1999年11月の読書感想


書名 言葉使い師
著者 神林長平
出版 ハヤカワ文庫JA
分野 SF

SFマガジン掲載の短編6編が収録されている。
うち美食に関してはSFマガジンで読んでいたので今回は読まなかった。
「スフィンクス マシン」
絵を描けなくなった画家が再起するため、火星に旅をしてスフィンクス マシンと会話する話。
「愛娘」
宇宙空間で主人公の妻が突然老化を始めた。
一瞬ダンシモンズのハイペリオン[学者の物語]を連想する場面があったが。違った。
神林長平の想像力はそれを上回った。
「美食」
「イルカの森」
ハンターを案内するブッシュパイロットが飛行中見知らぬ地域に迷い込んだ。
その世界に生息する人間は生理的な知識以外の記憶を一日とたたずして忘却してしまう様になっていた。
そして、知的生命の代表としてイルカらしき生物がいた。
「言葉使い師」
言葉を使うことがタブーで、テレパシーで意志の疎通を図る世界で、主人公は文章を操る言葉使い師に出会い。
トラブルに巻き込まれる。
「甘やかな月の錆」
人類が不老不死を手に入れた世界では、毎年一回一年分の記憶を消去して、自分の望む新たな一年分の人生を送る様になっていた。
小学4年生の主人公は不老不死を放棄した男から、不老不死をやめるスプレーをそれと知らずにもらい。
そのため、新たな一年に入った時に前年度のやさしかった母の記憶が残ってしまった。

この話が一番面白かった。この話は自分の好む話の黄金パターン(主人公は世界の事を何も知らず、行動しているうちにその世界のことが徐々にわかってくる 例 『果てしなき河よ我を誘え』、『エンジン・サマー』、「バースディ」)にはまっているのだから自分としては当然な感想だと思う。

同じ作家の帝王の殻と平行して読んだのだが、この作家の書く文章は非常に会話シーンが多いと言うことだった。
多いと言うより会話で物語が進んでいくと言ってもよいほどだ。
会話ばかりではつまらない物語になる様な気がするのだが。
そうではない、ぐいぐい物語に引き込まれていく。神林長平の物語る力の凄さだと思うのだが。
それだけではないようだ。やはり普通の人では考えもつかない世界を創り出し、それを読者に提示してくる力だ。

書名 帝王の殻
著者 神林長平
出版 ハヤカワ文庫SF
分野 SF

火星の人類社会では個人の副脳としてPABを所有する様になっていた。
PABと会話する事によってPABは所有者の人格に近いものを得てゆく。

言葉にこだわりを持つ神林長平らしい作品。
正直な所最初は面白かったわけではなかった。
いや、面白かったんだけど、何が面白いと感じさせているのか、わからなかったのです。
でも後半からエンターティメント系の要素が混じった話になっていってから、一気に読んでしまった。
心に残る作品というわけでもないけど。次の神林作品を読もうとさせる力はある。
それと神林長平に影響を与えたとされるディックも何か読んでみようかな。

書名 時間蝕
著者 神林長平
出版 ハヤカワ文庫JA
分野 SF

「渇眠」、「ここにいるよ」、など6編を集めた短編集。
何と全て初読、言葉使い師といい、意外と神林長平を読んでなかったのに気づく。


書名 七胴落とし
著者 神林長平
出版 ハヤカワ文庫JA
分野 SF

この世界では子供のうちは、言葉より確固たるコミュニケーション手段として感応力(テレパシーらしき力)を持つ、大人は子供が感応力を持つ事を無視して、生活し、主人公は友人が突然感応力を失い、大人になってしまい、コミュニケーションをとれなくなってしまった事に、自分はああなりたくないと感じると共に、もうすぐ確実に自分も感応力を失うことに、いらだちを覚える。

あまり主人公に感情移入できなかったのは、自分がもう年寄りだからだろうか。
大人が感応力を失ってしまったがために、若者の感応力を無視する事も、奇異に感じる(無視できないでしょう←と感想を持つ事自体が年寄りなんだ)。
とは言え楽しんで読めた作品ではあった。

書名 敵は海賊 海賊版
著者 神林長平
出版 ハヤカワ文庫JA
分野 SF

敵は海賊シリーズ最初の長編を現在刊行されている中では一番最後に読む事になってしまった。
副題の海賊版でつまらなそうな印象をもってしまって、今まで敬遠していた。
エンターティメント色の強いシリーズだけに、楽しんで読めた。
平行世界物だから、海賊版だったんですね。

