしょうね)の心の動きが、じわーっとくる。これもよい話です。


書名 堕ちた天使
原題 The Warhound and the World's Pain
著者 マイクル・ムアコック
出版 集英社
分野 SF

良いテンポで最後まで読み進めることができた、キリスト教についていろいろ知っていれば深読みできるんでしょうが、何の知識も持ち合わせてないので、単なる娯楽SFとして読んだ。何しろ、ルシファー、サタン、デモンがどう違うのかさえ知らないのです。
エルリックシリーズのラストは聞きかじっているし、『白銀の聖域』のラストもああなので、さぞかしひねくれたエンディングを迎えるんだろうと思っていたら、思いのほか真っ直ぐなエンディングで、素直によかったなと思えた。・・・
ルシファーも目的のためには手段を選ばぬ人間に任務を実行させたら良いのではと思っていたのだが、それではだめなのだと最後の方で説明されていた。
今にして思うと任務の遂行に立ちはだかった男が「目的のためには手段を選ばぬ男」だった。
でも、こいつもどこか情けないんだよな。


書名 死亡した宇宙飛行士
原題 LOW-FLYING AIRCRAFT(1976)
著者 J・G・バラード
訳者 野口幸夫
出版 NW−SF社(1982/05/31)
分野 SF

「最終都市」
「低空飛行機」
「死亡した宇宙飛行士」
「ウェーク島に飛ぶわが夢」
「神と生と死」
「地上最大のTVショー」
「死ぬべき時と場所」
「通信衛星の天使たち」
「浜辺の惨劇」

難しいことが書いてあるわけではないのですが、これに書いてある事柄を面白いと思う感性を私が持っていないらしくて、どうもバラード読み失格でしょうか、情けない。
頭では良いなと思っているところはたくさんありましたが感情がついてこなかったのです。
それでも良いなと感じた短編はいくつかありまして。
「地上最大のTVショー」は面白かったです、「タイムトラベルが実現したがそれを実行するには滞在時間1分当たり100万ドルの費用がかかるため、それを継続して実行できるのは過去でのTV会社だけだった」という話。
ですが、解説で各短編毎に簡単な解題がついているのですが、これにはついてないという、つまり解題いらずの単純な話しかその良さが理解できなかったってことか?。
化石燃料が尽きたがゆえに、捨てられた都市で遊ぶ「最終都市」の様相もいいです、すぐにまた捨てなければならないとわかっているだろうに、それをおくびにも出さずに復活を目指す人々に姿は、お祭りにたとえられるでしょうか。
かつての友人であり、妻にとっての恋人で、今は事故で死亡し衛星軌道上を回る宇宙飛行士が地上に落下してくるのを迎えにゆく「死亡した宇宙飛行士」のさびれたケープカナベラルの様子やそれぞれの心のうちなども、恐い(心の内が)ながらもいいですね。
「浜辺の惨劇」もなかなか面白い趣向でありました。が面倒なので注意深く読まなかった(←だめだろ)
「ウェーク島に飛ぶわが夢」は面白いと感じた短編の内には入らないのですが、砂漠と捨てられた重爆で思い浮かべるのが、1958年にサハラ砂漠で発見されたB24の話で、事実は小説より奇なりですねえ、こちらの方が幻想的なのは皮肉です(第二次大戦航空史話 上巻 秦郁彦著 収録のサハラに消えたB24−善良な淑女号の悲劇−参照)。

書名 拠点
原題 The Rull
著者 A・E・ヴァン・ヴォークト
出版 ハヤカワSFシリーズ
分野  SF

短編集、感想を書く前に図書館に返してしまったので、各編の名前とか訳者名とかわからなくなってしまった。
ヒロイックファンタジーをSFとみなさなければ、最初に読んだSFがこの人の『宇宙船ビーグル号の冒険』でこれが物凄く面白かったにもかかわらず、次に読んだ『非Aの世界』がわけがわからず、なんとなく苦手意識を持ってしまい、この本も恐々と読み始めたのですが、『宇宙船ビーグル号の冒険』タイプの怪物物が多くて読みやすかった。
火星の遺跡でサバイバルを図る短編のラストシーンは衝撃的だった。


書名 世にも奇妙な物語 B
著者 大場惑
出版 太田出版(1992/5/22)
分野  SF

テレビドラマ「世にも奇妙な物語」のノベライズです、本を読むよりテレビを見る方が楽だとは思うのですが、私はこの放送をほとんど見ていないので読んでみました。
「あの人に伝えて」と「替えっ子」については、展開に意外性がなくはずれかなーと思いつつ読んでいたのですが「ダメだ!」は当たりでした、「ある晩流星が流れるのをきっかけに、人々は回文しか話せなくなっていた(トリフィドのパロディですね)」。
客「酒さ」、店員「燗か」とか苦心惨憺コミュニケーションを続けてゆく様子が面白いです。
もう一度流星が流れるんですが、これでどうなるかは、読んでのお楽しみにしておきます、今度は・・・。
「困った爺」もなかなかよかったですね。種が明かされてみれば、梶尾真治のある有名な短編と同じ題材を扱っていると気付かされるのですが、「困った爺」の方もそれにもかかわらず、ネタが割れる直前まで、気付かなかったので私としてはOKですね。
それに、同じ題材を扱っているにもかかわらずなんと違う小説になっていることよ。

状況を把握しながら読む必要がなかったので、読みやすく、短時間で読み終えることができました、でもやっぱりTV放送を見たほうが楽なんだろうなあ。

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