書名 戦空の魂 11巻
著者 天沼俊
出版 集英社
分野 マンガ

捕獲したB17を内地に空輸する話、月光で電波高度計を使用してブラックウイドウを撃墜する話、強風搭乗員が領空侵犯するソ連機の女性パイロットに恋する話、沖縄に出撃する戦艦大和搭載の観測機が内地に帰されるが、結局特攻出撃させられる話。が掲載されている。
話としてはうそ臭いというより、無茶苦茶なこのシリーズ、新刊が出るたびすかさず買っているのは1巻が面白かったからだろう。
はっきり言って、このシリーズはつまらなくなっている。
1巻を読んだ時は読みながら涙を流した話が3話あった。
それはなぜかと考えてみるに、人の死に悲しんだのでは無いような気がする。
戦争マンガだけにこの巻でも主人公2人が命を落としている。
多分1巻では死んでいった者ではなく、残された者の気持ちになって泣いたのだろう。
幼なじみの友人の死を目前で見送らなければならなかった男、彼は老いて模型作りの得意だった友人を思いだしつつ、孫と模型飛行機で遊ぶ。
村落に墜落するB29を排除するため体当たりした男。
その恋人は村落に建てられた碑を守り続ける。
そして、生まれた子を見ぬまま死んでいった男、戦後子供が墜落した機体を訪ねた時、その機体には、「まだ見ぬ子へ」で始まるメッセージが残されていた。
1巻にはこの様に残された者のその後の人生が描かれていたのに対し、11巻では死んでしまって、それで話が途切れてしまっている。

書名 米機動艦隊を奇襲せよ! 潜水空母「伊401」艦長の手記
著者 南部伸清
出版 二見書房
分野 軍事

開戦時には伊17の先任将校、その後伊174艦長として南東方面、中部太平洋方面に作戦し、伊362艦長としてナウルへの輸送作戦、伊401艦長としてウルシー攻撃作戦の途上で終戦を迎えた歴戦の潜水艦長の手記。
戦後50年以上経過してからこの様に新たな手記が発表されるのはありがたいことだ。
日本軍潜水艦艦長の手記を読むのは、稲葉さん、板倉さん、橋本さんについでこれで4人目だ。
潜水艦の生存率が低かったことがこのような潜水艦乗員の手記を読む機会が少なくなる最大の原因だろう。

この本を読んで印象に残ったことは、
艦尾の魚雷発射管からの攻撃が非常に難しいこと。
これが日本潜水艦より後部発射管が無くなってゆく原因となったのだろうが、本書でも触れられているとおり独潜水艦は後部の魚雷発射管を活用している。
また米潜水艦も敵からの離脱時などに後部発射管を使用しているのだ。
これは、どうした事なのだろうか。だが、離脱時に使用するといっても、それは対潜能力の低い日本軍相手だからこそ有効なのであって、対戦能力の高い連合国軍に対し離脱時に魚雷攻撃を行うのは自殺行為なのかもしれない。
ナウル輸送作戦に約一ヶ月もの時間がかかっていること。
一ヶ月もかかってわずかな補給物資を輸送するなど無駄なことをすると思える。
しかし、ナウルでは相当多数の餓死、病死者が出ている。
この輸送作戦でいくばくかの生命が助かったであろうことを考えると。この艦長にとり最大の成果をあげたのは、この作戦だったのかもしれない。
潜水艦を輸送作戦に使うことなど愚の骨頂だとは、日米双方の潜水艦関係者から聞かれるが、泥縄式でも必要な事だったのだ。

書名 クレギオン3 アンクスの海賊
著者 野尻抱介
出版 富士見ファンタジア文庫
分野 YA

前2作が楽しめたんだけれど、でもイマイチといった感じだったのだが。これはよかった。
海賊に捕まってうまく立ち回って放免されたり、ちょっと都合よすぎないかと思うんだけれども、主人公達が死んじゃっては、話が終わってしまう。
気にしない様にしよう。
この海賊の親玉が面白いキャラクターだった。
今回の舞台になる太陽系では、巨大惑星が無いため、彗星が多量に飛び回っている、彗星の軌道を研究する元学者さんだったこの海賊の親分、彗星の軌道が分かって何になると言われて怒り、大学のスーパーコンピューターと宇宙船を盗みだし。
彗星の軌道が正確に分かることを利用して神出鬼没の宇宙海賊になってしまったもの。
この人もう出てこないのかな

書名 タウ・ゼロ
著者 ポール・アンダースン
出版 創元SF文庫
分野 SF

ホームページの書評を読んで猛烈に読みたくなって。一気に読んでしまった。
危なかった、今まで宇宙船が止まらなくなるハードSFと言っても、いまいち食指が動かず、ヘタをすると読まずに死んでいたかもしれない。

書名 グアム島玉砕戦記
著者 佐藤和正
出版 光人社NF文庫
分野 軍事

グアム島より生還した数人よりインタビューしてそれをノンフィクション小説化したもの。
ノンフィクション小説となっているから多分会話部分などが脚色されているのだろう。
また視点がわずか数人より見たグアム島戦記であり。
グアム島の戦史としては、戦闘の推移が見えにくいが、仕方ないだろう。
全体の構成としては、冒頭にグアム島での虐殺事件、生き残るために殺人を犯して人を食べた事件が書かれ。
次にグアム島の戦闘。そして戦闘終結後のサバイバル記となっている。
重点が置かれているのは最後のサバイバル部である。
読んでいて地獄絵図という単語が2回ほど頭に浮かんだのだが、読後感は以外と晴れやか(さわやか とは違う)だ。
それは本書が生存者からのインタビューより構成されているからだろう。
捕虜になることがタブーとなっていた旧日本軍において、孤島での戦いに敗れる事は確実な死を意味していた。
それだけに、苦悩の末捕虜になる事を決断した者達の、命ながらえた喜びが伝わって来た。

書名 時果つるところ
著者 エドモンド・ハミルトン
出版 早川書房
分野 SF

核戦争の核爆発で町ごと未来の地球へ飛ばされた主人公達の話。
太陽は赤色巨星と化し、地球は寒冷化していた。未来の地球人の住んでいたドーム都市は見つかるが、そこには人影はなかった。
さあ、どうやって生き残るか。

悪くは無いがことさら面白くもなかった。こういった虚無感の感じられる話は好きなはずなのだが、理由を考えるに主人公や町の住人達の考える事が、自分なら考える事とかなり相違があったからではないだろうか。
でも本当に悪い話ではない。

書名 飛翔せよ、閃光の虚空へ
著者 キャサリン・アサロ
出版 ハヤカワ文庫SF
分野 SF

ここ数年早川文庫より出版される、知らない著者の本はほとんど読んでいないのだけれども、SFマガジン掲載の同一著者の短編が面白かったので、待ちかねる様にして買って読んでみた。
解説読むまで気づかなかったのだけれども、物語の骨子は『ロミオとジュリエット』。
だけれども、この話の面白さはそこにあるのではなく、波瀾万丈のアクション活劇にあると思う。

書名 星界の紋章III
著者 森岡浩之
出版 ハヤカワ文庫JA
分野 SF

『飛翔せよ、閃光の虚空へ』が面白かったので、解説で言及されていた星界の紋章も読んでみる事にした。以前I巻の終了近くまで読んでそのままにしてあったのだけれども、どうもII巻まで読み終わっていたらしい。
1冊読む時間を損してしまった。
御都合主義が鼻につく場合と鼻につかない場合があって。
前者の例が『レッドサン・ブラッククロス』や『戦士志願』本書の場合後者にあたる(というか、あきらめてるのかもしれない)。
表紙のヒロインの絵柄は自分の好みでは無いので、いまいちヒロインに魅力を感じなかったが、楽しめた。

書名 プリズム
著者 神林長平
出版 ハヤカワ文庫JA
分野 SF

砂を噛む様な気持ちで読んだ。
読み終わってもどんな話なのかわからない。
『飛翔せよ、閃光の虚空へ』や『星界の紋章』の様な娯楽SFだけ楽しんで読んで、この本を楽しめない様ではSF読みとして、情けない様な気がするが、作者が何に重点を置いて書いたのか、さっぱりわからなかった。
でもラストは悪くない。

書名 朝日新聞が伝えたプロ野球
著者 西村欣也
出版 小学館文庫
分野 スポーツノンフィクション

つまらなかった。同じ様にコラムを集めて本にした物でも、アメリカの2人のエンジェルが書いた本は面白かったのに。
(2001/10/23追記、2人のエンジェルではなく1人のエンジェルだったかもしれない、ロジャー・エンジェルの2冊のエッセイを別人が書いたものと勘違いしている可能性が大きいです。)

書名 回想ビルマ作戦
著者 野口省己
出版 光人社
分野 軍事

18年初期より、五六師団、三三軍の参謀を歴任した著者の回想。
著者には失礼ながら。階級の高い者の回想録は多少なりとも都合の悪い部分を省いたり誤魔化したりする部分があるかもしれないので、いろいろな本を読まねば、書いてある事の精度に対する判断が付きにくい。
自分は日本陸軍作戦に関しての知識が乏しいので、この本に対する判断は保留にせざるをえない。また、この著者が述べている事に対しては、自分なりに異論があるのだが、著者の考えと自分の考えは、異なって当然でありここでは書かない。

書名 クレギオン4 サリバン家のお引越し
著者 野尻抱介
出版 富士見ファンタジア文庫
分野 YA

これは手放しで面白かったと言える。題名からつまらなそうだと先入観を持っていたが、これまで読んだクレギオンシリーズ4冊のうちでベストだ。
それどころかスペース・オペラとしては最近読んだ『飛翔せよ、閃光の虚空へ』や『星界の紋章』より面白かった。
ただ引越し中にク****に巻き込まれるのだが、ク****を起こす理由が希薄と言うか、説得力が無い、この程度の事でク****が起こってもらっては恐すぎる。

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